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ある日あなたの影が消えたらどうしますか?
「影を失くした町」
真夏の陽射しが照りつける8月15日、静かな海辺の町サンシャドウで、誰も予想だにしなかった出来事が起こった。
その日の正午、突如として町中の影が消失したのだ。
最初に異変に気づいたのは、浜辺で日光浴を楽しんでいた観光客のジェーンだった。彼女が起き上がろうとした瞬間、自分の影が消えていることに気がついたのだ。
「まさか...」
ジェーンは周囲を見回した。そこで彼女は息を呑んだ。砂浜に並ぶパラソルも、遠くに見える灯台も、そして波打ち際を歩く人々も、誰一人として影を落としていなかったのだ。
パニックに陥りそうになるジェーンだったが、その時、彼女の目に奇妙な光景が飛び込んできた。
浜辺の端、岩場の陰から、黒い靄のようなものがゆらゆらと立ち昇っているではないか。
好奇心に駆られたジェーンは、その不思議な現象に近づいていった。
その瞬間だった。
「キャッ!」
ジェーンの悲鳴が浜辺に響き渡る。彼女の足元から、突如として黒い影が伸び始めたのだ。しかし、その影はジェーンのものではなかった。まるで生き物のように蠢き、ジェーンの体に巻きつこうとしている。
必死に逃げようとするジェーンだったが、影はどんどん彼女を飲み込んでいく。そして、ついにジェーンの姿は黒い靄の中に消えてしまった。
この出来事を目撃した人々は、恐怖に駆られて町の中心部へと逃げ出した。
その日の夕方までに、サンシャドウの町は完全なパニック状態に陥っていた。
影の消失。そして、人々を飲み込む謎の黒い靄。
これらの現象に科学的な説明を付けることは誰にもできなかった。
そんな中、町の古い図書館で一冊の古文書を発見したのは、17歳の少年アレックスだった。
彼は、祖父の形見である懐中時計を探すため、図書館の奥深くまで足を踏み入れていたのだ。
古文書には、400年前にこの町で起きた奇妙な出来事が記されていた。
「影喰らいの儀式」
それは、永遠の命を得るために行われた禁断の儀式だった。町の為政者たちが、町民の影を生贄として捧げ、不老不死の力を得ようとしたのだ。
しかし儀式は失敗に終わり、為政者たちは影の世界に閉じ込められてしまった。そして400年の時を経て、彼らは再びこの世界に戻ってこようとしているのだ。
アレックスは震える手で携帯電話を取り出し、親友のサラに連絡を取った。
「サラ、大変だ!この町で起きていることの真相が分かったんだ。」
アレックスが状況を説明し終わった頃、図書館の外では異様な光景が広がっていた。
空が真っ黒に染まり、町中から立ち昇った黒い靄が渦を巻いている。その中心には、かつての為政者たちの歪んだ顔が浮かび上がっていた。
「我々に影を捧げよ!さすれば、永遠の命を与えてやろう!」
彼らの声が町中に響き渡る。
恐怖に怯える町民たちの中から、一人、また一人と影を差し出す者が現れ始めた。
「やめろ!騙されるな!」
アレックスは必死に叫ぶが、彼の声はかき消されてしまう。
そのとき、アレックスのポケットの中で、祖父の懐中時計が激しく振動し始めた。
不思議に思って取り出してみると、時計の文字盤が淡く光っている。そして、秒針が逆回転を始めたのだ。
直感的にアレックスは悟った。この時計こそが、400年前の儀式を止めるカギなのだと。
「サラ、町の広場に来てくれ。きっと、この時計で何とかできる!」
アレックスは、群衆をかき分けて広場へと向かった。そこで待っていたサラと合流し、二人は為政者たちに立ち向かう。
「おい、化け物ども!」アレックスが叫ぶ。「お前たちの時代は、もう終わったんだ!」
為政者たちの注意が二人に向く。その瞬間、アレックスは懐中時計を高く掲げた。
まばゆい光が時計から放たれ、黒い靄を切り裂いていく。
為政者たちの悲鳴が響き渡る。彼らの姿が、光の中に溶けていくのが見えた。
そして、信じられないような光景が広がる。
空から無数の影が降り注ぎ、それぞれの持ち主のもとへと帰っていったのだ。
町に平穏が戻った瞬間だった。
しかし、それも束の間。
突如として、アレックスの体が光に包まれ始める。
「アレックス!」サラが叫ぶ。
彼の体が少しずつ透明になっていく。
「サラ、どうやら僕は...過去に飛ばされるみたいだ。」アレックスは苦笑いを浮かべる。「400年前に戻って、この悲劇が起こらないようにしなきゃいけないんだ。」
「でも、そんな...!」サラの目に涙が溢れる。
「大丈夫さ。必ず戻ってくるから。」
アレックスの姿が消えかける直前、サラは彼の手を強く握った。
「絶対に、待ってる。」
光が収まると、そこにアレックスの姿はなかった。
サラの手には、アレックスの懐中時計だけが残されていた。
それから1年後—
サラは毎日、浜辺でアレックスの帰りを待ち続けていた。
そしてある日、彼女の前に見覚えのある影が伸びる。
振り返ると、そこには笑顔のアレックスが立っていた。
「ただいま、サラ。」
二人は抱き合い、再会を喜び合う。
アレックスは、過去で何があったのかを語り始めた。彼は400年前に飛ばされ、為政者たちの野望を阻止することに成功したのだ。そして、長い時を経て、やっと現代に戻ってくることができたのだという。
「これからは、みんなの影が安全だ。」アレックスは晴れやかな表情で言った。
二人が手を繋いで歩き出すと、彼らの後ろに寄り添うように、二つの影が伸びていた。
その後、サンシャドウの町は「奇跡の町」として有名になった。影が消えた日の話は語り継がれ、多くの観光客が訪れるようになる。
そして、町の中心にはアレックスとサラの銅像が建てられた。二人の影が、永遠に寄り添い合う姿を表現したその像は、愛と勇気の象徴として、人々に希望を与え続けている。
人々は教訓を得た。影は単なる闇ではない。それは私たちの一部であり、大切にすべきものだということを。
そして、誰もが自問する。
もし自分の影が消えたら、あなたは何を失い、何を見出すだろうか?
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