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オランダへ#1-Never Demolish?!-


○はじめに

誠に私的なことだが、先週の3/14-16にオランダを訪れた。
なぜ、オランダを訪れたのかということに先に話しておきたい。
私がオランダという国、詳しくはオランダの市民運動やあらゆる制度に興味を持ったのは、2000年代に制度化された自殺幇助制度について知ったことがきっかけだ。写真家として活動を続けている幡野 広志氏がオランダでの自殺の合法化について言及していたことをきっかけに、なぜ自殺幇助という制度が成立したのか、どのような成り立ちかに興味を持ち調べ始めた。
『オランダの安楽死は世界に通用するか』(1997,宮野)において端的に、オランダにおいて自殺幇助という人間の肉体や精神にダイレクトに影響するセンシティブな制度が成立した過程において90年台から法制度化に向けた議論が行われていることが記載されている
この点において『ダッチリノベーション』(2021,笠原一人)においてもオランダの既存建物の活用方法や竣工された改修建築を通して、それらが成り立つ文化的背景に言及している。自殺幇助制度の制度化と同様に、身近にある建物への意識やより豊かな暮らしを継続して行うためにはどうしたらよいか議論をして考えていく土壌があることを指摘している。改修建築においては、それだけではなく、行政とオーナー、利用者とをつなぐヘリテージアーキテクトの存在や教育、建物をより身近に感じるための取り組みとして特定の機関にオープンハウスを行っていることなど取り上げられている。
上記のような制度や文化の成り立ちに興味をもち実際に訪れて仕事をして肌で感じてみたいと思ったことをきっかけに、今年から1年オランダに滞在することを決めた。その下見も含めて短期間の滞在でオランダを訪れた。
また今回の目的の一つ、講演会に参加した。講演会は、オランダのロッテルダムにある、Independent School for the Cityにて『Never Demolish!?』というテーマで行われた。生活の中で、建築のライフサイクルのあり方、未来でコンバージョンやリノベーションを想定した建築はどのようなものか、既存の建物の状況を踏まえて、地球環境を考慮した既存建築の活用方法を検討するといった内容だ。
特徴すべきは6人の登壇者によるプレゼンテーションに加えて、参加者とのディスカッション、登壇者間のディスカッションが設けられていたことだ。
また、新築および既存建築の解体に伴うCo2の量など発生するエネルギーについて基礎的な内容がまとめられており、かつオランダにおける既存の建物の状況や活用方法が提案されていた。加えて、オランダを中心に活動する建築家や研究者、コンサルタント業務を行う専門家は自らの活動を通して、建築のありかたについてどのような可能性があるか発表されていた。
全ての内容はとても興味深かったが私の興味に基づいていくつかピックアップしていきたい。

○学校の教育を起点に

一つは、2人目の登壇者Wouter Deen氏による発表だ。内容としては、既存建物の活用をどうやってビジネスとして成立させて既存建物の活用を促進することを目的としている。
小学生のこどもに対して行なわれた教育の事例をもとに説明が行われた。彼は、こどもたち自らが日々勉強を行い生活を送っている小学校の改修計画の提案を行うことを教育の一環として実践している。つまり、小学校おいて、日々生活を送っており細部を知り尽くしているのは設計士でなければ先生でもなく子どもたちだ。彼彼女らは勉強や遊びを通じて空間を体感している。こどもたち自らが計画に加わることは、利用者の生の声を聞くことと同義だ。この教育の興味深い点はどのような形にするかだけでなく経済性を考慮して最適解を成果品として提出することにある。改修においては、古い建物であるほど現地調査に時間を要し、新築と異なり既存の建物と新築もしくは改築部分とのデザイン的な整合性や合理性を求められる。新築と比較してコストが高くなる傾向にあることが、既存建物の活用を阻害している一因にある。彼は、経済的合理性を提案するだけでなく、未来において既存建物の活用の価値を高めビジネスとして儲かる状況に変えていくという文化的なアプローチも行っている。この建物に単体に止まらない、社会において既存建物の活用をどのような位置付けにしていくかということを視野に入れているのだ。
https://www.mevrouwmeijer.nu/

○ストックプラットフォームの構想

もう一つは、Sanne van Manen氏による発表だ。彼女はPlatform Woonopgave (Housing Platform)というwebサイトを立ち上げて既存建物の活用を促進するプラットフォームの提案を行っている。興味深いのは、オランダの住宅が横並びに連立していることを活用してコーポラティブハウスとして利用することを提案していることや年数経過に伴う増築など改修を視野に入れた提案を行なっていることだ。時間経過ともに建物が変化することと同時に人が必要とするニーズは時代ごとにかわり、ニーズに合わせた既存建物の活用を土地らならではの手法で提案する。世界的に空き家が問題になっている現状において、どのように既存建物を活用するか検討する一視座を与えている。
https://platformwoonopgave.nl/#meedoen

○おわりに

上記のように建築行為によって都市の風景に介入すること以外に、教育によるボトムアップやプラットフォームの作成によって、行政・オーナー・利用者の交通整理を行うような取り組みが同時に提案されていることに注目している。大袈裟に言えば都市の風景をデザインするための制度や環境を整備することが必要であり、文化財保護法の更新をはじめとした、歴史的・暮らしにおける建物のあり方を模索しようとする力強さを感じた。日本においてもエリアマネジメントやルールメイキングが注目されている中で、建築行為以外の環境やルールのデザインが求められている。今回、聴講した講演会のイベントの内容は、このように日本における建築行為に関わるコトのデザインの参考になるのではないかと考えている。

次回以降は、3日程度の滞在で感じたオランダの都市の風景について書いていきたい。
アムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、ライデンを中心に。

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