我々が存在しないことを証明してみよう。
更新日:2021年7月18日
こんばんにちは。
@Hinataさんからバトンを受け取り、
42tokyo Advent Calendar 2020の11日目を担当する、2期生のsyoshikaです。
プログラミングのことを呟く予定でしたが、42生が何やら面白そうな企画を持ってきていたので参加することにしました。
アドベントカレンダー?
アドベントカレンダー (Advent calendar) は、クリスマスまでの期間に日数を数えるために使用されるカレンダーである。待降節の期間(イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)に窓を毎日ひとつずつ開けていくカレンダーである。すべての窓を開け終わるとクリスマスを迎えたことになる。
トピックは自由らしいですが、技術的なことはみんなの方が上なので。。。今回のテーマは、「我々が存在しないことの証明」です。大学で学んでいる物理学についてならあんまり知られていなさそうだし、興味を持ってくれるかなと思ったので書いてみようと思います。タイトルでインパクトを与えてやろうって魂胆。怖くないよ。
はじめに
物理学には様々な分野がある。力学、熱力学、電磁気学、統計力学、量子力学などと、たくさん分岐した分野がある。中でも原子物理学というのは20世紀(1901~2000)前半に始まった分野であり、2016年に「ニホニウム」という原子が命名されたことで記憶に新しい。すでに私たちは、厳密ではないが「原子」をざっくり言うと、陽子と電子からできてるみたいなイメージを持っている。だが当時は「原子」というのは全ての物体の最小単位と考えられていた。英語では"atom"、これはラテン語に由来していて、「これ以上分けられないもの」を指す。しかし実験を重ねるにつれて、どうやら「原子」にはさらなる内部構造があるのではないかと噂され、最終的に「陰極線の実験」で電子の存在が明らかになった。ではいつ頃から知られるようになったのだろうか、また知っていると何が面白いのか。以上を踏まえた上で、いよいよ「原子」とは一体何者なのかを、古典物理学で理解する。みなさんは科学者になったつもりで一緒に原子について深掘りしていただきたい。
〜前説〜
20世紀初頭、科学者たちは、「物理学は完成している。もうやることない。基礎的なことはわかっているから、後は現実の細々とした複雑な現象に今までの理論を当てはめていけばよい。」という風に考えていた。それまでには、いわゆる古典物理学というものができていた。古典物理学とは、物が落下したり、磁石がくっつくといったような、マクロ的な現象を説明する物理学、みたいなイメージ(厳密には19世紀までの物理学という人もいれば、相対論までという人もいる)。科学者たちは、実験によって発見された「原子」というものをこれまでの力学、電磁気学を用いて証明しようと試みる。
〜電磁気学〜
まず最初に電磁気学からアプローチしていく。電磁気学を完成させたマクスウェルは、以下のような重要な結論を提唱した。
外的な電場と磁場の作用のもとで、加速度運動をする荷電粒子は電磁波(光)を放出する。
(ブラウザバックしないで。怒らないで。大丈夫。式はもちろん無視してもらって構わないですし、用語の意味もざっくりで大丈夫です。)
要するに、空気中に電子が加速度運動すると、電子はエネルギーを放出する、ということ。人間が見える「光」というものも、実は「電磁波」。電磁波のおよそ380 nm〜780 nm(赤色〜紫色)しか、人は感知できないだけで、犬は青と黄色しか認識できず、蝶々には紫外線が見えている。動物によって見える範囲(可視光線)は異なる。話が逸れたが、その電磁波のエネルギーがどのくらいかは、ラーモアの公式によって導出される。
ここでは、ラザフォードの原子模型で水素原子を一例に考えてみる。ラザフォードの原子模型とは、太陽系のようなイメージ。中心に巨大な質量を持った太陽があり、その周りを地球とか金星とかがまわっているような関係。
なので中心に陽子、その周りに電子が回っている状態。(ちなみに太陽は、太陽系で一番大きい惑星である木星よりも2000倍ほど重い。偶然にも陽子と電子もそのくらいの質量比で、陽子は電子の2000倍ほど重い。)
電子に働く力はクーロン力であり、ベクトル表記で示す。
ここでラザフォードの原子模型は、電子が等速円運動、すなわち等加速度運動をしていると仮定しているため、マクスウェルの電磁気学の法則から電子が電磁波を放出しながら運動していることとなる。つまり、エネルギーを捨てながら運動しなくてはならないため、電子が運動している半径が徐々に小さくなっていくことがわかる。ここが重要。
運動方程式を立てる。
