無限図書館
「霧の向こうの図書館」
エリカが初めてその図書館を見つけたのは、彼女の18歳の誕生日の夜だった。
霧に包まれた静かな夜道を歩いていると、突如として現れた古びた建物。重厚な木製のドアには「無限図書館」と刻まれている。エリカは思わず足を止め、ドアノブに手をかけた。
ギィーッという軋む音とともにドアが開く。
中に足を踏み入れた瞬間、エリカの息が止まった。
天井まで届きそうな本棚が無限に続いている。螺旋階段が幾重にも重なり、どこまでも上へと伸びている。そして、本の間を縫うように、青い光を放つ蛍のような生き物が飛び交っていた。
「ようこそ、エリカ」
突然聞こえた声に、エリカは驚いて振り向いた。そこには、銀色の長い髪を持つ老人が立っていた。
「あなたは...?」
「私は、この図書館の管理人のアルバートだ。君を待っていたよ」
エリカは困惑した。「待っていた...って、私のことをご存知なんですか?」
アルバートは微笑んだ。「ここは特別な図書館なんだ。君のような"選ばれし者"だけが入ることができる」
彼は一冊の本を取り出し、エリカに差し出した。
「これを読んでごらん」
エリカが本を開くと、そこには彼女の人生が細かく記されていた。生まれてから今日までの出来事が、全て書かれている。
「これは...」
「そう、これは君の人生の本だ。でも、まだ書かれていないページがある」
アルバートは意味深な笑みを浮かべた。「君は、これからどんな物語を紡ぐんだい?」
その夜以来、エリカは毎晩のように無限図書館を訪れるようになった。そこで彼女は、驚くべき発見をする。
図書館には、まだ起こっていない未来の本も存在していたのだ。
世界の歴史、科学の進歩、そして個人の運命。全てが本に記されている。
エリカは夢中になって本を読みふけった。そして、ある日気づいたのだ。自分の行動が、未来の本の内容を変えていることに。
「アルバート、これはどういうこと?」エリカは不安そうに尋ねた。
老人は静かに答えた。「君の選択が、未来を形作っているんだよ」
その言葉に、エリカは大きな責任を感じた。
しかし、知識には代償が伴う。
エリカが図書館に通い始めて半年が経った頃、彼女の周りで奇妙な出来事が起こり始めた。
友人たちが突然姿を消す。街の風景が少しずつ変わっていく。そして、エリカ自身の記憶にも曖昧な部分が増えていった。
不安に駆られたエリカは、アルバートに説明を求めた。
「時間の流れが乱れ始めているんだ」老人は深刻な表情で言った。「君が未来の知識を得すぎたせいで、現実が歪み始めている」
「どうすればいいの?」エリカの声が震えた。
アルバートは重々しく言った。「選択肢は二つだ。全ての記憶を捨てて元の世界に戻るか、それとも...」
「それとも?」
「図書館の新しい管理人になるか」
エリカは息を呑んだ。どちらを選んでも、大切なものを失うことになる。
彼女は苦悩の日々を過ごした。家族や友人たちとの思い出。そして、図書館で得た無限の知識。どちらも、彼女にとってかけがえのないものだった。
決断の時が近づくにつれ、現実世界はどんどん不安定になっていった。建物が突然消えたり現れたり。空の色が頻繁に変わる。時には、人々が目の前で別人に変わることさえあった。
エリカは、自分の選択が世界の運命を左右することを痛感していた。
そして、ついに決断の日が来た。
エリカは図書館に向かい、深呼吸をして扉を開けた。
中に入ると、アルバートが静かに彼女を待っていた。
「決心はついたかい?」
エリカは、震える声で答えた。「はい」
彼女は、ポケットから一冊の本を取り出した。それは、彼女が最初に読んだ、自分の人生の本だった。
「私は...」
エリカの言葉が、図書館中に響き渡る。
その瞬間、世界が光に包まれた。
目を開けると、エリカは自分の部屋にいた。時計は、彼女が初めて図書館を見つけた夜の時刻を指している。
全ては夢だったのだろうか?
しかし、彼女の机の上には見覚えのない一冊の本が置かれていた。
表紙には「無限の物語」と書かれている。
エリカは、微笑みながらその本を手に取った。彼女の新しい冒険が、今始まろうとしていた。
窓の外では、薄い霧が立ち込めている。その霧の向こうに、かすかに図書館の輪郭が見える気がした。
エリカは、これから始まる未知の冒険に、期待と不安を胸に秘めながら、静かに本を開いた。
最初のページには、こう書かれていた。
「全ては、あなたの選択次第」
そして物語は、まだ終わっていない。
エリカの選択が、これからどんな世界を作り出すのか。それは、誰にもわからない。
ただ一つ確かなのは、彼女の人生が、今までとは全く違うものになるということ。
無限の可能性を秘めた未来が、彼女を待っている。
そして、あなたも同じだ。
この物語を読んだあなたの中に、何かが芽生え始めているかもしれない。
あなたの周りの世界を、よく見てみよう。
もしかしたら、霧の向こうに、あなただけの「無限図書館」が見えるかもしれない。
扉を開ける勇気さえあれば、無限の物語がそこで待っている。
さあ、あなたは何を選択する?
あなたの物語は、ここから始まる。
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