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全ては"勝ち続ける"ために。圧倒的逆算で創られていったサイバーエージェントの企業文化論|企業文化をデザインする人たち#05

2023年6月1日に出版された「企業文化をデザインする」を執筆する過程であらためて実感した「企業文化」の底知れぬ奥深さと影響力。

そんな「企業文化」をさらに深め、多くのビジネスリーダーにとって「デザインする価値があるもの」にするため、「企業文化」と常に向き合ってきたIT業界・スタートアップのトップランナーにインタビューする短期連載企画。

ーー「企業文化をデザインする人たち」

第5弾を最終回とし、トリをお願いしたのは株式会社サイバーエージェントの創業期から事業・組織の成長に貢献してきた常務執行役員 CHO、YouTubeチャンネルではソヤマンとしてご活躍の曽山 哲人さんです。


話し手|株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO 曽山 哲人

1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。ビジネス系YouTuber「人事部長ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作がある。
YouTube|https://www.youtube.com/@soyaman
Twitter|@SOYAMA

聞き手|株式会社ラントリップ 取締役 冨田憲二

2006年、東京農工大学大学院(ビークルダイナミクス)卒、株式会社USENに入社。その後ECナビ(後のVOYAGE GROUP、現CARTA HOLDINGS)に入社し複数の新規事業を担当後、子会社として株式会社genesixを創業。2013年に創業期のSmartNewsに参画し、グロース・マーケティング・セールス事業立ち上げを経て当社初の専任人事となり50名から200名への組織成長と企業文化形成を担当。現職は株式会社ラントリップで事業・組織推進に従事。2023年6月1日に初の著書「企業文化をデザインする」を出版。
Twitter|@tommygfx90

営業中心のカルチャーを意図的に変えた大胆施策

冨田憲二(以下、冨田)|今日はサイバーエージェントさんを「企業文化」という視点から丸裸にしたいと思います。宜しくお願いします。

曽山哲人(以下、曽山)|なんでも聞いてください。宜しくお願いします。

冨田|先ず聞きたいのは職種に起因するサブカルチャーに関してです。
御社は私の中で未だに「営業カルチャー」が強いイメージです。当然、成り立ちとして営業力で会社として立ち上がり、メディア力で事業成長し、そこに合わせてエンジニア・デザイナー等のクリエーターカルチャーが育ってきているかと思います。

これらの職種に起因する「サブカルチャー」をどのようにデザインしているのでしょうか?

曽山|おっしゃる通りでサイバーエージェントは元々ほぼ100%営業と少数の管理部門でスタートしています。私が入社した時は当時は20名程度のまさに営業組織。そこから今では営業部門は全体の3割程度になりました。

アメーバやゲーム、ABEMAなど多くの自社サービスを提供する中で、今では技術者やクリエイターが圧倒的に多くなってきているんですね。故に、当社は明確に企業文化を大きく変えてきたと言えると思います。

一つ意図的に行った大転換でいうと、広告営業で創業した営業の集団だった会社が、アメーバブログを立ち上げた2005〜6年に大胆な意思決定を行ったんです。

それが「ビルを分ける」ということです。

冨田|思いっきり分断させちゃったんですね?

曽山|これは明確に思い起こされる出来事がありました。

社長の藤田がアメーバの立ち上げを「私がプロデューサーとして責任持ってすすめる」と。私は当時人事に異動したばかり。その当時、営業とエンジニアは同じオフィスに同居してたんですね。

当然営業は「スーツ」の集団です。そこに服装や業務スタイルの違うカルチャーの人材が増えるとどうなるか。例えばこんな声が聞こえていました。当時アメーバは大赤字だったので

「私たちの努力が、他の部門に回っている」

という声が多かったのです。

そこで藤田に言われた一言がこれです。

「曽山くん、ビル借りてもらっていい?」

つまり、当時の本社オフィスとは別のビルを借りて、そちらにアメーバを移転させると。

いっそのことお互いの視界から離してしまうことで、環境もそれぞれに良いものを作ることができます。ということで思い切ってビルを分けたんです。

冨田|それは大胆な意思決定ですね。

当然明確にカルチャーの棲み分けは進むと思いますが、一方で会社全体では分断が進みすぎることで、ネガティブには働かなかったんですか?

