ロマンなんて知らない。
もぞもぞとベッドから出て、そそくさと下着をつけて、小さな冷蔵庫からカタンとÉvianのボトルを取り出す。
目を開けて、美味しそうにゴクゴクと喉を鳴らす彼を見ていたら、私もずいぶん喉が渇いていることに気がついて、そのままベッドから出る。
「私も。」
彼の飲みかけを、彼の目の前で、ゴクゴクと。
足は肩幅にひらき、腰に手さえあてて、牛乳のCMみたいに。
「着ないの?」
「どこにあるかわからないもの。どうしてあなたは着たの?どうせまた脱ぐのに」
と、飲みかけのÉvianを返すと、目じりをクシャッとして笑っている。
「またするの?」
「するでしょう?」
布団は邪魔だけれど、マットレスだけじゃなんだか体育のマット運動みたいで、やっぱり私は布団を引き寄せる。噛んだり、手繰り寄せたり、声を押し殺したりするには、手の届くところにあって欲しいもの。
大きく息を吐いて、成し遂げた彼は清々しく
「もーだめだー」
と、隣に仰向けになって。
「よくがんばりました」
と、私もしびれた指で彼を愛しく褒めたくなる。
「ねぇ、もしもね。もしも、服を着なくてもいい世の中だったら、どうする?」
「みんな裸ってこと?そりゃカオスだな」
二人で上手に長方形の縦と横を見つけ出した布団におさまって、大の字になった彼の肩に頭を乗せる。腕まくらは、腕じゃなくて、肩に頭を乗せるんだと教わってからは、終わったあとはこうするものだと知っている。
「たとえば、ダビデ像とか、ヴィーナスの誕生とかさ。あんなふうに堂々と裸だったら、欲情したりしないのかな。」
「確かに。隠されてるから『見たい』ってのもあるかもな。『脱がせたい』とかさ」
「脱がせたいんだ。」
「隠されてるから中が見たい、とかさ。袋とじをこっそり見る、男のロマンってやつだよ」
「ロマンねぇ」
クシャッと目じりでまた笑って、私の頭ごと揺れる。
「このまま服着たくないな」
「うん…。え、俺、もう無理だぞ?」
クククッと笑って、このまま、あと少しだけ、
下着はつけないで。裸のままで。
ロマンなんて付き合ってられない。
こんなにも開けっぴろげておきながら、健やかそうにスヤスヤ眠る彼の言う、ロマンなんて。
いったい私の下着は、
今どこにあるんだろ。
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