落語家してんな〜
「落語家してんな〜」って、思う時がある。
これがすごい楽しい。
例えば、先日の学校寄席で行ってきた宮城県にある丸森町。ここへ行くのに、東京から福島駅まで新幹線で行き、そこから阿武隈(あぶくま)急行に乗って、丸森駅まで行く。
阿武隈川沿いを電車が走り、外は自然豊かである。電車は向かい合う4列シートがあるパターンのもので、人も少ないので、4列シートの窓際に座って、見知らぬ土地を眺めながら、1時間電車に揺られる。おそらく、旅行では丸森町に行こうとは申し訳ないが、なかなかならない。
今回で初めて知った。
こう言った仕事の機会でもなければ、一生来なかった可能性がある町にご縁があって、呼ばれて、初めて乗る沿線の電車から外を眺めている。
そんな時に、
「落語家してんな〜」
って、思うのだ。
そこで、駅に着いてこんな町なんだ〜と思いながら、担当の方の車に乗って、どんな町なのか話を聞きながら、外を眺める。
「落語家してんな〜」
って、また思う。
そんなふとしたことが、なんだかとっても楽しいのだ。初めての場所に、初めて会う人。見知らぬ町になんだか少しドキドキする。そんで一人で80分くらい喋って、丸森町のお土産をいただき、また電車に揺られ帰るのだ。
まさに、
「落語家してんな〜」である。
師匠の独演会の出番。500人のキャパで落語をする。そのあとに、居酒屋さんの2階で数人とお客さんの前で落語をする。さっきのキャパとのギャップをネタにして喋る。
「落語家してんな〜」である。
求められれば、どこへでも行く。
それが落語家である。
新宿末廣亭の出番であった。
トリは春風亭昇太一門、兄弟子の昇々兄さん。
その日は、仲入りが終わってすぐの出番。
いわゆるクイツキと言われる位置。
出番前に昇々兄さんが、「お酒飲んでていいよ」と言ってくれたので、出番があった同じく兄弟子の昇也兄さんとビールを飲んだ。
ベテランの師匠はすでに帰られて、トリの昇々兄さんが高座へ上がると、楽屋には昇也兄さんと僕、そして前座さんたちだけ。つまり、特に気遣うこともなく、お酒を飲めるのだ。
モニターで、トリの昇々兄さんの落語を聴きながら、お酒を飲む。
兄弟子がトリとして高座で戦っている時に、気楽に酒を飲んでいる。もちろん、自分たちも自分の出番でしっかり高座をつとめて、トリに向けてバトンをつないでいるわけだ(バトンを落とす時もあるけど)。高座が終わった達成感と安堵感と、そしてちょっとした罪悪感が混じりながらのビールの味は、
「落語家してんな〜」
となる。
そんなふとした瞬間が、なんだか好きなのだ。
そんな日は、いい一日だったなあと思う。