ラーメン屋にて
とあるラーメン屋さんでの話。
僕は今年に入ってから鼻の調子が悪く匂いがしにくい鼻であった。結果的に副鼻腔炎ということで手術をして、鼻の匂いが戻ったのだ。
匂いが戻って良かったのは、やはり食事だ。
匂いがあるとないとでは、飯のうまさがまるで違う。
まず食べたいと思ったのはラーメンでさんざんラーメンを食べ歩いた。
そのうちの一つに、よく行く好きな味噌ラーメン屋さんがあって、ある日の寄席の帰りに寄ろうと思った。寄席から電車で行けば近いのだが、今日は歩いてお腹をすかせよう。きっと、そのほうが美味しいはずだ。
僕はルンルン気分で40分ほど歩き、店へ着いた。
だが、
臨時休業。
こういう時に限って‥
こういうことが、時折起こる。
調べると、10月上旬には復活するらしいとのこと。僕は、その日まで待ち焦がれていた。醤油ラーメンを食べたり、豚骨を食べたり、日に日に、味噌ラーメンが恋しくなる。
10月になり、やっとだ!
念のため、調べてみる。
臨時休業。
なんでよ。
どうしてよ。
それから何日経っても、臨時休業。
いつまで待てばいいのだ。
そうだ。そこは別に何店舗かあった。
調べてみると、池袋にある。
しかも、自分が行っていた店より食べログの評価が高い。期待できる!
というわけで昨日、寄席終わりにそのラーメン屋さんに行ってきたのだ。
行ってみると、大行列である。
食券を買って30分ほど並び、ようやく座ることができた。カウンターからは、厨房の様子がよく見える。
太っちょのおじちゃまが中華鍋を振っている。そこは、炒めた野菜にスープを入れて味噌を溶かしていく作り方だ。
太っちょおじちゃまは見るからに美味しいラーメンを作りそうな見た目。白いタオルを頭に巻いているというラーメン屋のオールドスタイル。ラーメンを出す時も、
「お熱いのでお気をつけください!」
であるとか、
「洗い物いくよー!」
と、この人が中心となって店を回しているのだ。良いじゃないか。これは期待を超えてくるだろう。
さあ、おじちゃまよ。
俺のラーメンを作ってくれ!
と思っていたら、いつの間にかおじちゃまの姿がない。
おい、どこ行った。おじちゃま。
俺のラーメンどうすんだよ。
目の前には20代の兄ちゃんが2人でお喋りしている。おじちゃま。兄ちゃん2人がお喋りしてるよ。
早く戻って店の活気を戻してよ、おじちゃま。
おーい、どこにいるんだ。おじちゃま。お腹空いたよ、おじちゃま。
その時だ。兄ちゃんの1人がおもむろに中華鍋を持ち始めた。
おじちゃま‥
あなたがいないせいで、お喋り兄ちゃんが中華鍋持ち始めたんだけど。
周りを見る。
みんなラーメン食ってる。その兄ちゃんがつくるラーメンは確実に俺のラーメンじゃん。
スープが同じでも、味噌が同じでも、同じように野菜を炒めても、やる人によって味が変わるのだ。俺はおじちゃまのラーメンが食べたかった。
中華鍋のコンロに火がついた。鍋をつつんでしまうほどの火の量。そこに大量のもやしが投入される。お喋り兄ちゃんが鍋を振り始めた。
シャン!シャン!シャン!シャン!
僕は20代前半に、居酒屋でバイトをしていた。厨房にいたこともあり、中華鍋を振ったこともあるから分かる。
この兄ちゃん‥
できる
そこから手際よく、調味料を入れて行く。
早い。
効率がいい。
シャン!シャン!シャン!シャン!
スープが中華鍋に入る。
ジュワ〜〜
さらに、もやしを入れる。キャベツ、ニラを入れる。しばらく煮詰めて、またもやしを入れる。そして、味噌を溶かす。泡立て機を手に持ち、クルクル回して味噌を溶かしていく。
味見をする。
不思議なものだ。料理を作っている人の味見をしている姿で、不思議とその料理のレベルがわかる気がする。
分かってるよ。兄ちゃん。うまいよ。
もう、味見しなくてもいいよ。
だが、兄ちゃんは少しだけ味噌を足す。
プロフェッショナルじゃねえかよ。
なあ、おい、兄ちゃん。
プロフェッショナルだな。
器には、麺が盛り付けてあって、そこに野菜と煮詰めた味噌スープがかけられる。
そこに厚めのチャーシュー、メンマ、白髪ネギがのせられる。
「お待たせしました。」
「いただきます。」
スープを飲む。一口食べる。
その頃に、おじちゃまが戻ってきた。
どこ行ってたんだよ。おじちゃま。
まあ、いい、許すよ。
この兄ちゃんがいたら、そりゃどっか行っても良いって思うよな。
人は見かけで判断しちゃダメ。
あと、年齢も関係ない。
これを言いたかったのよ。
ごちそうさまでした。