嫌いだった世界の話
ずっと周りを見下す気持ちで歩いていた
奥二重の目は世間に睨みを利かせることが常だった
休み時間が嫌いだった
自由な時間
個性が露見する時間
わたしは、わたしが不定形になって溶けて消えてなくなる前に、なんとか机につなぎとめるのに必死だった 本や落書き、あるいは眠くもないのにただ机に伏せることでやり過ごしたあの時間はとてつもなく長く感じた
教室内を歩くときは最低限の動きを追求した
余計に多く動くことがないように
注目を集める前に席に戻れるように
普段どおりに動くと、立ち上がってから忘れ物にきづくこともしばしばあったので、最大限の効率を求めて考えに考えてから立ち上がったのだった
誰の目にも触れたくなかった
どれほど緊張して毎日を生きていただろうか
歩き方、歌舞伎みたいじゃない?と言われたあの言葉が、
メデューサと呼ばれ囃し立てられたあの感覚が、
どれほど痛かったことか
それらに対して、どれだけの力を使ってなんでもない振りをしていたのだろうか
すべては、自衛だった
弱かったのだ
弱く、弱い自分を守るために
強く完璧な自分像を壊さぬよう表面ばかり取り繕ったのだった
怒りを向けることで人を遠ざけ、弱い内側の部分は見せないようにしていたのだった
誰もその弱さまで見抜いて寄り添う人はいなかった
もしかしたらみんな気づいていたかもしれない
憐れんでいたかもしれない
けれど、何か言葉をかける人はいなかった
私がそうさせなかった
誰にも心を開かなかった
孤高が至高だと思っていた、気高くあろうとした
完璧な自分を演じきろうとし続けた
***
私の今の生活は、この頃の私を救うためにある
慰めてあげなくては前に進めない
まだ私のなかに世間をにらみつけるこの時の私がいる
この子と折り合いをつけなくてはいけない
その目を優しいものにしてあげたい
いい加減に解決したい
早く楽になろうね
***
「前に進むために 理由が必要なら
怒りであれなんであれ 命にふさわしい」
「全部を無駄にした日から 僕は虎視眈々と描いてた
全部が報われる朝を」
熱く生きたわけでも、大きな喪失体験があったわけでもないけど
でもずっと、空っぽだった
ずっと負のエネルギーで生きていた
初めからこうではなかったから、きっとどこかで何かを失ったんだろう
こうなる前はもっと純粋で、世界が優しく見えていたのを覚えている
「道すがら何があった? 傷つけて当然な顔して
そんなに悲しむことなんて無かったのにな
心さえなかったなら」
これだけ現実と距離を置こうとしても、諦念でいっぱいになっても、
きれいに生きようとする心は残っていたことが奇跡だと思う
結局は真っすぐ、美しく生きたいのだ
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