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冬青の森へ行って音を聴く

夏休みも盆を過ぎる頃には山々に秋の風が渡ってくる。星の美しい寂しげな夜。そんな時僕は懐中電灯抱え、ソヨゴの森にいくんだ。雄のソヨゴと雌のソヨゴは、それぞれに枝を寄せあって葉を鳴らす。苔の土面に天を仰いで大の字になり、葉枝を透かして天の川銀河を渡る。秋の風に吹かれ、かさかさと心地よい響きで揺れて踊る。それらがやがて結実した赤い実はやさしさのしるし。

歳の暮れ、もう空から雪も落ちてきて、辺りが白く薄化粧しそうな朝、屶を腰に結いだ祖父は僕を従えいつかのいき慣れた里山に入る。大きく繁った枝を剪定するように、冬青の枝と、松の枝をいただいて降りる。祖父は松を二本、僕はソヨゴを二本、肩から担いでガサゴソと音をたてつつ、家に帰る。南の大戸の前の結界の芯木とするのだ。祖父と全てを飾り終えたとき、ソヨゴの木に親しみと感謝の気持ちでいっぱいになり暫くおもてを離れられない僕がいた。

覚十お爺と僕


追記
正月十五日小正月、大戸の前の門松、正月飾り一才合切、前の年のお札さまなど、石の田の神さまのまんまえの枯れ田の真ん中に大きな竹をさし、まわり積み上げて燃やす。ソヨゴの枝は天に昇り、やっと呪縛から解放された僕の新年の活動の始まりを知るのだ。

#大場章三
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ソヨゴの木
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