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もうひと花咲かせますか!新しいホテルで働きます

ひょんなことから、2025年2月に開業するホテルのヘッドコンシェルジュをすることになり、その経緯を綴ってみました。他の人が読んで面白いかは分からないのですが、オーストラリアで職を得るってこんな感じです。


2022年8月に、2年間ほど働いていたシドニーのホテルを辞め、一時無職となって日本に一時帰国し、3ヶ月ほどあちこちを旅行していた。

12月にシドニーに戻り、さて仕事を探さなきゃ…となった際に、以前から交流のあった人がチーフコンシェルジュとして働いている市内のブティックホテルから誘いを受け、ここでコンシェルジュとして2年働いていた。

面白そうなポジションが空いた!

そして今年(2024年)の年末、シドニーコンシェルジュのツテから、ヘッドコンシェルジュを募集しているホテルがあるよ!というメッセージが回ってきた。
(コンシェルジュって、横のつながりがとても強いんです。悪いことできません…)

そのホテルの概要だが、

  • 部屋数が100室前後のブティックホテル

  • 2025年2月に新規オープン

  • 市内の少し外のおしゃれなエリア(東京でいうと、うーん、下北沢的なエリアかな?)

  • 僕の家から徒歩圏内(なので、コンシェルジュとして必須な土地勘という点でもプラス)

という感じで、自分が働きたいホテルの条件にかなり合致していた。
そもそもこの規模のホテルでは、わざわざ専属のコンシェルジュを置かないことが多いので、レアケースでもある。チャンスかも?

今の職場は快適なのだが、とりあえず応募してみるか…と、正直少し雑な気持ちでアクションを起こした。
オーストラリアの会社の応募は、オンラインですることがほとんどなので、キレイに撮った写真を貼ったり、履歴書を丁寧に手書きで記入したり…ということをしなくていいので、わりあい鼻歌交じりでやれてしまう。

その中にサラリーの希望額を書いてね、というセクションがあったのだが、最近のヘッドコンシェルジュの相場なんて知らんわ。
友達に聞くのもなんだかな…ということで、AIに聞いて出てきた額を書き込んだ(適当!)。ま、適正価格は先方が決めることだし、そんなに金額にこだわってもいないのでこんなもんでいいや!と、「送信」ボタンを押した。

すると数日後にメールが来て、面接に来てくれとのこと。え、最初のステージをクリアしてしまったわ。

ジョブインタビュー

指定の日時に、一張羅のスーツを着てホテルに向かう。ホテルは、おしゃれなレストランやカフェも入っている再開発エリアの中にあり、なかなか素敵な雰囲気を醸し出している。

宿泊支配人と総支配人と対面し、三者面談が始まる。
僕はこの二人とは面識はないが、相手は当然僕のことはリサーチしているはずだ。なんせ僕は20年以上シドニーの様々なホテルで働いているし、Linkedinなどを見たら僕の職歴も簡単に辿れる。

なので、面接もかなりざっくりとしたものだった。普通こういうインタビューだと、
「サービス、とはあなたにとってなんですか?」
「どうやってお客様に感動をお届けできますか?」
「スタッフのモチベーションをどうやって高めますか?」
みたいな質問をされるのだが、あまりそういう突っ込んだ質問もなく、どちらかというと先方が、このホテルのコンセプトや実際の仕事内容といった実務的なことを説明する時間のほうが長かった気がする。

え、これは…もしかしてオレに決まってしまう流れ…?