曽山|価値観においては営業は営業、エンジニアやクリエイターそれぞれで大事にするべきものはすればいい。営業は営業で表彰をしたり、エンジニアやクリエイターは別の形で表彰したりお互いを認め合う勉強会を推進すればいい。

ビジョンやミッションなどコアな部分や、コアな言葉は統一する。
コアは一緒でも、やり方はサブカルチャーに合わせて変えればいい。

"少ない文字のコア"を統一するんです。

そして運用の仕方は各部署に任せる。

冨田|コアはブレないように握っておくわけですね。しかもそのために、極力シンプルにすると。言葉で表現するのであれば、なるべく短くと。

曽山|そうです。例えば当社だと飲み会でわいわいと盛り上がある人もいれば、そうでない人もいます。実際以前の社員総会は一部の人が盛り上がることで、他の職種からはもっと静かに飲みたいという声もありました。だから、分けるべきところは分けるようにしたんです。

これは良い意味で、相手に気を遣わせなくて済むようにするという棲み分けですね。ただ、根っこの部分は統一しておくのがポイントです。

サイバーエージェントは新卒入社が優位?


冨田|
サブカルチャーという観点だと、新卒(プロパー)と中途のカルチャーの違いもあると思います。御社は「プロパーカルチャーが強い」イメージなのですが、このプロパーと中途カルチャーのバランスはどのように維持していますか?

曽山|素直に言えば、中途のマネジメント・オンボーディングの方が圧倒的に難しいですね。

なぜかというと、中途は月毎に入社しており、同期の人数も決して多いとは言えません。この同期意識・社内ネットワークという観点でプロパーに比べて圧倒的に不利だからです。

一方新入社員は50人〜100人が年間で入って、しかも最初に集合研修をガツッとできるので、社内ネットワークの強さという点で圧倒的な差があります。これは現実ですね。

一方で、私はある事業のHRPB(=事業部内人事)も担当しているのですが、最近中途の社員とランチに行ったりすると、むしろサイバーエージェントのカルチャーに驚いて、ポジティブな反応が多いんです。

「前の会社は褒める文化が全く無かったけど、サイバーエージェントは本当に褒めてくれるし認めてくれる」

「自分の成果を、良い意味でちゃんと出したら出したって言えば、しっかり見て承認してくれる」

前の会社のカルチャーとの比較との相対比較になった時に、当社のカルチャーの方がポジティブに思ってもらえることが多いんです。

故に、プロパーと中途の比較では確かにプロパー寄りなカルチャーに映るかもしれませんが、実際には私も中途ですし、比率も中途の方が多い。より広い視点で見た時には中途社員にとっても他社より優れたカルチャーを持てているか、これを大切にしていますね。

冨田|納得感のある視座ですね。

確かにここ10年ぐらいのいわゆる「テックスタートアップブーム」の中で、人やチームのマネジメント経験に乏しいエンジニアの起業家や、手段としてのテクノロジーに対する強烈なハイライトによって、「人のマネジメントや組織作り」がローライトになってしまった印象を私は持っています。

私のキャリアの最初の10年はリクルート・サイバーエージェントカルチャーで育ってきたので、その後のテックスタートアップでの経験は確かにギャップがありました。当然ポジティブなものもありましたけど、こと「人」に関する扱いやマネジメントに関してはネガティブなものも少なくなかったのですよね。

理想や目的から逆算するのが正しいカルチャーデザイン


冨田|
もう少し、サイバーエージェントさんの内面のカルチャーを深ぼっていきますね。

御社は創業者の藤田さんの露出が圧倒的に多いと思います。創業者なので当然ですが、御社のカルチャーを構成する要因として、藤田さんの人格はどのぐらいを占めるのでしょうか?

曽山|「21世紀を代表する会社を創る」という会社の方向性は、確かに本来創業者の藤田が作りたいと思っていたものが基本になっていると思います。

ただ「藤田の人格」という切り口よりも、そのビジョンが何よりも前提としてあるので、ビジョンから考えたらこういうカルチャーや人事制度が一番経済合理性の観点で良いだろうという順番なんです。

会社を経営しながら様々な学びを得て、彼自身が考え方を変えてきているんです。

なので藤田の人格という視点よりは、やはり当社のカルチャーというのは理想に対する戦略を言語化した結果、人を大切にする形になったということです。

冨田|当然藤田さん自身の人格も、会社と一緒に育っているという側面があるわけですよね。そして、御社のカルチャーの成り立ちは創業者の人格という視点ではなく、あくまで理想に対する最適な方法論として滲み出ていると。

