【書評】次世代コミュニケーションプランニング
令和です。まだ僕のMacは令和を1発で変換できず、時代に取り残されていますがそれでも次の時代はやってきます。
平成に置いていきたい厄や地雷の如き思い出も数ある一方で、年号が変わっても語り継がれるべき名著も多く存在します。高広伯彦さんの「次世代コミュニケーションプランニング」もそのうちの一冊だと思います。
初版が登場したのが2012年。まだ書籍の中にはInstagramというプラットフォームすら出てきませんが、それでもこの本は今デジタルを活用しマーケティングを行う人にとっては必須で抑えるべき本であると言えるでしょう。
もちろんその内容の全編が現代人にとって抑えるべきポイントに他ならないのだが、特に僕が気になったポイントを抜粋して紹介させていただきます。
1.ユーザーは巻き込むものではない。巻き込まれるもの。
この本の特徴かつ重要なポイントは徹頭徹尾ユーザー、ファン目線で打ち手の評価を考えていることであると思う。
ユーザーが企業・ブランドが生み出した商品、プロモーションをどのように活用し、どのように日常に取り入れるか?を事例を交えて現象として紹介している。
その時の重要な視点は、企業やブランドがユーザーを巻き込んでトレンド、時流をつくるのではなく、ユーザー達のトレンド、時流をいかに捉えて、企業やブランドはうまく巻き込まれるべきか?というものである。
今でこそインフルエンサーを筆頭に、個人が力を持つ時代であるのでこの視点は斬新ではないかもしれない。しかし、この視点が重要である事が既に令和から7年も前に説かれていたのである。そしてこの視点は、塗り替えられるどころか、今もなお重要味が増すばかりである。
2.理論・メソッドを下支える事例の重要性
これは書籍の紹介の本筋からはずれるが、僕が印象に残った2つめのポイントは、この書籍ではひとつの事例が反復的に章をまたいで登場する。
一番多く登場した事例はポケベルの事例ではなかろうか。
ポケベルは元来はB2B向けに活用されていたことを強調した上で、その活用方法が一部のクラスタ(書籍ではトライブ、と表現されている)が当て字を用いたコミュニケーションで用いられていた事を、ユーザー起点で文化・時流を生んだ例としてなんども用いている。
この、反復的にひとつの例を書籍で登場されるのはとても効果的であるように思える。印象に残りやすいし、自分の理論・メソッドを下支える大きな基盤として作用させる事ができる。理論を立証する「これ!」という事例を用意しておくのは、いざという時に心強い。
3. コミュニケーションを作るよりも、コンテクストを捉える事が先決。
最後に、これからのプランナーに必要なスキル、素養として文脈(コンテクスト)を捉える力の重要性が書かれている。
個人的にもこの力は重要であると思っているし、だからこそソーシャルリスニングのような、この文脈を定量的に立証するアプローチが重要であると考えているのだが、ツールを扱えるだけでは一朝一夕にはこのスキルは身につかないとも考えている。
その理由は、タイトルにも記載した以下の2つのポイントだ。
ファクト:史実を学び、事実を捉える力
まず、ツールを扱えても、今世の中で何が起こっているのか?なぜ起こっているのか?を把握できないと意味がない。
これは、見たものを見たままで鵜呑みにするということではない。例えばネットに広がるフェイクニュースはそのまま拡散するような事はマーケターとしてあってはならないし、これは過去のプロモーション、もっというとこれまで起こってきた事件、事故の歴史から学ばなければならないものだ。
イマジネーション:史実から学び、話題の起源を想像し形成する力
事実を捉えられるだけではコンテクストは読み取れない。なぜそれが起こったか?を考えるには、人はなぜそう思うのか?どうしてこれが共感を生んだのか?あるいは生まなかったのか?を考え、捉えられなければならない。
これを考えられないと、コンテクストをコンテクストのままで活用できない。そのトレンドが生まれた本質を捉えられないと、これを活かしてトレンドに乗り、人々の話題に乗る事は出来ないのだ。
書籍が世に出て7年。人の気持ちを捉えて人の気持ちの流れに乗る取り組みは未だ発展途上だ。奥が深いし、これまでの多くの人が挑み続けている領域だ。だからこそ、過去から学び、その本質を捉えて追いかける事が後続の僕らに求められているタスクであろうなぁ、と感じるのである。