いい感じのクラスメイトと幼馴染の両方に言い寄られる話 ①

 俺には幼馴染がいる。そいつは小学生の時、隣の家に引っ越してきた。
俺の家に挨拶しにきたとき、そいつは母親と2人きりで来た。
顔の小ささに似合わない大きな黒縁メガネと2つしばりの大人しそうなヤツ。
片親というわけではなく、父親と2人で家を訪れたこともあった。
しかし俺はそいつが両親と3人で外を歩いているところを見たことがない。当時はなんとなく「そういう家庭なんだな」と認識していたが、正直俺にはよくわからないし、無関係にそいつと仲良くした。
学校でも休日でも交友の輪に入れてやり、クラスに馴染めるように計らった。教室で「お似合いカップル」とからかわれることもあったが関係ない。
みんな仲良くあればそれでいい、そう思っていたからだ。

そいつはよく静かに笑うやつだった。とにかく笑う。
俺や他のクラスメイトが何を言っても朗らかに笑う。
そいつが口を開けて笑っているところを俺は見たことがない。

 そいつが引っ越してきて2ヶ月くらい経った時のことだ。
隣の家からとんでもない怒声が聞こえてきた。
男女の声でそいつの両親だとすぐにわかった。程なくして犬の鳴き声、花瓶か皿かが割れる音、女児の泣き声が聞こえ、女児の泣き声は徐々に俺の家に近づきつつあった。
玄関のチャイムが鳴り、俺は玄関に飛び出した。

「パパがいなくなっちゃうかもしれない」

 そいつは泣きながら俺の家の玄関でうずくまりわんわん泣いた。
いつも朗らかに笑うそいつの泣き顔を初めて見た。
助けてやりたい。でもどうしようもない。
俺の両親は「よその家の問題だから」と言って仲裁に入ることはなかった。
眼前で泣きわめく同い年の女の子を見て強く感情が動かされた。

     俺が守らないと     そう思った。

 更に1ヶ月ほど経ち、そいつの家から父親が出ていった。
あとから聞いた話だがそいつの父親はずっと昔から不倫をしていたら行く、両親の不仲の原因であったそうだ。そして先月、とうとう2人の間に摩擦が起こってしまい離婚する運びになったそうだ。
掛ける言葉がなかった。内心、親権が母親でまだマシだと思ったが、あの時のそいつの泣いた姿を思い出して、そんな考えはすぐに霧散した。

 件の離婚騒動後、あまり笑わなくなったそいつは学校でも輪に入ることがなくなった。
ただ今までよりも俺によく構うようになった。
朝は毎日起こしに来たり、放課後はいつまでも俺を待ち、帰宅後はずっとオレの部屋に居座っていた。
あの騒動の日に優しくされたから、というのが原因かもしれないし違うかもしれないがとにかく一緒にいる時間が増えた。そいつに対しての下心など何一つなかった故に戸惑ったが、2人だけでいるとき、たまに見せる笑顔に安心した。

 そいつに変化が起こったのは間違いなく中学3年生の頃だと思う。
ずっとかけていた黒縁眼鏡をやめ、結んでいた髪をほどき、明るく振る舞うようになった。
垢抜け、と言うやつなのだろうか。最初はクラスの奴らも戸惑っていたが、すぐにクラスの人気を獲得した。

 怖かった。

 みるみるうちに変貌していくそいつは俺にとって別人のように映った。
もう俺の前だけで朗らかに笑うそいつ、ではなくなった。
そして気づいた。もう俺が守らなくてもいいお前になったんだな、と。

しかしその後そいつと疎遠になったかというとそういうわけでもない。
相変わらず朝は起こしに来るし、放課後は一緒に変える、帰宅後は夜中までオレの部屋でダラダラする。
形式は変わらない、しかし内心違和感を感じていた俺は、とても不愉快に感じた。

 そして高校入学。そいつは当然のように俺と同じ進路を歩んだ。
俺からそいつに直接進路を伝えることはなかったが、どうやら友達づて、あるいは俺の親からのつてで情報を得たらしい。


1年経ってもこの違和感と不愉快さは消えないでいる。
おれは完全に幼馴染との接し方がわからなくなっていた。

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「…と…ると……ねぇ…はるとってばぁ」

朝、からだを揺さぶられる感覚で脳が覚醒していく。
カーテンの隙間から太陽の暖かな光が差し込んでいる。

目を覚まし、からだを起こすとそこには黒髪ロングの見慣れた女子中学生、いや今日からは女子高生だったか。新しい制服に身を包んだそいつがベット脇に腰を下ろしていた。

「ふふっ おはよう、晴人」

もう何百回も見た光景。
そいつ、つまりは幼馴染である。

「おはよう、瑛麻」

どうか今日も不自然な会話になりませんように、と内心願った。

4月、春の暖かな風と桜に迎えられ
俺、佐々木晴人と幼馴染、聖澤瑛麻の新しい高校生活が幕を開ける。




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