立冬ですって
首元がすーっと寒くて、肩をぐっと上げて、袖に手をしまいこんで、お腹に力を入れて。
「富士山頂で初冠雪が観測されました」
とラジオから聴こえて、どおりで、と思う。
鼻が冷たいもの。
入れ替わり立ち替わり取引先の対応をして、ついていたラジオからは聞き慣れた地名と聞いたことのある声がよそいきみたいな口調で聞こえた。
ん?ヒロさん(仮)?
「…そうなんです、500種類以上はありまして…すべて手作業で…えぇ、ハッハッハ!ありがとうございます、えぇ、コレクターの方もいらして…」
ハッハッハ! がもう、ヒロさんの笑い方だ。
あの豪快でくったくない顔まで思い浮かぶ。耳のつぶれたガタイのいい彼はけれどもやっぱり腰が低くて、ラジオから聴く声もそうだった。
工房前に車がとまる。
「誰だろうね」
たいていは誰かって見当がつくタイミング。
この仕事の搬出、あの電話の搬入、この時間にくるのはきっと、あるいは、本当にはて誰だろう。
「ちわーっす」
「はい、こんにちはー」
「さぁむいっすねー」
「ホントよねー、ストーブつけたよー」
「うちも今朝から暖房!風邪ひきそうっすわー」
白生地の陶器がつまった重い重いサンテナを、
キュッと前掛けを締めて「お!」とか「ふっ!」とか言いながら運ぶおっちゃんたちと、挨拶みたいな世間話をしたりして。
午後からヒロさんが来た。
「ラジオ聴きましたよ!!」
「まじすか!はずかしっ!ってか、あれ昨日急に決まったんすよー、電話かかってきて。」
「そんな急に!?でもめっちゃヒロさんでした」
「ハッハッハ!」
「そう、それ!笑」
気分良くヒロさんは、いつもいただくばかりなんで、と私たちにうちの自販機から飲み物を奢ってくださった。
先々週に切り替わったばかりの「あったかーい」のボタンのミルクココアをいただいた。
クルクルとモンシロチョウが舞って、ときおりふく風がもう冷たさを運んで、下校時刻の小学生が長袖長ズボンになって少しほっぺもふっくらしていた。
今夜は、ごぼうとレンコンを買い足して、豚汁を煮込む。
「柊さんの好きな豚汁にしたよ」
ずいぶんと私のことを好いてくれていたあの子は、ちいさな秋を可愛らしく切りとって写しているだろうか。冬の似合う子だった。
一度も会うことなく、メッセージだけで、だけれども私の好みも、ささいな機嫌すら感じとっていた加奈子さん。
こう寒さを感じたとたん、
いろいろが思い出されて、
きれいな三日月をつい見上げてしまう。
それはそうと。
そうなると。
文字や、声や、姿形やが、
私自身一致しているかどうかがはなはだ疑問だ。