曽山|そうです。何より掲げている理想や描いたビジョンを実現するというところに必ず目的を置かないといけません。

例えば「人材育成が大事」というのは異論が無いと思います。一方で、多くの方々が誤解しているケースがあるのですが「人材育成を『やること』が大事」となってしまっているんです。その先の成果や目的がない。これは手段の目的化です。

サイバーエージェントの場合は、敢えて第三者目線でドライに言うと

「育成は業績を上げるため」

と考えています。

育成と業績の関係性を見ると、育成で先ずその人の業績が上がります。さらにその個人も成長するという両面のメリットがあるんです。だから育成するんです。目的も無くとりあえず研修をやってしまうと、研修自体はとっても良いものなのに、目的がないから意味がないってなりがちなんですよね。

全ての人事施策を考える際に、全部業績につながるかどうかを常に意識しています。

全てを定量的に説明できないとしても、まずは考えるようにしています。例えば「飲み会」は一人5000円出しますと言っても、5000円分の費用対効果が必ずあるかは厳密には分かりません。ただ、一回楽しい飲み会であれば、関係性は良くなります。5000円でチームメンバー同士がより仲良くなるんだったら、費用対効果は高いといえるんじゃないか、という感じです。

サイバーエージェント人事戦略の図解を語る


冨田|御社は凄く「合目的的」だなとあらためて実感しています。あらゆる手段が必ず目的、つまりビジョンの実現に紐づいていると。

私は色々な会社の人事戦略・方針がどう事業戦略と紐づいているかをついつい見てしまいます。裏を返すと、事業戦略と整合性の無い人事戦略は意味がない、悪手なんですよね。

こちらが私なりに理解しているサイバーエージェントさんの事業戦略と人事戦略の整合性を図解したものです。

御社は「21世紀を代表する会社を創る」ために、私の言葉で表すと「"成長領域"で打席に立ち続ける」という事業戦略を一貫している。この事業戦略を極めて精度高く実行し続けるために「素直でいいやつ」の採用に相当力を使っている。なぜながら、成長領域は常に新しい情報にキャッチアップする必要があり、かつ失敗確率も高い。そんな領域に必要な人材は「素直でいいやつ」である。そんな彼らのメインエンジンとして「高いモチベーション」と「ハードワーク」を維持するために育成、抜擢、表彰、貢献という施策や価値観を手段としてのカルチャーとして育んでいる。

こちらの図解に、ぜひ曽山さんから直接ツッコミをいただけませんか?(笑)

曽山|この図を見たときびっくりしました、本当に良く整理頂いてますね。

例えば「育成」に関しては、最近も藤田の言葉に繋がる部分があります。藤田は後継者を選ぶことを公言していますが、その中で幹部に向けてこう発信しています。

「私の後継者は、人を一番育てた人を選ぶ」と。

人を一番育てた人というのは、先程の経済合理性で言えば業績を上げている人を大量に育てたということなりますから、そういった人を育てられる人が偉いというのは当社のカルチャー・人事施策として重要なのは間違いないですね。

次に「表彰」ですが、これは表層的にはわかりやすいですが、もっと深層には「褒めて承認する」というのがあります。そしてそのためにチームや部下をしっかり「観察する」必要がありますね。

また「新卒採用」がコアエンジンであることは間違いない。ですが、実質6〜7割は中途採用なので、表現としては「若手採用」がしっくりきます。

(曽山さんのフィードバックを反映した人事戦略図解)


採用・育成・活性化・適材適所・企業文化


冨田|
今のお話の中でも「育成」にフォーカスしてコメントがありましたが、御社は自社の強みとして「採用・育成・活性化」の3つを挙げています。

採用や育成はイメージもつきやすく、場合によっては定量的に測れるものですが、「活性化」は前の二つに比べると曖昧でノウハウが滲み出るものだなと。そこでこの「活性化」を御社の中で期待役割としてどんな位置付けで、どのように活用しているのでしょうか?

