機械島の命運
「機械島くん」
「はい。なんでしょう」
「きみは運命を信じるかね」
「ええ、信じますよ」
「運命なるものは存在すると」
「はい。存在します」
「ほう。してその根拠は?」
「人間というものは刹那的に取捨選択をくり返して生きています。その時々に選択した行動というのは単発ではありますがその実、連続しており終わりというものがありません。連続した無数の点はやがて線になります。断片的と思われる行動が、それを下敷きとした選択肢を出現させ、それらが途切れることなく繋がっていくことで、一つの糸のようになるのです。この糸は伸び続け切れることがありませんし、糊でまったく別の糸をくっつけることも不可能でしょう。つまり、人生に運命以外の道は存在しないのです」
機械島の見解を聞いた博士はそれを反芻するように、天井を見上げながらふらりとその場で一周してまた機械島のほうへと向き直った。
「ほうなるほど。機械島くん、きみの言いたいことはわかったよ」博士はそう言うと、シワの寄った白衣のポケットからおもむろに黒い拳銃を取り出し、銃口を機械島へと向けた。
「機械島くん。これも運命だと思うかね」博士は問うた。
しばしの沈黙の後、機械島は口を開いた。
「ええ。思います」
機械島が最後の一語を発し終わった刹那、けたたましい音が室内を振動させた。その音が駆け巡り終わる間もなく、機械島はコンクリートの床へと倒れ込んだ。機械島の白衣はこんこんと湧き出る彼の血でぐっしょりと暗く濡れていた。
博士は死体に一瞥することもなく、部屋をあとにした。
隣室へと移った博士は自分のデスクへと歩み寄った。ふと、隣接した機械島のデスクが視線に入る。博士は何の気なしに機械島のデスクの一番上の抽斗をガラリと引いてみた。
その中には黒の毛筆で『遺書』と書かれた白い封筒だけが安置されたように置かれていた。
博士はわずかに、口の端を吊り上げた。
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