[音楽キュレーター雑記] Schroeder-Headz
Schroeder-Headz、渡辺シュンスケ
渡辺シュンスケの鍵盤演奏を初めて耳にしたのは2007年に下北沢のCLUB Queで、アマチュア時代のUNISON SQUARE GARDENが企画したイベント「箱庭フェスティバル」でした。Schroeder-Headzというバンドはまだ無く、堂島孝平×渡辺シュンスケという名義で出演していました。イベント主催者のUNISON SQUARE GARDEN、ghostnote、U&DESIGNといったプロ顔負けの楽曲と演奏テクニックを持つ優れたミュージシャン達の中では少し年長組にあたりますが、その経験値から即席のユニットとは思えない安定したライブパフォーマンスを披露していました。'90年代から'00年代のアマチュア音楽シーンでは、まだギター中心のバンドやライブ演奏が主流でしたが、電子ピアノやピアニカといったあらゆる鍵盤楽器を自由自在に弾きこなして観客を魅了している渡辺シュンスケの姿を間近で観て、キーボーディストのカッコ良さを改めて再認識させてくれたアーティストとして強く印象に残りました。
Schroeder-Headzと新曲「NEWDAYS」
渡辺シュンスケのリーダーバンドSchroeder-Headz(シュローダーヘッズ)として初めて演奏を聴いたのが、2008年にShibuya O-Crestで開催されたアニバーサリーイベントでした。偶然、Schroeder-Headzの代表曲とも言える「NEWDAYS」が新曲として生演奏披露された瞬間に立ち会うことが出来ました。新曲とは思えないほどに完成された3ピースのバンドアンサンブルが夢の中のような体験として今も残っています。曲の大部分が3連符で構成された疾走感のある楽曲で、季節の始まりや夜明けを感じさせるドラマティックな仕上がりになっています。コマーシャル的な露出が一切なかったにも関わらず、多くの音楽好きのリスナーに長く視聴されて続けている渡辺シュンスケの代表曲と言ってよいと思います。
バンドライブ、ソロ・コンサートでも「NEWDAYS」は演奏される頻度がとても多く、ピアノ演奏する鍵盤奏者にとっても一度は弾いてみたい憧れの曲です。「NEWDAYS」は、満を持してリリースされた2010年のデビュー・アルバムに収録されています。
NEWDAYS / Schroeder-Headz 2010/10/06 リリース
01: NO SIGN
02: ABSENCE OF ABSOLUTES
03: NEWDAYS
04: ANOTHER HERO
05: EXODUS
06: POLKA DOTS FISH
07: BOOBIES-HI
08: T.V.G.
Schroeder-Headzのおすすめ楽曲
Schroeder-Headzの代表曲「NEWDAYS」の他に、いくつか私のお気に入りの曲を紹介します。
まずは、メジャーレーベル移籍後の2014年に発売されたアルバム「Synesthesia」に収録されている「Blue Bird」です。「NEWDAYS」と同様に3連符を基調とした曲ですが、薄くストリングスがアレンジされていていて、シリアスな印象が際立っている曲です。「NEWDAYS」が好きな方は「Blue Bird」も迷わずにお勧めできます。
同じく、アルバム「Synesthesia」に収録されている「Follow Me」もお勧めです。3ピースバンドアレンジがしっかりとした楽曲で、ピアノの和音の力強さに加えてコードチェンジされるときの右手の装飾音の使い方に高いセンスを感じる楽曲です。バンドサウンドのパワーと、繊細なスピード感が両立した素晴らしい作品です。
次に、2016年にリリースされた3rdアルバム「特異点」から「Hype」をお勧めします。「Follow Me」に通じるパワーと疾走感を感じさせてくれるバンドサウンドに、アナログシンセサイザーがうまく融合していて、インストゥルメンタル・バンドの一つの到達点を感じさせる楽曲です。
そして最後に紹介するのが、私がライブ演奏を聴いた中で最も感動した曲「Sketch of Leaves」です。この曲だけは、CDよりも生演奏で聴いてほしい作品で、この曲をライブで聴いた時の感動は言葉では上手く表現ができません。アルバム「特異点」に収録されていますが、是非「LIVE -Synesthesia-」のライブバージョンのソロ・ピアノの音源を聴いてほしいです。ピアノソロとは思えないグルーヴ感は、ピアノと渡辺シュンスケが一体になっているという表現が言い過ぎではないほどのクオリティです。
紹介した以外にも、渡辺シュンスケ本人が初めて映画出演を果たした邦画「ハローグッバイ」の中で演奏されている「手紙がくれたもの」など、名曲が数えきれないほどあります。
Schroeder-Headzの楽譜(スコア)
現時点で確認されているSchroeder-Headzの公式の楽譜は2つあります。いずれもピアノ用に採譜されたものです。
Piano Score Book / Schroeder-Headz
01: newdays
02: Sleepin' Bird
03: Blue Bird
04: Petal
「Piano Score Book」は、ピアノソロアレンジで4曲の譜面が収録されています。代表曲「NEWDAYS」と、お勧めした曲の「Blue Bird」が収録されています。現在は入手が困難のようです。
PIANO DIARY 24 / Schroeder-Headz
01: キッチン
02: カレーライス
03: drawing a tree
04: さばの缶詰
05: le soleil
06: 憂鬱
07: シャンソン風
08: オールトの雲
09: sprout
10: 雨
11: サイクル
12: 金糸梅
13: 木漏れ日
14: way back to home
15: 夏色
16: 梢
17: ぬこ
18: 未明
19: ツツジ
20: 薫風
21: miso soup
22: waltz
23: 夜行
24: 束の間の
「PIANO DIARY 24」は、ピアノソロアレンジでコロナ過に書き下ろした24の小作品が掲載されています。すべて直筆で採譜されており、各タイトルのモチーフの簡単な説明やイラストが併記されています。この楽譜には、本人による自宅録音でのピアノ演奏が収録されたCDが付属していて、CD作品としても楽しめる商品となっています。これらの24曲は12のキーを短調と長調のそれぞれで作曲するというルールで作成されています。コロナ過の時期でなければ生まれなかった24曲だったと考えると、色々と考えさせられる作品集です。
Schroeder-Headzの映像作品&ライブパフォーマンス
渡辺シュンスケ名義で毎年の新春に開催される「シンシュンシュンチャンショー」などのピアノソロも良いですが、Schroeder-Headz名義で演奏されるバンド演奏もお勧めです。バンド演奏の3ピース編成の際には、ドラムが鈴木浩之、ベースは初期は須藤優、中期以降から正木正太郎が担当することが多いようです。バンド演奏でメインキーボードとして使われているのは、デジタルピアノの中でも鍵盤のタッチが良くピアノ音源の質が良いRolandのRD-700GXです。RDシリーズはステージピアノで利用するミュージシャンがとても多く、プロに広く愛される名機だと思います。デジタルピアノ演奏にリアルタイムにエフェクト処理をかけるステージパフォーマンスも、ステージング経験値の高さと巧の技を感じさせませす。
良い意味でクラシック過ぎず、洗練されたジャズピアニストとも違う、独特のピアノタッチと演奏スタイルにおいて唯一無二のキーボーディストです。演奏中に笑顔で客席を見る姿は、ピアノの楽しさを一緒に共有しようと語りかけてくるようです。
渡辺シュンスケは、キーボードを主軸とした作曲家・演奏家としてとても尊敬しています。音楽がそれほど好きでない人でも飽きさせない、魅力的なライブ・パフォーマンスを是非たくさんの人に見て聴いてほしいと思います。