曽山|まずフレームワークを整理しますね。

この「採用・育成・活性化」というのは創業当時から藤田がずっと使っている言葉なんです。

「会社というものは、採用と育成と活性化をきちんとやれば、基本的に業績が上がるはずだ。」と。

そしてこの3つに、加えて2つの要素が組み合わせることも実は多いんです。それが

  1. 採用

  2. 育成

  3. 活性化

  4. 適材適所

  5. 企業文化

の5つです。これを私はHRペンタゴンと呼んでいます。会社組織のどこかが弱っている、うまく行かない時はこの5つのどれかに問題があるなと、そうやって組織や人事施策を診るためのものです。これが全体像、フレームワークです。

(HRペンタゴンを冨田なりに図にしてみた)

その上で、「活性化」の話ですね。

まずお勧めの本が一冊あります。読んだことがない経営者の方と人事の方はぜひ読んでほしいのが「心理学的経営」です。リクルートの創業者のおひとりである大沢さんが書かれた本です。

実はこの本、ずっと絶版になったんですよね。今、ペーパーブックでもkindleでも読めるので是非読んでみて欲しいです。

この本の中に、まさに「活性化」という章があるんです。これを踏まえて私の解釈だと、活性化とは

「未来の理想像に向けて会社を壊しながら進めていくことだ」

という説明なんです。

つまり、活性化とは細胞分裂であると。細胞は一個から二つに分かれてで三つに分かれて、そこから適者生存で生き残っていくわけじゃないですか。これを企業内でやるのが「活性化」なんです。活性化と聞くとBBQパーティーとか派手な祝いなどを想定しがちですが、もっと本質的に大切な「活性化」の考え方は目指す方向性に向かった創造的破壊と再生なんです。

当社の実例でいうと、2011年に「スマホ変革」を行いました。ずっとパソコンを使ったインターネットに関連する売り上げがメインだった会社を、思いきってスマホシフトさせるために「スマホアプリを2年で100個作る」という意思決定をしたんです。

活性化というのは、極端に振って、膨らまして、ゆらぎを意図的に作らないといけないんです。スマホアプリ1個ではなく、100個。そのためには大量の人に異動してもらったりチームをたくさん作ったり、新たな表彰の仕組みを用意したり。そうやって大胆な理想を掲げて、安定をあえて壊して会社を変えていくことが活性化なんです。

冨田|すごい回答が返ってきた。

今の話でもベースにやっぱり御社の企業文化がありますよね。たくさんの挑戦をして、失敗してもそれを讃える、セカンドチャンスがある。だからあえてゆらぎを作っても、会社組織がネガティブにならずに活性化するんでしょうね。

経営戦略との一貫性があるか?全てはそこから始まる


そんな「活性化」の賜物なのでしょうか、御社はとてもコミュニケーションが活発なイメージがあります。

そんな御社でもコロナとリモートシフトの影響は避けられなかったかと思います。どんな環境下でも良質なコミュニケーションを育むことは、健全な企業組織においてとても重要だと思いますが、オンライン、 オフライン、飲み会…などあらゆるコミュニケーション手段を曽山さんの中でどのように位置付けていますか?

曽山|まず手段としての「リモートワーク」はある意味どちらでも良いと思っています。あくまで「業績を上げる」という目的に沿ってどうすべきかですよね。

その前提で、現状サイバーエージェントでは毎週月曜と水曜と金曜日が出社日です。それ以外の火曜と木曜日をリモートワークの日「リモデイ」として定めています。

全ての人事施策には「経営戦略との一貫性」が絶対に必要なんです。

サイバーエージェントは企業文化としても対面を重視しています。緊密なコミュニケーションを通じて臨機応変にものづくりをしています。そのためにも、人間関係は絶対に良くしておかないといけない。故に認め合う、褒める文化や、食事会や飲み会など対面でのコミュニケーションを重視する。こういう順番で考えています。

一方で、オンラインMTG等リモート環境の良さもあるわけです。だったらそれぞれの良さをうまく引き出せるような最適なハイブリッドのバランスを見つけていこうと。そういう考え方ですね。

冨田|あくまで事業戦略、経営戦略との一貫性のもとで、対面を重視したハイブリッドスタイルなんですね。

曜日を固定にしているのはそういった背景から敢えてなのでしょうか?例えばエンジニア等からは違う要望があったりしますか?

