私がうたプリという作品がとにかくほかの作品と何か違う・・・と感じる一番の理由は、おそらく「ヒロインを手放す」ことを能動的にしていた作品だからなんじゃないかと、今思い当たったので書き記す。
うたの☆プリンスさまっ♪は「キスよりすごい音楽って本当にあるんだよADV」の名前が記すとおり―つまりキスを知る作品、すなわち恋愛ゲームである。
主人公は15歳の女の子で、アイドル志望の男の子と二人一組のペアを組み2人でアイドルデビューを目指す、と言った作品となっている。
恋愛ゲームというものはほぼ全ての作品において、エンディングというものが用意されているものだ。バッドエンドと呼ばれる悲惨な運命を遂げるものもあれば、ハッピーエンドもある。うたプリは程度の差はあれどハッピーエンドしかないので気軽に楽しむことが出来る。つまり、この作品はどう転んでも主人公とアイドル候補生の2人は必ずと言っていいほどアイドルデビューができるのだ。
さらに恋も手に入れちゃうとってもウキウキな作品。アイドルの夢も恋も手に入れる、最初は恋愛禁止をうたう先生たちも2人の様子を見てあっさり認めちゃうし(もちろん内容としては紆余曲折あるし、ガチで生命の危機を迎えたりすることもあるよと補足しておく)ハイパーラッキーストーリーなのだ。
また恋愛ゲームには続編が出ることも少なくない。その多くは、設定を変えた同じキャラクターとの別の角度からの恋愛(アナザーワールド)か同じ内容を深掘りされた内容へのブラッシュアップ、もしくはエンディングを迎えたその後(ファンディスク)に分類される。
うたプリの続編はまずファンディスクがリリースされたが、さらにその後が作られた。
これが世にその名を轟かす「うたの☆プリンスさまっ♪ Debut」である。
Debutは正統な続編で分類としてはファンディスクにはいるが、そうとは呼べない。そんな作品だ。
そもそもうたプリのファンディスクにあたるAASSは、最初のゲームがエンディングを迎えるほんの少し遡った瞬間から始まる。
これはつまり、続編に登場するのはエンディングを迎えていない主人公たちで、エンディングを迎えたふたりのアナザーワールドとも言える。
そしてDebutに登場する彼らもまた、AASSでエンディングを迎えたふたりのアナザーワールドと解釈した方がいいだろう。
何故かと言うと、AASSでもやはり彼らはアイドルデビューを果たしたというように表現されているがしかしながらDebutに登場した彼らは、デビューを果たしていないのだ。つまり、アナザーワールドのアナザーワールドでまたアナザーワールドなのだ。(でも分類でいったらその後だからファンディスクなのでややこしい)
彼らの話を聞く限りでは、無印のうたプリ、AASSに起きた出来事を全て経験していながら、まだデビューが果たせていない。Debutはマスターコースと呼ばれる高等教育機関に入ることとなり、4人の先輩の指導を受けながらデビューを目指すという内容だ。
詳しくは色々検索してみて察してもらうのが手っ取り早いので話の詳細は省くが、このDebutという作品はハイパーラッキーストーリーであったうたプリのなかで、辛い展開が多いものとして有名である。
しかしながら筆者はうたプリをうたプリにした唯一の作品であると考えている。
各ルートにおいて共通の展開として、主人公が介入できない問題が起きたり、主人公のメンタル的な問題、主人公が足枷となってしまうような展開がほぼ全ルートで起こるため、恋愛ゲームでありながら主人公との別離があり(まぁ恋愛小説や漫画には付き物ですが・・・)もとのうたプリでデビューに導いたはずの主人公の働きがうまく生かされない展開であることが多いのだ。
当時のファンは恋愛ゲームらしい展開を求めてプレイしていた人が多数であったので、とても賛否両論となった。
筆者も何故こんなに主人公の影が薄くされてしまうのか腑に落ちない時があったし、せっかくなら主人公が役に立って問題が解決する方が爽快だと思ったものだ。けれどここで主人公との別離があったということが、のちのちのうたプリの発展へ導いたのだと考えが至った。
つまり何を言いたいかと言うと、うたプリに登場するアイドルたちはただ夢と恋をサラサラと両立できた訳ではない、という既成事実がある。
あるキャラクターは夢も恋もなにもかも破れたような状態から這い上がるという展開になり(しかしながら主人公目線で話が進むのでわかりにくい(笑))、ある愛を求めるキャラクターのルートは、主人公は与えられるはずのパッションを完全に失ってしまったりするし、とにかく彼らは孤独の中奮闘する描写が多くなるのだ。
これはつまり、アイドルとはどんなときも多くのファンに夢や思い出や温かい気持ち―「愛」を届ける職業だということなんだということを、彼ら自身がつかみ取らなくては説得力が生まれないということではないだろうか。
彼らは想い人との愛を感じられない時でも、愛を贈ることが仕事だ。
こういった描写があるからこそ、彼らが届ける「愛」が尊いと感じられるのではないだろうか。
失いかけた愛を取り戻すために、強い愛を歌うことでアイドルという存在になる・・・。
もしうたプリが本当に恋愛ゲームとしてだけ創られたものであったなら、間違いなくDebutの内容は蛇足と言われてしまうだろう。
しかしそのDebutが発売されてから、既に8年が経過しその後も長く展開が続けられ今年でうたプリは10周年を迎えた。
同じキャラクターが長く愛される秘訣―それは強い愛の表現を蛇足と呼ばれることを恐れずに描いた結果なのかもしれない。
最後にうたの☆プリンスさまっ♪Debut for Nintendo Switchが絶賛予約受付中なのでみなさんぜひ体験しましょう!!!
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