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“幸福の木”が咲いた記録

もう十二年ほど前ですが、
当時、勤めていたリラクゼーションの店で、私が担当で世話していた植物たちの中の、
ドラセナ(幸福の木)が、花を咲かせてくれたことがありました。

Facebookの過去記録で、ドラセナ(幸福の木)が花開くまでの。写真が出てきたので、ここにも記録。

その時に採用された店では、
立派なドラセナ系の鉢が3つありましたが、
どれも放置され、葉も落ちて痩せ衰え、枯れかけていました。
いくら丈夫な植物たちでも、長く水もやらず見てももらえず放置されていたら、枯れます。
どの鉢も、とても寂しそうな様相でした。

私は植物が好きなので、どこでも植物の世話を楽しみでしていて、
その店でも採用後、私が植物係を申し出、植え替え、肥料をあげて水をやり、毎日葉水をあげて話しかけていたら、
どんどん元気になり、新しい葉が伸びて、半年後には見違えるように生き生きと繁ってくれました。

まわりからは、植物に話しかける変わり者の物好き扱いされていたものの、
私のほうは、この植物たちがいてくれたから、この店で三年近く持ち堪えられたと思います。
この店にいた間、ちょっと精神的にキツイことが重なり、無理がたたって心身ともにズタボロの状態になりましたが、
唯一の友として支えてくれたのが、植物たちで、
店にあった三鉢のドラセナのほかにも、自分で育てたさまざまな鉢や水生栽培を持ち込み、この子たちに会うのが楽しみで、毎日出勤していました。

そして一年後の年明け、店の三鉢のうちのひとつ、幸福の木が、まるでご褒美のように花を咲かせてくれたのです。

はじめは新葉と違う、モコモコ白いかたまりみたいなものが出てきて、なんだろうと思っていたら、やがて花芽に。
この時は嬉しくて嬉しくて、よく頑張ったねと抱きついて誉めてあげました。


ゆっくりゆっくり三週間ほど蕾のままで、やがて香りが漂いはじめ、

一ヶ月ほど経って、開花。
夜のうちに花ひらくらしい。

小さな花がたわわに開き、蜜をたくさん出します。
香りは羽衣ジャスミンに似た感じの強いもの。

満開から少し盛りを過ぎた頃

咲いたあと、種も出てきましたが、採取は難しかったです。

調べると、ドラセナが咲くのは、十年に一度あるかどうかで、とても珍しいことらしく、
当初は、枯れる前に最後の花として咲くこともあると聞いたので、心配したものの、その後もずっとたくましく元気で、
なんと翌年も、二年連続で咲きました。

でも、香りが独特で強いのと、蜜でベタベタになるので、他のスタッフには歓迎されなかったみたい。

枯れかけていた木に花を咲かせたというので、しばらくは私、「花咲か爺さんならぬ、花咲か女」と揶揄されましたっけ。

しかし実は、この花の蕾がついた頃から、私はあちこちわけのわからぬ痛みに苛まれたり、不調になり、
やがて帯状疱疹が発症。
一週間、発疹がおさまるまで安静状態となり、
さらにその後遺症で、二ヶ月ほど働けなくなってしまい、
毎日、花芽が育って開花するさまが見られなかったのが無念でした。

発疹が消えてからも、後遺症の痛みで働けない中、何度か植物たちの状態を見るためだけに店へ行ったり、先輩にあたる人が時折写真を送ってくれたので、
かろうじて、過程の写真が残っています。

私には、幸福の木が、この店の障気やケガレと共に、私の身に負わされた災厄を最小限に引き受けるために、
私の帯状疱疹のタイミングで、昇華するための花を咲かせてくれたとしか思えませんでした。
花の開花には、浄化作用があるので。

しかし結局このあと、私のほうも心身ともに限界となり、
他の店とのダブルワークを増やしてこの店へのシフトを減らし、
植物たちに会うためだけに、最低限のシフトで働いていましたが、
帯状疱疹の翌年に、故郷の家族にも災禍があったこともあって離職。
その際、自分で持ち込んだ鉢はすべて回収しました。

ちなみに、私が帯状疱疹で出勤できない間、私が持ち込んだ鉢で特に水が欠かせなかった植物は、
私が次に行った時には、ミイラのようにみごとに枯れ枯れに枯れ果てていました。
誰も目も向けなかったらしい…感性を疑います。

こんな場所ですから、離職の際、鉢たちだけが気がかりで、お金を払って引き取りたかったけれど、
世話もしないくせに、それは許されず。
「無償で植木の世話をしにだけ来いよ」
なんてことも言われましたが、さすがに次の仕事もあるから、そうもできません。

余談ながら私は、技術のマンネリ化防止の意味もあって、この職になってからさまざまな店を渡り歩きつつ働いていましたが(この業種では勤続年数より経験の豊富さが大事)、
今に至るまで、過去に勤めた場所は、どこも、植物たちをただの置き物としか見ていない、生き物と認識しない、造花との区別がついていない人ばかりでした。
(都会人が、農家は遊んでいても勝手に作物が実って儲かるから楽だと思う人が多いのも頷けます)
植物たちばかりでなく人に対しても、お客様はイコール金で、スタッフは機械…血の通う生活のある人として見られていない環境も少なくなく、
そういう環境では、真面目に働けば働くほど、自分が枯渇していく状況になり、
癒す側が疲労困憊で人として枯渇していたら、一利もなくこちらが壊れてしまうため、
ギリギリ限界に達する前に、我慢せず見切りをつけ、リフレッシュも兼ねて離職して、新しい環境へ移るのが常です。
そもそも業務委託で、を補償もないのだから、義理も義務もないのですから。

そして、これまで勤めたところ、どこもかなりの繁盛店だったものの、私が離職して二年経たずに、なんらかの事情が生じて、ほぼすべて閉店しています(15店中残存してるのは、今勤めているところともう一軒のみ)。
私には合わない環境だったものの、店としては栄えていたはずなのに、トラブルや客離れではなく、なんらか、その場で営業を続けられない状況になるらしい。
なんとなく、因果応報を感じます。

くだんの店も、今は跡形もありません。
チェーン店だから、他の店舗はあるけれど。

あの植物たち、どこでどうしているのか…今もどこかで元気でいてくれるといいと、祈るばかりです。

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