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就業規則等の多言語化/「やさしい日本語」サポート~多国籍組織に必須~
1.多言語化と「やさしい日本語」サポート-SmartHRに学ぶ
年末調整の季節が近づいています。日本人でも複雑な年末調整や労務関連の手続きは、外国人にとってさらに困難なものとなるでしょう。
生産年齢人口の急速な減少に伴い、外国人労働者の数が増加すると予想されます。このため、外国人を雇用する企業や事業主は、人事や労務管理において外国人対応を強化する必要があります。
ハフポスト日本版(2024.11.25)は人事管理ソフトの「SmartHRタレントマネジメント」に外国人従業員も使いやすいようにホーム画面ではわかりやすさに着目した「やさしい日本語」や多言語対応へ簡単に切り替える機能が追加されたと報じています。
SmartHRは現在、英語、韓国語、中国語(繁体字・簡体字)、ベトナム語、ポルトガル語に対応しており、さらに「やさしい日本語」もサポートしているとのことです。
このソフトを開発した(株)SmartHRの取組みには学ぶべき点が多くあると思います。
日本語に不慣れな外国人スタッフが言葉の壁を理由に、労務手続きなどについて同僚や人事担当者に頻繁に質問しなければいけない状況が「教える側」と「教えてもらう側」という構図や、心理的な上下関係を生み出してしまう。
言葉の壁をできるだけなくすことで、会社やチームの中でも関係性をフラットに近づけ、ミスを減らし、会社全体としての効率を上げていくこと、そして「働きづらさ」を解消していくことを目指している。
組織内で言葉の壁が人間関係に権力の勾配を生み出しているという認識は非常に重要だと思います。
また、言葉の壁を低減し、それを乗り越える努力が「働きづらさ」の解消に繋がり、組織を平等にし、ミスを減らし、業務の効率を向上させることになるということも大切なポイントです。
※ 「やさしい日本語」とは
「やさしい日本語」とは、外国人労働者にとっての「やさしい日本語」で、これを学ぶのは日本人です。
例えば、外国人労働者とコミュニケーションする時には、文を短くする、外来語(カタカナ)はなるべく使わない、擬態語・擬音語は避ける、二重否定の表現を避ける等々、なるほど、なるほどと思うような工夫が紹介されています。
文化庁の以下の資料等をご参照願います。
2.介護現場でのコミュニケーション課題
介護の現場でも外国人スタッフが増えてきています。彼女ら・彼らの働きなしには日本の介護現場は回らなくなっているのです。
介護現場でも、コミュニケーションが上手くいかないと・・・次のような言葉が飛び交います。
「あんた、日本語がわかってるの?私の言ったことわかる?」
「あんた、何言っているの?あんたの言っていること、わけわかんない。もっと日本語勉強してよ!」
「山田さんがではなく、山田さんにでしょう。てにをはをきちんと使ってよ!」等々
日本語で上手くコミュニケーションできない外国人スタッフを責めたりしている光景をよく目にします。
介護の現場で、ケアプランや介護記録の理解、そして介護記録の作成には日本語能力が非常に重要です。そのため、日本人スタッフによる外国人スタッフへの日本語指導がOJTのように頻繁に行われますし、その指導の目標として無意識的にではありますがネイティブスピーカー(native speaker)と同等の日本語能力を求めることがしばしばあります。
これでは、日本人と外国人の間での永続的な不平等な関係や権力関係を生じさせることになります。
コミュニケーションは相互行為であり、その成立には双方の努力が必要です。しかし、コミュニケーションを円滑に進めるためには、日本語のネイティブスピーカーに大きな役割と責任があります。N4やN3レベルの外国人スタッフの日本語能力が不十分だからといって会話が成立しないのではなく、日本人であるネイティブスピーカーが適切に理解し、導いていく責任があると強調しておきたいです。
ネイティブスピーカーの役割などは以下のnoteをご参照願います。
3.活用しよう「モデル就業規則」~就業規則などの多言語化・やさしい日本語サポート~
人事労務に関する契約書や書式の日本語は、日本人にとっても理解が難しいことがありますが、外国人従業員にとってはさらに難しく思うことでしょう。
先に紹介した人事管理ソフト「SmartHRタレントマネジメント」は外国人従業員の理解を助けるために多言語化し、「やさしい日本語」のサポートを追加しました。
介護事業者も是非、(株)SmartHRの取組に学ぶ必要があると思います。
私は、まずは、多言語で労働基準法などを説明できること。そして、就業規則を多言語化、「やさしい日本語」でサポートすることが喫緊の課題だと思っています。
しかし、労働基準法・労働契約法などの説明や就業規則を多言語に翻訳したり、「やさしい日本語」にする作業には、時間と費用がかかるため、経営者が躊躇することもあるでしょう。
しかし、厚生労働省が以下のホームページで各種の人事・労務支援ツールを紹介しておりますので、それらを利用すれば手間暇やコストを軽減できます。このサイトは以下の内容となっています。是非、活用していただければと思います。
1)『外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集~日本人社員、外国人社員ともに働きやすい職場をつくるために~
2) 雇用管理に役立つ多言語用語集
3) モデル就業規則(やさしい日本語版)
また、労働基準法や労働契約法などの労働法を多言語で説明している労働条件ハンドブック(英語、中国語、スペイン語、タガログ語、韓国語、インドネシア語、タイ語、ミャンマー語、モンゴル語、カンボジア語)がありますし、モデル就業規則(英語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語)もあります。
以下の厚生労働省のサイトから是非、ダウンロードしてみてください。
また、モデル就業規則については、やさしい日本語版もあります。
私は、外国人従業員を雇用する会社、事業者は就業規則を厚生労働省が発表しているモデル就業規則に転換すべきだと思います。
モデル就業規則は労働基準法や労働契約法、育児・介護休業法等の法改定ごとに改定されますし、各国の言語にも翻訳されていますし、やさしい日本語のサポートもあるのです。
自社でこれを行うと、時間もコストもかかります。モデル就業規則を活用していない事業者は、就業規則をモデル就業規則に準拠させて全面的に改正することが望ましいでしょう。
従業員が多国籍化してきている現在、人事・労働関係の契約書、書式の多言語化、「やさしい日本語」によるサポートは、組織・事業所の基本的インフラになっているということを肝に銘じておく必要があります。
以下のマガジンもご笑覧願います。