π(=3.141592....)は円周率。
ε0(= 8.854×10^-12 A2·s2·N−1·m−2)は真空透磁率。
c(=299792458 m/s)は光速。
m(=9.10938356 × 10^-31 kg)は質量。
rは半径。
これを⓵とする。
〜力学〜
ここでは、電子の力学的エネルギー(どんくらい激しいエネルギーを持っているか)を考える。力学的エネルギーは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和であり、それをdE/dtの微分形に変形してみる。
これを⓶式とする。
これで、力学的エネルギーの時間変化を2通り(⓵式,⓶式)で計算できたことになる。あとは、それぞれを等式で結んで時間(t)を導出するだけ。
〜これまでのまとめ〜
話を整理すると、
1. 等加速度運動してエネルギーを放出する。
2. エネルギーが減っているため、大きく円運動ができなくなり、運動している電子の半径軌道は、徐々に短くなっていく。
3. これの繰り返し。時間が経ち、電磁波を放出するたびに半径が変わる。
4. エネルギーが減少し、最終的に陽子までたどり着き、原子が消失する。
電子は時間が経つと、陽子に近づいていくことがわかった。
ではその陽子に到達する時間を求めてみたい。
これらは変数分離形の微分方程式となり、計算が容易。定数部分をまとめてAとおいたりすると良くまとまる。
どのくらいの時間で落下してゆくだろうか。1時間.... ? 1分....?1秒....?
〜だーれもいない〜
答えは..... 1.6✖️10^(-11)(s) (=0.000000000016(秒))
めちゃ短い。はやすぎてイメージが湧かない。しかし重要なのは落下する時間の早さではない。これが一体何を示しているというと、今、我々が存在しないことを証明してしまったのである。なぜなら我々の体は全て原子で構成されているため、ひとたび原子をつくったら0.000000000016秒で電子が落下して崩壊、すなわち世の中に原子が存在しないことを証明してしまったのである。僕が8月Piscineでみた仲間たちは、どうやらいるように見えてイリュージョンだったらしい。
それじゃあだめじゃん...
これが20世紀始まりの「物理学」が完成していると思われ、新たに実験で原子が観測され、その原子をそれまでの物理(古典物理学)で理解しようとトライした結果である。我々が存在しないことが正しいのか、、、それとも式が間違っているのか、、、。しかし物理学も自然科学の内なので、我々が存在するというのも観測事実であり、観測事実に反する理論はガリレオの精神によって理論を是正しなければならない。つまり、「原子の世界には力学や電磁気学をそのまま当てはめてはいけない」ということがわかった。原子単位の世界では、不思議なことにそれまでの物理学が通用しない。なぜなら秒で私たちは崩壊してないから。
〜量子力学の誕生〜
原子の世界には新たな物理学が必要となり物理学者たちの苦闘が始まった。最初にボーアがチャレンジし、理論を批判され結果、1925年にハイゼンベルクという人物がそれを解決していった。その分野が量子力学と呼ばれる分野である(現在私が大学で学んでいる内容)。有名どころでいえば、シュレディンガーの猫というのを聞いたことがあるのではないだろうか。箱に入った猫が、死んでいる状態と生きている状態が混在するという摩訶不思議なお話。他にも、「壁に体当たりをしていたらすり抜けられること可能性がある」「水が入っている倒れたペットボトルの中身が、どちらか一方に勝手に動くことがある」。これらは確率が0でないことが証明されている(無論、極限に0に近い)。どちらも原子の安定性に関わっている。
おわりに
ここまできたみなさんは、古典物理学を用いて自分が存在しないことを式で証明できるようになりましたね()。僕は去年のノートを掘り返して必死に思い出してました。大学でこれを学んだとき、すごい感動して物理学科でよかったなーと思いました。理系でもこういった時代の流れみたいなのがあると面白いですよね。解明されてないことって意外に多すぎ。現在学んでいる量子力学は好きですが、最近なに言ってるのか分かんなくなってきました。
明日は、アドベントカレンダーで唯一42Tokyoのstaffである「nop」さんにバトンを渡します。テーマは
「42Tokyoの生徒たちの不思議なコミット履歴集」です。
チラ見しましたが、生徒の苦しみもがいている様子がひしひしと残されていました。お楽しみに?
最後にキツネさん企画していただいてありがとうございます。
以上、我々が存在しないことの証明でした。
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