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地球の主人公は誰? 人新世時代に考えたい地球をつくった彼らのこと

先祖たちの余りある好奇心と努力のおかげで、現代に生きる私たちは様々な事実を知ることができる。

例えば「地球は45億年前にできたらしい」というのもそのひとつだ。
さらには、岩だらけの地球に初めて生命が誕生したのがおよそ38億年前、その生命というのが今の微生物たちの仲間だったということもわかっている。

将来的に事実が覆される可能性もなくはないけれど、現時点ではそれが正しいと多くの人に信じられている。それが科学というものだ。

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歴史の長さで見る地球の主人公

微生物たちが38億年前に生まれたとして、私たち現生人類(ホモ・サピエンス)はいつ生まれたのだろうか。
10〜20万年前にアフリカで誕生したというのが、今の通説だ(1)。そして彼らは6万年ほど前にアフリカを出て、徐々に全世界に人類が広がっていったとされている。

途方もなさすぎてイメージがつかみにくいので、微生物たちが生まれた時を24時間前だと仮定してみる。すると私たちが生まれたのはなんと、たったの2〜4秒前に過ぎない。目を閉じてふうっとため息をひとつつくだけで、人類の歴史はあっさり吹き飛ぶ。

種数で見る地球の主人公

ヒトの体には、おおむね一万種の細菌が棲んでいると推定されている(2)。
皮膚、口や鼻の中、胃腸、生殖器など、文字通り私たちは内も外も細菌に覆われている。どこにどんな菌が棲んでいるのかを詳細に見ていくと、さらに面白いことがわかる。

腸には特に多くの細菌が棲んでいて、その種類は4,000〜5,000種くらいとするのが妥当なようだ(3)。
実は細菌の場合は「種」という概念を持ち込むのが難しく、その境界線はぼんやりとしている。これについてはもっとあとの回で詳しく述べる。

生物学的階級でいうところの「種」のずっと上の「門」レベルで見ると、ヒトの体に見つかる門は主に6つで(4)、中でもFirmicutes門とBacteroides門が90%以上を占める。地球全体で見つかっている細菌が126門(LPSNのデータベース参照)であることを考えると、ヒトと暮らす細菌はヒトに特化した菌たちであることが見て取れる。

しかし、ハッザ族という狩猟採集民の腸内細菌を調べた最新の研究では、見つかった細菌のうち44%が新種だったとの報告もあり、細菌たちの多様なあり方を完全に把握するのは難しそうだ。

一方、地球全体に存在する細菌の種類を推定するのはさらに難しいが、数百万種くらいに落ち着きそうだという見方もある(5)。

個体数で見る地球の主人公

数の観点から見るとどうだろう。

現生人類としての私たちは、長いあいだほかの生命体にとって多くの動物のうちの一種類に過ぎなかった。集落を形成し、農耕を始めた者たちもいたが、500年ほど前まではせいぜい5億人程度の人口で、増え方も緩やかだった。

それが産業革命以降、爆発的に増加していった。国連のデータ(6)によると1950年で25億人、1970年に40億人、2000年に60億人、2022年にはついに80億人に到達した。
この増加には、公衆衛生の改善や抗生物質の発見による感染症死亡率が下がったことが大きく寄与している。
増え方は緩やかになりつつあるものの、50年後には100億人を超えると推定されている。
たった100年足らずで、人類は地球を文字通り埋め尽くした。

どこでサンプルを取っても、そこらじゅう人間のDNAだらけだ
これは、ある生態学者の言葉だ。
彼は河川や海など水中の魚の生態系を調べるとき、そこに含まれるヒトのDNAの多さに最初は驚いたそうだ。誰もいない場所にさえ、ヒトのDNAが満ち溢れているのだ。
主人公では飽き足らず、ヒトは地球を支配してしまったのだろうか?

ミクロのサイズまで縮んでみると、その認識は誤りであることがすぐにわかる。

海洋や土壌、陸地に存在する微生物はそれぞれ10の29乗〜10の30乗と推定されている(7)が、実はこの数字はかなりおおざっぱなものだ。
もっと小さいものを対象にしたらどうだろう。例えばヒトの体に棲む微生物の数とか。

残念ながら、ヒトの体に棲む常在細菌の数の推定についても、大まかな推定の域をでない。現在出版されている論文や教科書の大半では、100兆から1,000兆という推定が多いが、比較的新しい推定では、ヒトの細胞と同じ30〜40兆くらいだろうということになっている(8)。
細菌は常に増殖し、私たちの古い細胞とともに剥がれ落ちていくので、正確な推定は難しい。

1mlあたりの細胞数という話で言えば、彼らは非常に酸の強い胃では隠れ家である虫垂に一番多く、それを除けば小腸から大腸の出口に向かうにつれてどんどん増えていく。(9, P141)
とにかくたくさんなのだ。

失われてゆく、我々の内なる細菌』の著者であるマーティン・J・ブレイザー氏の言葉を借りるなら、私たちは微生物の惑星で暮らしているのだ。
歴史の長さも、種類も、数も。

1. White TD, Asfaw B, DeGusta D, et al. Pleistocene Homo sapiens from Middle Awash, Ethiopia. Nature. 2003;423(6941):742-747. doi:10.1038/nature01669
2. NIH Human Microbiome Project defines normal bacterial makeup of the body. National Institutes of Health (NIH). Published August 31, 2015. Accessed June 20, 2023. https://www.nih.gov/news-events/news-releases/nih-human-microbiome-project-defines-normal-bacterial-makeup-body
3. Leviatan S, Shoer S, Rothschild D, Gorodetski M, Segal E. An expanded reference map of the human gut microbiome reveals hundreds of previously unknown species. Nat Commun. 2022;13(1):3863. doi:10.1038/s41467-022-31502-1
4. Bliss ES, Whiteside E. The Gut-Brain Axis, the Human Gut Microbiota and Their Integration in the Development of Obesity. Front Physiol. 2018;9:900. doi:10.3389/fphys.2018.00900
5. Amann R, Rosselló-Móra R. After All, Only Millions? mBio. 2016;7(4):10.1128/mbio.00999-16. doi:10.1128/mbio.00999-16
6. World Population Prospects - Population Division - United Nations. Accessed June 2, 2023. https://population.un.org/wpp/
7. Whitman WB, Coleman DC, Wiebe WJ. Prokaryotes: the unseen majority. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998;95(12):6578-6583. doi:10.1073/pnas.95.12.6578
8. Sender R, Fuchs S, Milo R. Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biol. 2016;14(8):e1002533. doi:10.1371/journal.pbio.1002533
9. ロブ・デサール, パーキンズスーザン・L. マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち. 紀伊國屋書店; 2016.


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