曽山|はい。月、水、金で必ず行けば会えるという状態を作っておけば、対面のメリットを最も活かせると思ってそうしています。
コロナも落ち着いてきて食事会も明らかに増えてますし、対面のコミュニケーションはどんどん復活する傾向にありますね。

また、特定の職種で見てもフルリモート派、対面派と別れるのは事実です。ただ、結局幹部で色々と話してもらった結果、一定の出社や対面コミュニケーションは我々にとって重要だよねという合意ができたので、常に現場からの声はずっと聴きながら全職種で今のバランスを適用していますね。

冨田|一貫しているのは、全てが合目的的ですよね。コミュニケーションに関する捉え方も、その際の対面かリモートかのような方法論も、あくまで重要なのは目的であると。

例えばカルチャーの「浸透」というのも目的になりがちですよね。カルチャーって人の身体でいったら「血液」みたいなものなので、組織でその血流を生み出すのが「コミュニケーション」だと思うんです。1on1とかはあくまでHowの話で。だからこのコミュニケーションの量と純度を高める努力をし続けないといけないんですよね。

その点でサイバーエージェントさんは優れていると思っています。各々の事業のみならず、採用等の全社横断の取り組みなども通じて幹部と若手が横や斜めでコミュニケーションする機会が多かったり、採用の場で社員が自分の言葉で会社の魅力を語ったり、どんな人を採用すべきかなど圧倒的なコミュニケーション量と質で「文化のキャリブレーション」が行われる仕組みになっている。

曽山|「企業文化をデザインする」を読んで「文化のキャリブレーション」って言葉を使って頂いているのをみて、なるほどなと思いました。

キャリブレーションって要は「軸を合わせる」ってことですよね。例えば目標設定や評価って難しいじゃないですか。これを対話を通じて軸を合わせていくのがキャリブレーション。確かにサイバーエージェントはすり合わせの文化が凄くあるなと思いましたね。合議制とは違うんです。あくまで対話ですり合わせていくんですよね。

どんなセリフを引き出したいか?逆算で考える人事施策


冨田|
「浸透」というキーワードが出てきたのですが、浸透って定量的に測りづらいですよね。浸透に限らず、人事施策は定量的に扱いづらいものが多いですが、曽山さんなりに工夫している方法はありますか?

曽山|企業風土という観点で私がやっているのは

「1年目チェック」

です。例えば企業風土を変えたいと、新規事業を歓迎する風土を作りたいと。施策をやった後に実際変わったのか。これをチェックするには会社の1年目の人に「うちの会社って新規事業を作る風土ってあると思う?」って聞けばよいんです。

新卒でも中途でも、それを何人かに聞けば大体事実がわかるんです。

冨田|なるほど。風土を作るのはトップからだと思いますが、逆にチェックするのはボトムからなんですね、確かに。

曽山|また、私がよくやる定性的な業務の定量化の目標設定の方法として「セリフメソッド」というのがあります。

例えば新規事業の風土を作りたいとしたら、まず主語を決めます。主語 = 1年目から、ですね。次に1年目からどんなセリフが出てきたらOKかを決めるんです。

「1年目から、うちは新規事業がたくさん提案できる会社です」

ってポジティブなセリフが出てくるかを目標にするんです。例えばこれを10人に聞いて、5人出てきたら5点です、みたいな定量の仕方ですね。1年目が言うセリフが出てきたら、上は言うはずなんです。逆はないですからね。

冨田|その法則、いつどうやって見つけたんですか?

曽山|人事になってから見つけました。私は営業出身だったので、人事部門のフラストレーションは数字で語れないということだったんです。

ある時役員から、ある幹部に厳しい対話をしてほしいと依頼を受けました。結果的にその解決ができたので役員に報告したら

「曽山くん本当にありがとう。チームメンバーが凄くやる気になって、これは業績絶対上がるよ。」と。

これが凄く嬉しかった。そしてこれだと見つけた。経営陣からセリフをもらうこと。経営陣のみならず、社員からセリフをもらえたら、これは会社が良くなっていると言えるでしょうと。何か変えたいこと、浸透させたいことがあったら浸透のアクションを取るよりも先ず、どんなセリフを社員から引き出したいかという逆算で考えますね。

冨田|だから人事が現場とのコミュニケーションが多いというのもあるんですね。

曽山|そうです。私が社員と食事に行ったり飲みに行ったりするのもそのためですね。経営のメッセージを直に伝えるというのも大事ですが、同じぐらいそれぞれの食事会、飲み会で話を聞かせてもらうという目的があります。

