母の行商
不意にみたNETの写真で
外国の方が浅草へ行った
思い出写真のなかに
片足だけの草履
お土産のい草の
あかい鼻緒に値札は
¥4、400
片方だけなら半分か
おもいだしたこと母の行商
田舎の靴屋で
革靴など売れもしないこと
わかっていたはず
誰の入れ知恵だったのか
閑古鳥のお店をたたんで
とうとう唐草の大風呂敷に
下駄や草履や足袋や鼻緒
それらの修理金具紐
千枚通し大小
麦ご飯に梅干しだけの
アルマイトの弁当箱
ぜんぶ包み込んで
僕を連れて山路を歩いた
それで心臓を痛めたがね
坂道ばかり
やすみやすみ
足手まといの僕を
けして叱らなかったね
ときどき小さな台帳に
なにか書き留めてたね
汗をふきふき
かがやいた顔で
あれが俳句だったって
解ったのは
天に召されるまえのとこで
笑いながら
教えてくれたんだよね
やっとの思いで辿り着いた山の上のお家で
あるだけのすり減った
履き物を出してくださって
夢中で鼻緒をいわって
(すげ替えること)
嬉しかったね
昼のお惣菜までよばれて
あのときの母の姿
どれほど可愛かったか
忘れることはない