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7日後リテンション率8%→20%越えを実現した試行錯誤の記録|ラントリップアプリ

ラントリップでは既にリリースしていたiOSアプリをリニューアルする形で、昨年11月に「ランナー向けSNS体験|Journal(ジャーナル)」を正式にリリースしました。

もっと自由に、楽しく走れる世界

を全ての人に提供したいと考えている我々にとって、
日常的な営みであるランニングを「コミュニティ」の力で、
オフラインの営みであるランニングを「オンライン」の力で、
優しく温かく後押しすることが、どうしても実現したい重要なラントリップ体験の大きな価値として昨年意思決定をし、5月にテストリリース、11月に正式ローンチとなりました。

どんなにエモいビジョンを持っていたとしても、実際のプロダクトづくりは定性と定量、エモーションとロジック、インサイトとサイエンスの絶妙な掛け合わせでしか生まれないと思っています。

今回は、そんな「定量/ロジック/サイエンス」の側面から実際にラントリップアプリチームにて行ってきたカイゼンの記録を、主にKPIとしての
7日後リテンション率(Day 7 Retention Rate|以後「D7RR」と略します)
を通じて解説、共有します。

数字カイゼン前に良いプロダクトづくりの基礎体力としてやった(やっている)こと

具体的なD7RRの向上施策を解説する前に、より良いサービス、プロダクト作りとしての準備運動、基礎体力づくりとしてやったこと、やっていることを先にまとめておきます。

1. 他サービスから徹底的に学ぶ、必要な形で取り入れる
2. 継続的にユーザーさんからインサイトを学ぶ
3. 正しいKPIを設定し、ダッシュボードを整備/活用する

1. 他サービスから徹底的に学ぶ、必要な形で取り入れる

後ほど紹介していきますが、今回我々はアプリをより「オンラインコミュニティ」としてグロースさせるために、本当に様々な同様のアプリやサービスのユーザー体験を通じて、必要なカイゼン施策を学んできました。
当然それは、そのままパクれば上手くいくといった類のものではなく、いかにそのプロダクト、ユーザーニーズのコンテキストに合わせてイストールしていくかが大切となります。
また、可能な限り実際のPMやディレクターに直接話を聞きに行くことによって(アポをとる努力も!)そこでしか得られない深い気づきや学びを自ら獲得しに行くことも大事です。サービス立ち上げに際して快く、気前良くノウハウを提供して下さった先人たちにはこの場を借りて本当に感謝してもしきれません(とは言え、まだまだお世話になります汗)。

2. ユーザーからインサイトを学ぶ

「ランナー向けSNS」という、古くて新しい価値を提供するにあたって、対象となるユーザーが抱える「課題」は何なのか、その「課題」にフォーカスした1on1のインタビューを通じて「インサイト」を発見し、そこからいくつか仮説を立てて検証していきます。当たり前の話ですが、この当たり前を本気でやり切れていないチームは結構あるんじゃないかと思っています。パソコンの前でウンウン唸ってないで、街へ出てユーザーと話をしろ!ランナーを観察しろ!ってやつですね。
また、チームへの共通認識作りとしては「ジョブ理論」をベースに整理、展開しています。
つまり、ユーザーインタビュー等を通じて複数の「ジョブ」を絞り出し、そのジョブに「雇用」される体験の仮説を立てて、ミニマムかつ高速で仮説検証していく作業です(ザ・リーンスタートアップ!)。
当然、「ジョブ」が異なれば「雇用」されうるライバルも異なるので、ここでもライバルとなるようなサービスをユーザー体験を通じて徹底的に学び、感じ、それを上回る価値を提供できるかを検討、検証し続けています。

3. 正しいKPIを設定し、ダッシュボードを整備する

正しいプロダクト作りは、目的地へ可能な限り最短ルートでたどり着くことです。そのためには、その都度の運転状態を正しく伝えてくれるダッシュボードと、常に示唆を与えてくれるKPIの設定が欠かせません。

ここでも1の学習プロセスを通じて、
・提供するサービスの価値の本質と、その本質を定量的に可視化できるKPIの設定
・設定したKPIをどのように可視化し、プロダクト開発として、チームとして追いかけていくか
を学びました。

結論から先に書きますと、サービスの特性上カイゼンの最重要KPIを

・初回投稿率
・7日後リテンション率(D7RR)

