市立札幌病院への道 前編
インドネシアで最後に泊まっていたゲストハウスのドミトリールームに一匹の蚊がいたのを覚えている。
2019年2月の中旬に無事帰国し、高専に行って挨拶したり、家族とこれまでの話をしたりしていた。
帰国から3,4日たったある日、突然の高熱と倦怠感に襲われる。もちろん食欲もないし、下痢もしていたと思う。
時期的に完全にインフルエンザだと思い、近くの病院に行く。しかし検査をしたが陰性であり、翌日また来るように言われる。
何だろうと焦りだした。
「可能性としては、ノロウイルスかマラリア、それともあれか?」
どんどん頭には悪い想像が膨らむ。いやマラリアやノロウイルスなら全然いい方だ。治るから。しかし、あれに感染しているとしたらかなりヤバいことになる。自分の体という意味でもヤバいことになるし、治療費という金銭的な問題もある。そして、何よりそれにかかったという社会的なハンディを背負って生きていかないといけない。
「はぁはぁ、考えるだけで嫌な気持ちになってくる」
翌日もう一度、地元の病院に行く。もちろん昨日の段階で、帰国して間もないことは伝えてある。ここ2ヶ月近くは東南アジアの国々を回っていたからアフリカで媒介しているような病気は心配ないのではないかということも伝えていた。
血液検査やレントゲン、そのほか様々な機械に自分の体と晒して、骨の髄まで丸裸にされた。しかし衝撃だったのが、ノロウイルスの検査。
お尻の穴に何かしらの棒状の物を突っ込んで検査する。白い検査用の棒を持った女性看護師が近づいてきて、私に検査することを告げた。
咄嗟に何を言っているのか理解できなかった。それは、病にうなされているからではない。その30代から40代くらいの女性看護師は私に穴を出せというのだ。
なぜ男性看護師や医師が来ないのか理解できなかった。汚物がこびり付いているかもしれない私の穴を見たい女性などこの世にいないだろう。しかし、その女性看護師は仕事だからという理由で、それを甘んじて受け入れるというのだ。信じられない。気持ち悪さのあまり嘔吐して、吐物が私のお尻にかかったらどうなるのだろう。
ブス、グリグリグリ
「あああああぁぁぁぁぁ」
その柔らかな棒は勢いよく入ったかと思うと、少し進み私の穴の中で回転を始める。
入ったとき全身に緊張が走った。しかし、その緊張を和らげるかのように、一度入った棒の先端は私の内部を撫でまわしていく。その感覚が予想以上に気持ちが良かったからか、最初の緊張からの解放も相まって、つい淫らな声が出てしまった。
「ノロウイルスも陰性です」
なんでそんな報告だけ男性医師が担当するのだと思いながら、安堵なのか一層の不安なのかわからない複雑な気持ちになってきた。
そして、あることをその先生にお願いしないといけないと悟っていた。
(何と言ってお願いすればいいのだ。わからない)
(こんなお願いしたら、白い目で俺を見るだろうな。そして、軽蔑する対象を見つけたかの如く私は扱われるだろう)
「先生すみません、エイズの検査もしてもらえますか?」
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