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#交雑1 娘の部屋に誰かいる
娘の部屋にだれかいる
私が、自分はもう死んでいるのじゃないかと気がついたのは、ちょっとしたことがきっかけだ。でもまだ納得はしていない。
今日も地震があった。揺れが長くて、それは東日本大震災を思い出させるような揺れだった。もう10年経っている。また来るのかもしれない、来ても不思議はない、あの日のようなことになったら・・・・・と思って、立ち上がってラックの上に乗っかっている電子レンジを壁に押し付けながら周りを見た。これが落ちるような揺れだったら、あの時と同じだ。
台所に釣ってあるお玉やフライ返しやおろし金がちゃーんちゃーんと音を立てている。外でサイレンが鳴り始めた。
あの時は娘の部屋の本棚も倒れた。二段重ねの上部が外れて落ちたのだ。本棚は作業テーブルの表面を叩いてそこで止まった。娘の頭はそこには無くて、怪我をせずに助かったけれども、揺れの方向によってはあんなものまで動くのだ、と知ってゾッとした。
娘はもう独立して別のところにいる。今は私ひとりだ。本棚がまた倒れるとしても、あの部屋は空っぽだ・・・・と思った途端に、揺れが一段と大きく速くなって、その時、悲鳴が聞こえた。「いやーっ」
娘の声だと思った。続いてバーン、とバットでものをぶっ叩くような音と、ボトボト、カラカラと物が散らばる音が続いた。
あわてて娘の部屋の開き戸を開けようとした。揺れはおさまっていなくて、足元があやしい。開き戸も真っ直ぐには開かない。力をこめた。デコラ板が歪む、ボボンという音がして戸は開いた。
開いたが、そこには誰もいなかった。部屋は真っ暗で本棚もない。ここはどこだろう?私のうちではないのだろうか?
揺れはゆっくり収まり、目の前が少し白んで見えてきた。誰か私の肩に触れた気がした。「また地震の日に戻っているんだね」と声が聞こえた。男のような、女のような、どちらでもないような声が。でもこの家には私の他、だれもいない。
戻っているって?私が?どこから?
私はダイニングテーブルに戻って仕事の続きをすることにした。年老いて腰だって痛いし、消毒液は荒れた手にしみる。とても自分が死んだとは思えない。どんなふうに死んだかも思い出せない。
娘の独立は見届けたはずだ。もうあの時には死んでいたとでも言うのだろうか?冗談じゃない。まだやることがいっぱいあるのだ。
いや、もう死んでいてもそれは仕方がないけど、しかしどうして地震が来るとこんなに繰り返し心配なのだろう?
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