定常的に注視するKPIとして

・週次のユニーク投稿者数

と設定しています。土日に明確なピークがくるランナーの特性と、コミュニティという特性を考慮して週次で見ていくのが一番バランスが良いという結論になりました。
実際それ以外にも様々な観点で数字を見ていますが、カイゼンの矛先をしっかり絞ることもまた、チームとしてのパフォーマンスを上げる上で大切です。

また、計測・BIツールとしては以下で行っています。

・獲得チャネルごとのリテンション、イベント分析 -> AppsFlyer
・データの集計とダッシュボード化 -> BigQuery & Data Portal

プロダクトのマイルストーンを設定する

本気で価値あるサービスなのであれば、より多く、世界中の人に使って欲しいと願うのが作り手の心情ですね。

「ジャーナル」と名付けたこの「ランナー向けSNS体験」も、できれば世界中のランナー、いや、普段ランニングを楽しむことの無い全ての人たちにもランニングを始める、楽しむきっかけになって欲しい。

そんな数年後のエモいビジョンは最終到達地点としつつ、その道のりへの歩みを、確かで手触りのあるものにするために、マイルストーンを設定します。

イマドキのプロダクトづくりにおいて最初のマイルストーンとなるのが、いわゆるプロダクトマーケットフィット(Product Market Fit|PMF)ですね。細かい定義は重要ではないので、端的に言うとサービスとしてバケツの穴が塞がった(その上でスケールが見え始めた)状態を目指します。つまり、ある程度の新規流入があればユーザーのベースラインが着実に増え続ける状態です。つまり「リテンション」をある一定ラインまで高める、ということですね。(その先のグロースの議論は今回は省きます)

サービスグロースにおいてなぜリテンションが大事なのか、英語ですがこのAirbnbの元Growth Leadが解説するY Combinatorの動画がわかりやすいです、箸休めにどうぞ。

この動画では"Repeat Usage"とも表現していますが、
"「再訪」こそ最も「ユーザーはあなたのサービスを愛しているか?」という問いに対するバイアスの無いデータ"
だと断言しています。

以上の観点がから我々は以下の2点にフォーカスしてサービスカイゼンを行いました。(まだ行っています)

こちらは昨年5月のテストローンチ当初に立てた目標です。
まずはここまで持っていかないとスタートラインに立てないよね、といった感じの設定です。
(As isにも記載がありますが、リリース当時の数字が絶望的に低い笑)

また、KPIも含めたサービスデザインにおいて、
「何がサービスのコア体験なのか?」というのがかなり重要な問いと認識になります。

ジャーナルのコアな体験は

ランニングをする -> ジャーナルを投稿する -> NiceRunなどリアクションがたくさん返ってくる -> ランニングをする -> またジャーナルを投稿する....

という
「走る -> 応援される -> モチベーションが上がる -> 走る...」
ポジティブループです(SNSの典型ですが)。
蛇足ですが、このようなバーティカルのコミュニティ(SNS)の価値は、この場所でならば全力で自分の体験をシェアできる、承認し合えるといういわゆる「心理的安全性」にあります。
これはユーザーさんへのインタビューで得られたインサイトや、当然我々自身がランナーなのでその体験としても明らかでした。

その土台を作るためにも、今見ても低すぎる最初の投稿率(3〜5%)とD7RR(8〜9%)を早急に引き上げる必要がありました。

さて、前談が長くなりましたが、以後に投稿率ならびにD7RRを向上するために行った施策や学びをまとめていきたいと思います。あくまで隣の芝生の参考事例という前提で、生暖かく見てみてください。

◇Day1、Day3、Day7におけるローカルプッシュ

手始めに手軽にできる施策として、定番のPush Notification活用術。
Pushの許可率をいかに高めるかという点は一旦おいておいて、初回インストール直後のローカルプッシュを工夫しました。

直接ジャーナルに関わる体験以外にも、広くランナー向けにどんな訴求が価値があるのかワーディングも含めてPDCAを回しています。

D7RRに与える影響は大きくても1%程度(誤差?)な感触でした。

◇投稿のテーマやイメージを提示する

いきなり投稿してくださいと言われても、具体的に何を書いたら良いんだろうとなるユーザーさんの初期の声を聞き、こんなLPを作成し、先ほどのローカルプッシュのランディング先として訴求しました。

