里  歩  記    ー さとあるき    越 生 (2)

 関東山地の山すそを南北に八王子から高崎を結ぶJR八高線。さらに高崎から小山へ向かうJR両毛線。この二つの路線沿いには、かつて生糸あるいは絹織物の名産地、集散地だった街が多い。越生もそのひとつである。
 越生駅を出て歩くこと5分、住宅に囲まれて絹会館という葬祭場の前に、町役場による写真入りの文化財解説板が設置されている。その場所にはかつて絹織物の取引を行う絹市場があったというのである。写真には、荷包みを肩にした大勢の人々が集っている様子が写っている。その後この地に、大正期建築の流れを汲む洋風木造建築の越生織物商工業協同組合の事務所が建てられ、十数年前に取り壊されるまでそのモダンな景観が楽しめた。
 そこからほど近い県道30号線沿いにも、明治期に撮影された絹の取引に集う人々の写真と、二七市の様子を伝える解説版がある。織物産業が町にいかに活況をもたらしていたかが想像できる。実際、古老からは華やかだったお座敷遊びの思い出話も伝え聞いている。
 
 今は忘れられているもう一つの産業がうちわである。越生うちわ、かつて年間240万本もの生産高を誇った、全国有数の産地であったという。他産地と異なる「一文字団扇」と呼ばれる構造の、強度の高い実用的なうちわで、うなぎ屋さん等で重宝されてきたそうだ。なんでも家庭へのガスの普及も、うちわがすたれた一因らしい。確かに七輪で煮炊きをしていた時代は遠のいた。もはや家庭内の必需品ではないのである。最盛期50軒あったうちわ工房の伝統は現在、「うちわ工房しまの」がたった一軒で受け継いでいる。

 かつての繁栄が寂れてしまった、というようなことばかりを書き連ねてしまったが、2021年、大河ドラマの舞台として大勢の人が黒山を訪れた。渋沢平九郎最後の地であるから、渋沢栄一氏も複数回越生を訪ねているし、だから栄一氏ゆかりの旧家などもいくつもある。それらがそれぞれ史跡になり好事家を呼び寄せる。のみならず、「ハイキングのまち」を標榜する越生町、定期的なハイキングイベントを行ったり史跡・文化財解説板を数多く設置したりするなど、積極的に観光客を招致している。ささやかながらも活気を感じさせる土地なのである。
 そして今、越生町ゆかりの武将、太田道灌をNHK大河ドラマに!という取り組みが進められているのである。ひとたびドラマ化されるならば、その喧伝力は計り知れない。「大河ドラマ館」などできようものなら一大観光地の様相を示そう。越生のみならず川越や伊勢原、千代田区など、有縁の市区町村で共同して企画されており、署名活動も息長く続けられている。坂東武者の英雄であり、全国的な知名度にいささか心細さは感じるが、ぜひとも実現させたいプロジェクトではある。

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