冨田|ナチュラルな飲み会でもしっかり目的があるんですよね。それを日々やり切っている経営幹部、人事チームは素晴らしいなと思います。

また、派生的に今の話で素晴らしいなと思うのがネーミングが絶妙ですよね。サイバーエージェントさんは言葉に残して、それを広げていくのが絶妙にうまい。言葉を尽くして、言葉と共に型にして、それを社内外へ広げていくのも御社の素晴らしいカルチャーですね。

全ては勝ち続けるために。


冨田|言葉の力でいうと、藤田さんはずっとアメブロを書いていると思います。言葉の大切や御社のカルチャーのまさに発信の場となっていますが、曽山さんや人事の立場から、藤田さんのブログの価値をどのように位置付けていますか?

曽山|もう本当にシンプルで「広報」ですね。

自分たちの会社はこういう会社であり、こういうことを頑張っているから、皆さん、ぜひ応援していただきたいと言う狙いがあって、明確にやってると思います。藤田は常に「人事と広報が大事」と言ってますね。

ブログの背景としては、特に成長企業というのは誤解されやすいんですよね。ちょっとしたことで揶揄もされるし誤解される。でもインターネットの時代、SNSの時代はそういったものを止められないから、自分たちの主張をしっかり出していこうと。故に人事としては採用にも凄く効いていると体感していますし、社内マネジメントにも効いています。

冨田|外に発信しながら、結果的に社内に効かせているという感じを私は受けています。

曽山|もちろんですね。外に出すことでの「反響広報」を狙っています。外に出すことで、その反応が噂で回ってくる。それが社内でポジティブに働くんです。

私もYouTubeでソヤマンとして発信し始めてからメンバーに「ソヤマン見てます!」みたいなポジティブな声がかかるようで、それがまさに反響広報ですよね。

やっぱり勇気がいるんです。外に発信するのは。非難されたり攻撃されたりする可能性も増えるので。ただ、ブログも含めた「発信」というのはどんどん周りは脱落するので、やり続けたもの勝ちのゲームなんですよね。私もずっとアメブロ書いてますし、ソヤマンをやったり、やり続けた人にしかわからない効果、効力感がありますね。

冨田|私もnoteで発信していなければ今回の出版も曽山さんのこのインタビューも無かったので、発信の効果は大変感じるものがありますね。

それでは最後の質問です。

曽山さんにとって「企業文化」とは何でしょうか?

曽山|難しい…。

そうですね、これは

「勝利のための共通言語」なんですよ。「共通様式」って言ってもいいかもしれないですし、「共通言動」って言っても良いかもしれない。

必ずしも言葉になってないかもしれないけど、自分たちはこういうカルチャーで行こうって決めるということは、こういうカルチャーで行けば勝てるっていう思いであり、意思決定なんですよね。

だから、企業文化とは

「勝つための共通言動」

といえると思います。

冨田|まず「勝利」という目的がある。

その上でのカルチャーを意図的にデザインし続ける。

これが曽山さんであり、サイバーエージェントさんらしさなんですね。

本日は本当にありがとうございました。

編集後記|背中で民を統べる。


「なるべくしてなっている…。」

曽山さんと話せば話すほど、サイバーエージェントの企業文化が驚くほど一貫・徹底してデザインされているかを実感する。それは曽山さんのよく言う「経営の言行一致」の賜物でもありますが、それよりも遥かに重要なのが全ての施策や考え方の根底に「必ず目的を問う」という原理原則があるということ。それは具体的に言えば「21世紀を代表する会社を創る」という目的であり、もっと抽象的に言えば「勝つ」というシンプルな営利企業としての目的である。ここで戦うと決めた、熾烈な競争環境の"インターネット"という成長産業で勝ち続けるために。

ー 全ては勝ち続けるための企業文化デザイン論。ー

それを地で体現し続け、結果を出し続けているという会社が、他でもないサイバーエージェントという会社でした。

私はサイバーエージェントグループで働いた経験があり、その時の"ユーザー体験"も含めて、以前Twitterまとめたコメントここでセルフ引用します。

サイバーエージェントグループで働いた数年間は、振り返ると「組織・カルチャーデザイン」の観点でかけがえのない経験だった。 これはあらゆるスタートアップが学ぶべき事業・組織グロースの土台だと思っている。 全ては人で始まり、人で成長し、人で終わる。