まずは「自己紹介」という切り口を提案しています。
以後この「自己紹介」という初回投稿の切り口はカイゼンのファクターとなります。

こちらは投稿率改善に向けた施策でしたが、オンボーディングの導線に組み込んだわけでは無かったのと、読了する手間を考慮してもややハイカロリーなためDay0〜Day1のユーザー体験として提示するにはちょっと無理がある手法だったかなと振り返ります。

◇会員登録導線の変更

インストール -> 会員登録 -> Journal投稿
のファネルは当初次のような実績でした。

会員登録後でないとジャーナルを投稿できないサービスデザインなため、そもそもこの会員登録率を向上させる必要がありました。

やったことはシンプルで、

初回起動直後のウォークスルーを廃止、直列で会員登録画面へ

としました。ウォークスルーは当然、入り口における丁寧なサービス説明(期待値コントロール)という目的がありますが、同時にAppStoreのプロダクトページを改善し、基本的にダウンロードというハードルを超えた時点で一定の理解はあるはずだと仮定し、一気にウォークスルーを廃止、直会員登録にしました。

結果がこちらです。
会員登録率を大幅に引き上げることができ、合わせて投稿率も引き上げることができました。
この「直列理論」は、後の投稿率改善でも大きく寄与することになります。
また、この時の施策は最終的なD7RRに対してネガティブに働いていなかったため、有効と判断しています。

◇獲得チャネルにおけるリテンション率への影響

分析のセオリーとしては、検証したい施策以外は極力同条件で実施する必要がありますね。
ラントリップアプリのユーザー獲得チャネルは既存のWebサービスや各種ソーシャルメディアアカウントなど多岐に渡るため、同様な「期待値」で流入したユーザー群に対するシングルアクションの結果を定量的に検証する必要があります。

よって現状我々は検証の都度にInstagram広告で基本同様のクリエイティブで集めた母集団に対する検証・分析を行っています。

裏を返すと、この獲得チャネル・クリエイティブ(=インストール前の期待値)コントロールによってD7RRが異なる、向上できるのですよね。

今後のメインの獲得チャネルをどこに設定するか次第ですが、メインチャネルにおけるインストール前の期待値コントロールの幅として、

・誘導クリエイティブの改善
・プロダクトページの改善

は地味に効果があったと考えています。特にランディングするプロダクトページのスクリーンショットは大事ですね(すみませんここは感覚です笑)

(改善後のプロダクトページ|スクリーンショット)

このスクリーンショットのカイゼンを行う頃には、既存ユーザーさんのインサイトも通じて「モチベーション」というのがかなりコアなワードであることが分かっています。

◇自己紹介投稿モーダル

先の施策で「自己紹介」という初回投稿の投稿テーマの提示と、オンボーディング導線へ組み込まなかったことを書きましたが、次にこの施策のリベンジ戦として、オンボーディング導線に「直列理論」をベースに次のように組み込みました。

初回インストール -> 会員登録 -> 自己紹介投稿を促すモーダル表示

参考にしたのはCARTUNE先輩です。
同じバーティカルコミュニティというカテゴリで先陣を切って成功していたので、Founderの福山さんにも本当に色々と教えてもらって感謝しかないです。CARTUNEではオンボーディング導線において巧妙に自己紹介投稿への導線が組み込まれていました。

これらを参考に、ジャーナルのオンボーディングでは会員登録完了直後に、このような画面で自己紹介投稿を促してみました。

このあたりでようやく投稿率が10%に乗ってきました
ただ、D7RRはあまり変化なく、本質的にはD7RRを向上させるために、一番インパクトの大きい投稿率を向上しようとしている訳で、もっと抜本的な改善が必要だと認識し、一気に壁にぶつかった感を味わっていました。

◇「初投稿」が集まる"場所"作り

一方で、コアなユーザー体験と定義した

コア体験のポジティブループ
「走る -> 応援される -> モチベーションが上がる -> 走る...」

においては、初投稿でいかにリアクションがつくかがとても重要な指標になります。これを初回投稿時のエンゲージメント率として、D7RRに密接に結びつく重要なKPIとしてチューニングしてきました。

色々と施策を行った中でも、分かりやすく効いているのがその「初投稿だけが集まる場」を用意してあげたことです。

ジャーナルのタイムラインはタブで切り分けできるデザインのため、そこに「初投稿🔰」タブを設けることによって、今では初投稿&フォロワーゼロでも50〜80のNiceRun!が集まるようになりました。

