#夢日記 いなり寿司を持って遺跡に迷い込む 3
夫はそれを繰り返そうとする
どのように戻ったものか、よく覚えていない。だけどあたしはようやくもとのところに戻り、夫と合流することができた。
帰ってきた道が全く来た道と違っていたから、ここだって「元の場所」かどうかわかったものではないが、とりあえず夫がここにいる。ああ疲れた、と思う。
どこに行っていたんだ?と訊かれたので、それまでいた場所の話をする。うんと古い建物があって、こことは違うけれども、そこでも学園祭があって、古くなった舞台装置の中で若い人たちが演劇をやっていたのだ、と話したら、「自分もそこに行きたい」、という。
石切り場のおじさんはこだわらない
しかし行くときもどうして迷い込んだかわからないし、帰ってきた時もよくわからないのだから、手がかりがない。
とりあえずあたしが最初に迷い込んだあたりの建物のドアを開けてみるが、別段変わったことはない。学校の敷地はすぐに終わり、その外は道路だ。
じゃあ道路を渡ってみようか、というので、横断地下道を通って通りの向こう側に出た。外に出ると盛大に工事をしていた。というか、地面をえぐって、男たちが石を切り出しているところに出たのだった。
「おそれいりますが、この辺に木造の巨大な建物がありませんでしたか?」と石切り場のおじさんに訊いてみる。
おじさんは「ないよ」と答えるが、「でもある人にはあるみたいね」と意味深なことを言った。「政治家なんかも出入りしているみたいね」と。
ああ、間違いないな、このへんからあのへんなところに行く人がたまにいるのか、とあたしは考える。
「どうやったら行けるんですか?」と、訊いたら、おじさんは
「さあねー。行ったこと無いし」という。
石切り場のおじさんはそれがあったとしてもなかったとしてもこだわらないのだった。もしかしたらいつもそこで道を訊く人がいるのかもしれない。繰り返し訊かれたら、そっちの世界があるに違いないと考えるようになるのだろう。
たいした違いはない気もする
仕事のじゃまをしてもいけないので、石切り場の事務所みたいなところで休ませてもらう。夫はあたしにくっついて、目をつぶっている。まるでそうやって念じていれば道が開くと考えているかのように。
あたしは、また行けたとしても、どうやってもどるのだろう?方法がわかったわけではなくて、たまたま戻っただけなのに、と考える。でもまあ夫が一緒ならそんなに困らないか、とも思う。
あっちに行っても政治家は表情のないお付きのものたちに囲まれていて、偉そうにしていた。あたしのいなりずしをぶちまけるという、頭のおかしな行動はとったが、こっちがわの政治家だって似たようなものだ。
若者は熱に浮かされて演劇を繰り返す喜びに浸っていた。学生はまた、どこでもそんなものじゃないかと思う。ただ、舞台装置が古代遺跡のように古くなっているだけだ。偽物の海から新しい子供がやってきて舞台の始まりを告げるだけだ。
たいした違いはない、などと考えているが、なかなかそちらへ渡る局面に至らない。
あたしは夫に「いなりずしはあるけど、食べる?」と訊くが、夫は「要らない」という。
いなりずしは、とにかく人気がないようだ。
おわり