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イベントの日程を間違えるというあるある

 ビックサイトの有名な逆三角が二つ繋がった建物を前に、私は途方に暮れた。駅からビックサイトに行くまでの道中、たくさんの人が私と反対方向へ向かう、帰途についているのは全く気にならなかった。もともとイベントの終わり際1時間ほどに駆け込むつもりだったし、ビックサイトは複数の会場を内包しているから、このスーツの人たちは別館の企業系イベントの参加者だったんだろう、休日返上で大変だなぁ……などと合点がいってたからだ。
 そんな緩やかな人の流れに逆行し、会場が見えたため入場券を確認しようとアプリを開いたときに見えた『開場時間までお待ちください』の文字。

 お目当てのイベントの一週間前に到着してしまった私は、その時だけはあわてんぼうのサンタクロースの先駆けであった。

 まぁ、遅刻サンタクロースでなかっただけ良かった。また来れば良いのだから。来週を肝に銘じた私は、今に思い至る。これからどうしよう。
 5分10分で着ける場所ではないビックサイトからこのまま何もせず帰宅するのはなんだか癪に障る。だからといって、おそらく終わりかけであろうビックサイトの展示会やイベントに当日券で殴り込みに行くのはさすがに気が引けるし、完全に私服の私がビジネスマン達の商談の場に入っていくのはさすがに空気が読めていない。
 周囲で面白そうなところを探してみたが、劇団四季の劇場や水の科学館、日本科学未来館などあるにはあるが、やはり時間が間に合わない。
 せめてご飯だけでも食べて帰ろうかと思って駅周辺を思い返すが、コンビニ以外にあったのは、コミケで有名なベローチェかサイゼリヤしか覚えていない。ベローチェで夕飯は物足りないし、サイゼリヤ大好きだけれど、ここまで来てわざわざサイゼリヤ……?(生ハムでフォッカチオを巻いて食べるの最高)
 できることが思いつかない。しかしこのまま帰るだけは、ただ自分のミスで時間だのなんだのを失ってしまったという罪悪感と無力感が身体にしみるだけ。どうする、どうする俺……!? と、手元のカードを睨みつけていたところ、ふと、グーグルマップの左下に『夢の大橋』などという大仰な名前の橋を見つけた。行くか。私はビックサイトを後にした。

 出発地点は石と光の広場。これまた素敵な名前がついている。きれいに整備された広い遊歩道を歩き始める。同じように遊歩道を歩いている人間は2・3組くらいだ。土曜日の夕方は賑わいを実感するには遅すぎるのか、建物も道路も広すぎて相対的に人間が少なく見えるだけなのかは分からない。
 歩くにつれて、日がどんどんと落ちていく。遊歩道を挟む建物の灯りだけでなく遊歩道の電灯も点き、だれもいない芝生の広場を照らす。石の道から外れ、ただ通り過ぎているだけというような顔をしながら柔らかい芝生の感触を楽しむ。なんだかわるいことをしているような気分になるが、先ほどの罪悪感とは違って心地よいものだった。

 歩いている人間は少ないといったが、いないわけではないのが面白い。何かを話しながら歩く男女の二人や散歩をしているらしきペットの犬とその飼い主。
 周囲を見回すが、商業施設っぽい建物やホテルらしき建物しか見当たらない。私が知らないだけで、実は住宅もたくさんあるのだろうか。それとも自宅から離れたところまで来て散歩することもあるのだろうか。

 そういえば、もうここは東京湾から数百mしか離れていない場所なのに、潮の香りがしない。たしかにこの橋から海までの間に大きな建物があって海を眺めることもできなさそうなので、数百mってそんな近くないんだなと思ったが、香りも漂って来ないのは意外だった。そんな繊細なものだったんだ、あれ。

 夢の大橋についた。横幅がとても広い橋だ。橋自体が華やかに煌びやかにライトアップがされているわけではない。しかし、大きな柱や欄干に照明が付いており、煌々と照らされた部分とそれでも照らしきれない影の部分が共存する橋だ。大橋の真ん中は影の部分なのに、なんとなく、余白が大きすぎて寄る辺が無くて、ど真ん中を歩けない。橋の端に寄って橋を渡る。欄干はしっかり高いけど、正直乗り越えようと思ったら乗り越えられるな……なんて思いながら橋の下を覗き込み、そして顔を上げた。

コンクリートジャングルも 少し離れれば空は広い

 良いものを見れた。居心地の悪さを忘れ、いい気分で橋を渡りきると、どこからか虫の鳴き声が聞こえた。最初は空耳か、もしくは秋の風情を味わってもらうためにスピーカーが設置されているのかと思った(※この時11月後半)。だってコンクリートジャングルの埋め立て地だし……。しかし探してみるとスピーカーなどは無く、駐車場に続く階段の傍のちょっとした緑地や花壇など、いろんなところに虫たちも息づいているようだ。
 お前ら、おるんやな……気づいていないだけで、そっか……と芝生と植木と見つけられていないけどいるだろう虫にしんみりしていると、視界の端に金属質な反射が見えた。
 もしかして、やはりスピーカーだったかこの声は!? 踊らされたんか私は!? とそちらを見ると、そこにあったのはポイ捨てされた空き缶だった。しかも1個だけじゃない。パッと見つけられただけで4個もあった。





 

不愉快~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!

こちとらしんみり浸ってたのによぉ~~!!!

なんで全部缶コーヒーなんだよやめろや私もコーヒー好きなのによぉ~~~~~!!!!!!


 怒りに任せて空き缶を全部拾い近くのごみ箱に突っ込んだ。

ほんの5mくらいの場所にゴミ箱あるじゃんかよ~~~~~!!!!!!





東京テレポート駅のプロムナードにしぶといやつがいた。じゃあまあ全部ええわ。

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