このあたりは、「ひま部」さんのサービスデザインが参考になりました。

今回は割愛しますが、こういった分かりやすい機能でのカイゼンだけでなく、もっと定性的、属人的、コミュニティマネジメントベースでの泥臭く生暖かい施策もかなり行っています。

当然これらが今度のサービス拡大にどこまでスケーラブルかというという視点もあるのですが、

・速いランナーも、遅いランナーも
・1km走ったランナーも、30km走ったランナーも
・死ぬほど追い込んで走った投稿でも、休足日のラーメン投稿でも

お同じランナーとして等しく称え合う、支え合う、笑い合う。
そんな「もっと自由に楽しく走れる世界」のビジョンを軸としたInclusive(≠排他的)なコミュニティ作りが、ボディーブローのようにエンゲージメント率という定量的な結果に現れていると思います。
この辺りは、もう感覚だし、信念です。
当然エモくてサイエンスできない部分なので、この投稿ではほどほどにしますね。

◇自己紹介投稿モーダル(改)

最後に、最大に効果的だった施策を共有します。

先ほどの「自己紹介投稿」は筋は悪くないと思っており、もう2捻りぐらいすれば劇的に投稿率、ならびにD7RRがカイゼンできる道があるはずだとチームで知恵を絞り出していました。

「直列理論」をベースに、かつバーティカルコミュニティアプリとして最も完成に近いサービスとベンチマークしているのはアングラー(釣り人)向けのSNSアプリ「FISHBRAIN」です。このアプリのオンボーディングは「初投稿」まで鬼の一気通貫です。

また、そもそもSNSサービスの定石として、会員登録時の取得情報からおすすめユーザーをリコメンドして最初のフォロー数を増やすというのがあります。
TwitterのGrowth Hackとしても有名ですが、逆にここで取得した情報をベースに、ある程度初投稿を自動で作ってしまうというアイディアが浮かびます。(これは惜しまれながらサービスを終了してしまったmertripからも少しインスパイアされています)
早速スライドである程度のイメージが共有されました。

(実際の画面イメージラフ案)

もう一つ重要な要件として、自動で生成される「投稿」がなるべくそのサービスにおいてネイティブであることが重要です。

つまり、タイムラインに流れてきて違和感ない、もっと言うとつまらなくない/面白いということですね。

そこでジャーナルには写真にランナー心をとらえたスタンプを追加できるのですが、そのスタンプの中でも人気なキャラクターをそれぞれの回答項目別に設定しました。

(オンボーディングにおけるどんなランナーですか?の問いに対する選択肢とスタンプ対応表)

その結果のベースのデザインアウトプットがこちらです。

選択したランナーのタイプによって投稿画像の背景と、そこに載るスタンプが変わります。これをベースに、オンボーディングにおいて会員登録直後に入力情報によってセミパーソナライズされた「初回投稿」を強烈に促すオンボーディングが実現できました。

(これは私の、神奈川県住まいで30代で、走っている理由は「ただ好きだから」を選択した場合のパーソナライズされた自動初投稿画面)

当初はユーザーさんの承認を取らずに勝手に投稿してしまうことも考えましたが、当社のバリューである「フェア」を軸に、投稿するかしないかは最終的にユーザーさんに委ねる今の形にしています。

さらに、この画面の文言においても、投稿ボタンのCTRを指標に以下のようなカイゼンを積み重ねています。

これらの施策により本投稿のサムネイルとしても載せました

 D7RRが及第点(と設定している)20%を超えました。
これは実際のAppsFlyerの画面です。

実際、検証してみると多少ブレがあるのですが、現状出せているパフォーマンスは下記のレンジです。

・初回投稿率は20〜25%
・D7RRは20〜23%

※ちなみにD7RRと1week RRは混同されがちですが、1week RRは50〜55%ぐらいです。

まだまた提供できていない体験は山積しているので、着実に血肉として積み上げればまだまだ数字のカイゼンはできるのと、何より現状でもある程度バケツの穴は塞がってきただけでよりマーケットにフィットして自己増殖的にスケールさせること、マネタイズとセットでグロースさせることがこれからの本当の大きな課題です。

最後に本題です。

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冨田

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Kenji Tomita / 冨田憲二
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