そもそもスマホとクラウドの登場と、ITベンチャーがスタートアップと呼ばれ始めたころから過度な「プロダクト偏重」志向が蔓延した。これは短期に事業がハイパーグロースしても、結果その成長に組織が追いつかず多くの崩壊事例を作ることになった。

私的な経験でいうと、憧れる上司たちの背中、抜擢と子会社の経営、社員総会プロデューサー…等を通じて徹底的に叩き込まれ、日々の行動や意思決定においてそれが当たり前になった。 ただ、外に飛び出してそれがスタートアップ経営の当たり前で無いことを目の当たりにした。

リクルート式組織・カルチャーデザインのイロハは数あれど、その真髄は経営メンバーの徹底したコミットメント。キーワードは「言行一致」、日々の行動から言動、採用活動や飲みも含めた圧倒社内コミュニケーションの量と質、各種社内イベント… 全てに経営・幹部レイヤーが高いシンクロ率を発揮する。

サイバーエージェントの組織・カルチャーデザインは、言わばリクルート、インテリジェンスと続く脱ものづくり(有形資産)へのカウンターカルチャーの暖簾分け。起源は人的資本への圧倒的投資。それは単に優秀な人材を採用して終わりではなく、ハイパーモチベーション組織を創り上げる仕組みにある。

これが当たり前で無いスタートアップ経営では「経営陣のチームビルディング」がその会社の多くの課題の根源であることが少なく無い。経営陣の"現行不一致"が最も悪影響を発揮するのは組織・カルチャーデザインのレイヤー。実際CxOを外部登用に頼らざるをえない構造はこの問題を引き起こしやすい。

一方でサイバーの事例が分かりやすいが、経営陣や幹部のほとんどが生え抜きで構成されている。つまり極めてカルチャーフィットが高く、ゆえに経営における現行一致が実現しやすい。創業数年のスタートアップには簡単に真似できないが、社内人材の"抜擢ポテンシャル"という観点を低く見積もり過ぎている。

そんなプロパー(生え抜き) / 抜擢 / あらゆる言語非言語コミュニケーションを通じて組織・カルチャーデザインしているサイバーエージェント。
「背中で民を統べる。」
これが私から見るサイバーエージェントという会社の文化でありスタイルであり骨格です…

ただし、本書でも触れている「要点」ですがどの企業も「サイバーエージェント流企業文化」をそのまま当てはめて上手くいくかというと、そういう類の話ではありません。それぞれの事業ドメイン、起業家や経営チームが有しているカルチャー、とるべき事業戦略やフェーズによって、その都度その場所で最適なカルチャーがあるのです。

一方で、サイバーエージェントから学ぶべきエッセンスというのは

・会社組織を構成する「人」事から逃げない
・「人」や「文化」を目的から逆算して戦略とともにデザインし続ける

という2点に尽きます。

この2点をやる必要のない会社は、ほとんどないのではないかと思います。日々、華々しくリリースされる資金調達、幹部採用等の他社のハイライトに対して、多くの会社がその結果「実際に失敗してしまった」要因は極めて複合的であり、上記2点の欠如を多くの場合内包しているにも関わらず、"敗者の弁"は必ずローライトとなり、広く語られることが少ないのが「常に実態」であるというのが、そもそも私が本書を書いたモチベーションになっています。

会社とは、生身の人間たちが敢えて群れを成すことで形を作っています。

群れが群れとして成立するための目的を定め、常にその目的に沿って正しく群れが成長し、動き続けるためには、それを統べるべき人が「人」として細心の注意を払い、他の群れよりもより強く、長く、遠くへ行けるように「デザイン」し続けないといけません。

本書並びに本連載企画が、多くの企業やはたらく人たちにとって、最も根源的な部分への「良質な問い」となることを祈って。

終)

本書の「はじめに」と「序章」を無料公開しています。


バックナンバー|企業文化をデザインする人たち

#01|CARTA HOLDINGS 取締役会長兼CEO 宇佐美進典

#02 株式会社マネーフォワード People Forward 本部 VP of Culture 金井恵子

#03 ex-SmartNews, Inc. Head of Culture Vincent Chang

#04 株式会社グッドパッチ People Empowerment室 人事 高野葉子

#05 株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO 曽山 哲人


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Kenji Tomita / 冨田憲二
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