チームは方針やルールによってではなく、価値観と文化で動かせ
イギリスはスコットランドのクラフトビールに取り憑かれたスタートアップ「Brewdog」のファウンダーによるとにかくエモい一冊だった。いわゆる彼らの成功&失敗体験から語られるスタートアップへの指南書的な中身なのだけど、リアルでストレートでシンプルでエモい。回りくどい創業ストーリーも無ければ会社の詳しい説明もない。という、こちらの良書。
以下、いくつかの項目に分けて引用を。私が大好きなのはやはり「チームビルディング」に関して。
ミッション(使命)の重要性
ミッションやビジョンの重要性に関しては言うまでもないのだけど、その大切さを実感して実践している起業家、企業がどれほどあるのだろうか。世界が成熟していく中で、今まで以上にこのミッションにこだわりと独自性を持たないと、競争優位どころか優秀な人すら採用できない。
会社は失敗する。会社は死ぬ。会社は忘れられる。
だが、革命が死ぬことはない。
だったら会社ではなく、革命を始めればいい。
今はもう、ただ会社を始めるだけでは成功しない時代になっている。
明確な目的と使命、存在理由が求められるのだ。
どんなビジネスを始めるにせよ、創業者は、力強く、壮大で、直観的に伝わり、短い言葉にすべてを込めた使命を掲げ、会社がそこから外れないように手を尽くす責任がある。
使命を持つことで、自分のすることすべてを、より高い次元の文脈に位置づけ、事業に参加している全員を共通の目標に向かせることができる。
使命に求められるのは、唯一無二であることと、魅力的であること
戦略の本質
戦略の本質は他社と違うことをすること。その究極たるは、他社と争うことすらしないこと。つまり、全く新しいマーケットを創ることだ。
会社をつくるのではなく、新しいカテゴリーをつくるのだ。自分でつくった小さな池を泳ぎながら、その池を広げればいい。誰かの池で泳いでいても、ほかの魚に食われておしまいだ。
ぼくらは2007年以来、自分たちでイギリスに生み出した、この新しく、急速に存在感を増しているカテゴリーを育てることに打ち込んできた。そしてこの戦略によって必然的に会社が育ち、ぼくらはクラフトビールの代名詞になり、クラフトビールに対する情熱で知られるようになった。ニッチこそ、新たな本流になる。成功の可能性をつかみたければ、誰も気づいていない、中心から大きく外れた、厳しい環境の中を歩き始めなければならない。
プロダクトの質と、ブランド
シャープで唯一無二のミッションの元に、圧倒的な質のプロダクトさえあれば、そこに優秀な人材が集まり、その熱量がユーザーへ伝播し熱狂的なファンを作り、素晴らしいブランドが育まれる。
必要なのは、一点集中で磨き上げた、最初は一握りの人だけが熱狂するような商品を生み出すこと。
ブランド力は常に、守備範囲の広さに反比例する。つまり、カミソリのように薄く狭い領域に集中し、最高の商品を仕上げる必要があるということだ。
世界中がつながり合い、情報が行き交い、ソーシャルメディアが膨れ上がり、互いの距離が縮まっている今、いい商品があれば(この「いい商品」という条件が最大の難関だが)、驚異的なスピードで、ひとりでに広まっていく。目を向ける価値のあることをしていれば、見る目のある人たちが、こちらの想像より早く見つけ出してくれる。そして、自分から声をかけてきてくれる。
ブリュードッグの特徴は、とにかく熱く、常識にとらわれないことと、そこに独自の笑いのセンスとパンクロックの切れ味が融合していることだ。ぼくらは、その熱さ、非常識さ、笑い、パンクロック感をブランドの4大要素として、行動のすべてに染み渡らせようとしている。そして、いつも人をニヤリとさせるチャンスを狙っている。ブランドも人も同じで、笑いは愛を勝ち取るための最大の武器なのだ。
消費者は、既存のブランドを押しつけられるより、自分でブランドを見つけ出すことを好む。
費者とのやり取りやコミュニティーづくりをおろそかにせず、自分たちのブランドは本物なのだと伝えられる定番のオンラインコンテンツを十分に用意することだ。それが守れなければ、オンライン戦略にいくら強烈な仕掛けを加えても、お粗末な作り物にしか見えなくなり、すべてが台無しになってしまう。しかし、ブランド構築のための信頼できる、ごまかしのないコンテンツと、爆発力のある過激な仕掛けを組み合わせれば、桁外れの効果を生むことができる。
リュードッグは誕生以来、ブランドと使命を中心にしてコミュニティーを築きたいと思ってきた。ぼくらは使命に集中し、ぼくらを支持する人たちはブリュードッグのブランドをつくってきた。そして、クラフトビールに対する情熱をほかの人にも広めるため、互いに協力してきた。関わり合い、手を携える。こちらの言うことを聞かせるのでなく、相手の言うことに耳を傾ける。コミュニティーを築く。そうすることで、多くの場所にファンが生まれた。
チームビルディング
リーダーの仕事は、メンバーやチームの「士気」を高めること。強力なミッションとビジョン、そこに揺るがない文化と価値観があれば、あとはいかに信頼し、コミュニケートし、やる気を引き出すか。リーダーシップとは、そうやってひとりでは成し遂げられない大きな結果をチームで出すこと。
