見出し画像

あなたはBタイプ? Pタイプ? エンテロタイプで腸内細菌を占う

何かをグループ分けしたいという気持ち。
生物の種類、雑貨屋の棚、Googleドライブのファイル。
あらゆるものを、人は分類する。

2〜3歳ごろから、何かをグループ分けしたいという欲求が生まれるそうだ。

今日はそんなあなたの欲求をひとつ叶える記事を書こうと思う。

エンテロタイプという言葉を聞いたことがありますか?
直訳すると「腸の型」。
ここでは、腸内細菌の型を意味している。

何千種類も細菌がいて、その構成バランスは十人十色なのだけれど、なんとなくいくつかのパターンに分かれることがわかってきた。

※本記事は「健康な腸内細菌(とマイクロバイオーム)について最新の知見まとめ」の続き記事です。
最初から順番に読んでいくと、健康な腸内細菌とはどういったものか、より理解が深まります。


・本文中のカッコ付き番号は、記事下部の参考文献の番号を表しています。
・用語解説はこちら(随時更新)
・主要記事マップはこちら(随時更新)

エンテロタイプとは

腸内細菌の構成が人によって大きく異なるがゆえに、健康な腸内細菌を定義するのが難しいことは前の記事で述べた。

でもせめて、星座や血液型のように、それぞれの人が持つ腸内細菌をタイプ別に分けられたら、腸内細菌解明への大きな一歩になるだろう。
そう考えた研究者たちがいた。ドイツの研究者であるアルムガムらだ。

2011年、彼らが発表した論文(1)には「エンテロタイプ(腸のタイプ)」という新しい概念が紹介されていた。
彼らは、6カ国(デンマーク、フランス、イタリア、スペイン、日本、アメリカ)39名分のデータを分析し(実際には数名除外し33サンプルで実施)、
それらのデータは「バクテロイデス型(タイプ1)」「プレボテラ型(タイプ2)」「ルミノコッカス型(タイプ3)」3つのタイプに分けられるとした。

タイプを語るためにはかなり人数が少ないのだけれど、あとで述べるように彼らは別の大規模な研究のデータも併せて示している。

その中には、肥満やIBDの患者が含まれていたことも書き添えておく価値があるだろう。つまり、この分類は「健康な腸内細菌3つのタイプ」であるというわけではないかもしれないことを覚えておく必要がある。

エンテロタイプと国境の関係

同じ論文内で、彼らはより大きな2つの先行研究のデータを使い、同じ分析をした。ひとつは154名のアメリカ人を対象とした研究、もうひとつは85名のデンマーク人を対象とした研究だ。

これら2つの研究でも「バクテロイデス型(タイプ1)」「プレボテラ型(タイプ2)」の存在は認められたが、3つ目のエンテロタイプに属する細菌の種類が違っていた。(下図参照)

Arumugam M, Raes J, Pelletier E, et al. Enterotypes of the human gut microbiome. Nature. 2011;473(7346):174-180. doi:10.1038/nature09944

2017年に発表された中国と台湾の181名を対象とする研究(2)でも、第三のエンテロタイプは違っていた。

では、第三のエンテロタイプだけが人種によって異なるという可能性はないだろうか?

HMP(アメリカ人を対象とした大規模ヒトマイクロバイオームプロジェクト)、MetaHIT(ヨーロッパ人を対象)、中国の研究を比べてみても、人種による差はありそうに思えた。

続く、より小規模な研究でも、異なる国どうしの腸内細菌の構成は、同じ国に住む人どうしの腸内細菌よりも、大きく異なっていることが認められている。
北アメリカと南アメリカの比較、ヨーロッパとアフリカの比較、韓国と日本の比較、ロシアの田舎と都会、そして中国でも(3)。

他にも、エンテロタイプに影響を与える要因はいろいろと検討されている。食生活、性別、年齢、生活習慣、環境ストレスなどがその一部だが、これといった明確な要因はまだ見つかっていない。

エンテロタイプ研究の課題

腸内細菌の構成をエンテロタイプに分類しようとする有意義な研究には、いくつかの壁がある(4)。

まず第一に、エンテロタイプは星座や血液型のように「明確に」分けられるものではなさそうだということだ。それぞれのタイプには、重なりがかなりの頻度で見られる。
そのため、エンテロ”タイプ”ではなくエンテロ”グラディエント”(腸の勾配)という言葉を使うことも提唱されている。
重なりがあることの問題点のひとつに、エンテロタイプをバイオマーカーとして使うのが難しいということがある。特定のエンテロタイプと疾患のリスクを関連付けられたら画期的だが、重なりがあるとリスクを正しく判定できなくなる。

第二に、特に乳幼児や65歳以上の高齢者では、エンテロタイプをまたぐような腸内細菌の変化が日常的にダイナミックに起こっているという課題もある。
これでは、特定のエンテロタイプを特定の個人に当てはめたとしても、その正確性はあくまで一時的なものに過ぎなくなる。

腸をタイプ分けしてみたいという欲求を、この記事だけで叶えられなくてごめんなさい。
でも、私たちが腸をタイプ分けしてみたいと考えるなら、まず日本人の腸内細菌の傾向を知る必要があることはわかってもらえたはずだ。

次週は、日本人の腸内細菌研究に特化してお伝えする予定だ。
ヒトにはヒトの、日本人には日本人ならではの腸内細菌がいる

1. Arumugam M, Raes J, Pelletier E, et al. Enterotypes of the human gut microbiome. Nature. 2011;473(7346):174-180. doi:10.1038/nature09944
2. Liang C, Tseng HC, Chen HM, et al. Diversity and enterotype in gut bacterial community of adults in Taiwan. BMC Genomics. 2017;18(1):932. doi:10.1186/s12864-016-3261-6
3. Lloyd-Price J, Abu-Ali G, Huttenhower C. The healthy human microbiome. Genome Med. 2016;8:51. doi:10.1186/s13073-016-0307-y
4. Cheng M, Ning K. Stereotypes About Enterotype: the Old and New Ideas. Genomics Proteomics Bioinformatics. 2019;17(1):4-12. doi:10.1016/j.gpb.2018.02.004

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?