部活動の地域移行について考える
こんにちは。
部活動の地域移行について、最近はニュースでもよく見ます。
まずは中学校からの移行とのこと。スポーツだけでなく、文化部の活動の地域移行も7月中に提言をまとめるとのこと。
これについて、皆さんはどう思われますか?メリット、デメリット、もちろんあります。立場によって賛成、反対ももちろんあるでしょう。
教員の立場から、少し考えてみたいと思います。
メリット
地域移行のメリットとしては、
の2点が大きく挙げられると思います。
教員の負担削減
教員の負担削減についてはまさにその通りでしょう。部活動が勤務時間外の労働につながっていること、休日労働につながっていることはもはや誰も否定することはできません。
これが解消するだけで、教員の負担はかなり減ることでしょう。そして、減少してきている教員志望者も増えるかもしれません。
時間的な余裕もできて、本業である授業への準備や生徒対応などにも時間を割くことができるようになるでしょう。
専門家の指導が受けられる
専門家の指導が受けられることについてですが、これもメリットの一つです。確かに、運動部でも文化部でも、全く経験のない先生が顧問を任されることも多いです。それは、先生にとっても生徒にとっても良くないですよね。こうしてみると、先生も生徒もWin-Winの関係が成り立ちそうです。
メリットとして言われてることは否定のしようもないくらい当然のことなんです。そして理想でもあります。しかしそれを実現していくには課題が多すぎると個人的には思っています。
デメリット
では、デメリットについてみてみましょう。
生徒指導には生徒理解が必要
まず、生徒指導には生徒理解が欠かせません。そして生徒理解については、授業時間だけでは足りず、休み時間やHR、面談、保護者との連携など、さまざまな機会や時間を使って、ようやく生徒理解に結びつきます。そして、その生徒理解に基づく生徒指導だからこそ、生徒に伝わるものがあります。
部活動は、生徒理解の場としても非常に重要な機会です。授業や普段の学校生活では見せない生徒の姿を見ることができます。そこで見ることができた姿を、普段の生徒指導に還元していくこともできます。
学校生活と、部活動。この両軸があるから、両方の機会において、深い生徒理解に基づく生徒指導が行うことができる。そんな側面があることは否定できないでしょう。
外部に移行した際に、この生徒理解を外部指導者がどれほど行った上で指導できるのか。この観点が抜け落ちた状態で、教育を語ることはできないのではないでしょうか。
部活動の時間が削減された学校がただ勉強を教えればいい場になるわけではないように、部活動を外部に移行したからといって、「スポーツや芸術の技術を教えるだけでいい」場とはなりません。
教員のやりがいが減る
本業は授業でしょう。と言われればそれまでですが、教員を志す人の多くは「部活を指導したい」というモチベーションがあることは事実です。
そのやりがいが地域移行によって無くなってしまったら、その教員は教師を続けるでしょうか。もし、部活動のない教員を続けるか、外部指導者となって地域移行した部活動に貢献するかと言われれば、「指導に見合う報酬がもらえるのであれば、外部指導者になる」という選択をする教員も多いのではないかと予想します。それはそれで、悪いことではないかもしれませんが。
外部指導者に支払われる報酬は?
では、外部指導者に対して支払われる報酬はどれほどのものなのでしょうか。専門家ですから、それなりの報酬をもらわなければ引き受けようという人もいないのではないでしょうか。
この記事によれば、指導者の時給は1228円。正直、安すぎると思います。
スポーツ指導の報酬の相場はわかりませんが、これを音楽のレッスンに置き換えてみると、個人レッスンで1時間3000円〜のところがほとんどでしょう。全体指導となれば、1時間で5000円〜が相場です。
専門家に指導をお願いするのに、この報酬の少なさで、一体どんな人材が集まるのでしょうか?少なくとも、本当の意味での「プロフェッショナル」はこの金額で仕事を受けることはないでしょう。
重要なことは、希望する人にはしっかりと報酬を出し、希望しない人のための地域移行というオプションを作ること
とすると、この記事にもあるように、大学生や有志の顧問が指導することになるでしょう。
ところで、この外部指導者には時給1228円が払われるとのことですが、教員が平日どれだけ指導しても手当は0円です。土日に支払われる手当も数千円です。外部指導者に支払うのであれば、今しっかりと指導を行っている顧問に手当を支払うのが筋ではないでしょうか?
平日2時間、休日3時間。週5〜6日指導すれば、10〜13時間になります。先ほどの時給で言えば、1週間で1万円以上の収入になります。月4万円以上です。この報酬がきちんともらえるのであれば、部活をやろうという教員は必ず増えます。
大事なことは、単純に地域移行することではなく、顧問や指導者を希望する人にはしっかりと報酬を支払い、希望しない人のためにも地域移行という選択肢を用意しておくこと。つまりオプションがあるかないかということです。
どちらにせよ、問題を解決するには小手先ではなく財源の確保が喫緊の課題
地域移行について、いろいろと考えてきましたが、結局は
「このままボランティアで教員に指導させるのか」
「教員ではないけど、ほぼボランティア程度の報酬でもやってくれる都合の良い人材を雇って指導させるのか」
程度の違いしかないように思います。何せ、財源がないのですから。
財源を確保して、教員にもしっかりと対価を支払う、もしくは専門家の指導に見合う報酬を支払うことのできる仕組みを作ることができて、ようやくこの部活動についての問題は解決すると思います。
今のまま進めていくと、結局は外部で起こった課題点を学校側が負担しなくてはならなくなったり、頓挫してしまう可能性が高いと思います。
ここで志らくさんが言っていることが全てだと思います。
そのほか、高校では部活動が特色となっていることもあって、地域移行にするかは検討するというニュースも見ました。どちらにせよ、特色とするなら対価はしっかりと支払うべきだと思います。
そして、日本では部活動がプロのスポーツ選手や芸術家を生み出してきたことも否定できない事実です。そこにはプロ顔負けの指導スキルを持った教師がいたからこそです。
見合わない対価では、本当の専門家を雇うことはできません。そうすれば、結局質の低い指導が生まれます。専門家に教えてもらうというメリットも、中途半端なものになってしまいます。
どうせやるなら、徹底的にやっていかないと、突出したスポーツ選手や芸術家の輩出は難しくなることも懸念されます。何をやっても中途半端。教育への投資ができない国は、どの分野でもじわじわと衰退していくでしょう。