小さい者の発想を保ちながら、大胆に、勇敢に、勝負を続けなければならない。筋のいいリスクを取ることで士気が高まる。自分のビジョンと理想でチームを動かすのだ。自分の考えを聞かせて危機感を持たせ、何より自分が危機感を持たなければならない。リスクによって集中力が高まり、鋭さが増す。落ち着いた気分になっているときこそ、次のリスクを冒さなければならない。それも、過去最大のリスクを冒すべきだ。そして、もう一度最初からやり直すのだ。ぼくらは半年に一度くらいのペースで、わざと恐怖に震える体験をすることにしている。そうするうちに、信じるもののためにすべてを失うリスクを冒すことが快感になる。
「ビジネス」という名の船における最重要課題は、乗組員かもしれない。どんな会社も、そこで働く人間のレベルを超えることはない。
優秀な人材を何人も見つけ、声をかけ、チームに加え、鍛え、成長させ、意欲を引き出しながら、まとめ上げなければならない。しかも、やるべきことはまだある。
どんな困難の中でも、チームの人間に意識を共有させ、使命に対する情熱を植えつけ、港に着くまで何日でも海の上で働き続ける覚悟を持たせる必要がある。厳しい試練になる。
今の優秀な人材が望むのは、全力で打ち込め、裁量があり、成長でき、挑戦でき、きちんと報われる仕事だ。そこから導かれる結論は何か。そういう仕事が与えられなければ、最高のスタッフをよそに奪われるということだ。
社員が愛着を感じないような事業では、顧客はそもそも見向きもしてくれない。だから、まずは社員のことを考え、顧客のことはその次に考えればいい。ひねくれて聞こえるかもしれないが、本当だ。息の長い会社を築くには、これ以外に方法はない。
社員が自分の会社が何をしているのか知っているというだけでは不十分だ。なぜ今それをしているのかまで知っている必要がある。すべての決断の背後にある理由を理解し、自分のものとしていなければならない。それができてようやく、自分と使命を結びつけ、使命を実現するため精力的に仕事をするようになる。
単純な話だが、社員は自分が成長して成功できると感じているときに、最高のパフォーマンスを発揮する。社内における学びや技術の習得、教育、昇進を約束することすべてが、長い目で見ると社員の定着や熱意の向上につながる。彼らの将来の希望や夢に応えようと手を尽くせば、彼らのほうも会社の希望や夢の実現に手を貸してくれるようになる。
人材には過剰にでも投資する価値があるというのがブリュードッグの信条だ。
チームは方針やルールによってではなく、価値観と文化で動かすべきだ。
チームに仕事上の権限と裁量を与える必要がある。
彼らに事業を進めるための判断をさせ、それを実行させ、許可を取ることは求めないようにしよう。
忠誠心は与え合うものだ。自分から十分に与えなければ、相手から与えられることもない。忠誠心のあるリーダーの下に、忠誠心のあるチームができる。そして、忠誠心のあるチームが勝負を制する。
社員が刺激を感じ、自信を持ち、仕事に打ち込み、評価されていると感じるほど、自分が関わる人に会社や商品のことをうまく伝え、いい印象を与えるようになる。顧客を喜ばせるために費やすのと同じだけの時間を、社員たちの士気を高めるために費やすべきだ。
経営者が社員に目を配れば、社員は顧客や、会社にとって重要な人たちに目を配る。これまでの常識とは違うが、話は単純だ。経営者がチームや社員に尽くせば、彼らは同じように顧客に尽くすということだ。
まずは社員が自分たちの仕事を愛さなければ、顧客が愛してくれることは絶対にない。そして、この最初の愛の力はいつまでも続く。
カルチャー
リーダーの行動や決断が、カルチャーを形作る。そして背中で魅せるだけでは不十分だ。「なぜ」そうするのか、「なぜ」そうすべきなのか。ミッションに直結したより高い次元でチームを、メンバーをエンゲージすることで力強いカルチャーが生まれる。
強い企業文化は、事業のすべての面でリーダーたちがこだわりを通せるかどうかにかかっている。それを持つためには、信頼を基礎とする環境を育み、チームのメンバーがリーダーを信用し、リーダーが組織の人間に責任を持って考えを伝えられるようにする必要がある。信頼は人から与えられるものではなく、自分の手で積み重ねていくものだ。
企業文化づくりに本腰を入れて取り組むときには(そうしない人間はそもそもリーダーに向いていないが)、リーダーたちがみずから手本を示さなければ、共感は生まれない。人はリーダーの振る舞いや考えをまねする。だから、受け継いでほしいと思う行動を、リーダーたちが本気でやって見せなければならない。
昔から企業文化は企業ブランドとコインの裏表の関係にある。
しかし今は、そのコインの回転があまりに速く、裏と表が重なって見える。実際に、企業文化づくりに取り組むことはマーケティング活動として非常に有効で、旧来の手法を束にしてもまったく歯が立たないほど優れている。
文化づくりはマーケティングなのだ。
そして、文化はブランドだ。
今や文化には、広告よりもずっと顧客の共感を生み出す力がある。
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