こういう面接では、もし決まったらいつから働ける?という質問が出る。オーストラリアでは、退職する際には最低でもXX日前に雇用主に伝える必要があるので、すぐには辞められない(僕の現職の場合、1ヶ月前の通告)。それも聞かれたので、うーむ、話がどんどん具体的になってきたなあ…と緊張が高まる。

それから、気になっていたのが僕のホリデーの件。
すでに3月と4月に旅行計画があるので、これは伝えておいたほうがいいなあ、と思い、

「あの、もし決まった場合、3月と4月にホリデーを取ることにしているんですが、大丈夫ですかね~」と切り出す。

「え、どれくらい?」

「えっと、それぞれ7日から10日程度…なんですけど…」
(オープンしてすぐの時期に休暇取ったら顰蹙だよなあ…キャンセルできない?とか聞かれるかな…)

「な~んだ、7週間って言うのかと思ったよ!ダイジョーブ!」と笑って受け流された。

まあ、オーストラリアだもんな、当たり前だよな、という回答が返ってきたけど…ホントにいいんかいな。

その後は館内を案内してもらい、「うーん、こんな洒落たホテルにオレはフィットするのだろうか…」と不安になりつつも、ま、それは決まった時に考えよう!

そんな感じのインタビューで終わり、あまり捕らぬ狸の皮算用はしたくないが、なんか決まってしまいそうだ…という感触。

…ってか、他に「僕にやらせてください!」っていう若くてイケメンでカッコいいコンシェルジュ、いねえのかよ!

…白髪も最近めっきり増えてきた中年シングルに、こんな洒落たホテルのヘッドコンシェルジュをやらせていいのかよ!シドニーホテル業界、意外と人材難なの?

なんて支離滅裂な思いが頭を渦巻く中、あまり誰にでも相談できないもどかしさで何日かを過ごす。

そうそう、面接の第一段階を突破すると、大体の会社は、reference check(人物照会)をしたいので、2-3人ほどノミネートしてね、と言ってくる。これは、自分のことを知っている人なら誰でもいいのだが、仕事つながりの人をノミネートするのが一般的。僕は、前職の上司、部下の名前を挙げた。さすがに、現職の上司には知られたくないからなあ…。

さて、ここで現職にとどまるか、オファーが来たらこのポジションを取るかを考えなくては。

現職の実情

まずは現職の仕事内容だが、ある程度予想はしていたものの、これほどまでヒマだとは思わなかった。

このホテルは、同じ敷地内に高級アパートも併設しており、我々コンシェルジュは、そのアパートのほうにデスクを構えている。
ホテルコンシェルジュの仕事もやりますよ、という事になっていたが、そもそもデスクがホテルの敷地に設置されていないので、宿泊客からのリクエストはとても少なかった。

そして、アパートのコンシェルジュの仕事も、めっちゃ暇だった。まあ、ぶっちゃけ「アパートの管理人さん」の仕事なので、大してやることもない。住民に届けられる荷物の管理、部屋の不具合に対する修繕の手配、マスターキーの管理…程度の仕事である。

そして、シフト中は出入り口にあるデスクになるべく常駐しないといけない、という決まりになっているので、ぼーっと座っている時間が、もう洒落にならないくらい長かった。そうですね、シフト中に2000歩行けばいい方です。

もちろん、こんな仕事内容でもちゃんと給料が貰えるんだから、文句は言えない。特に僕は一人暮らしだし、小さなアパートのローンも完済しているので、そんなに稼ぐ必要はない。ドリームジョブ、と言えないこともない。

ただ、やはり何もせずにつくねんと座っている、というのは詰まらないものである。さすがにこういう仕事内容で週5で働いていたら気が変になりそうだったので、勤務日を週4にしてもらい、週休3日でのんびりと過ごすことにした。

週休3日って本当にリラックスできて生活の質が上がったなあ、と思えたのだが、冷静になって考えると、僕の場合あと10年前後は働く必要がある。
この仕事内容でそれまで続けるのは、ちょっと無理だよなあ…。

そして、昨年の半ばからホテルの組織替えがあり、我々は100%アパート専属のコンシェルジュとなり、ホテルの仕事はゼロとなった…更に暇になるじゃないの!

やはりホテルの仕事も継続したいな、と思い、これまた友達のつてで、市内の大きなホテルのコンシェルジュとして、週1ペースで働くことにした。
制服を着て忙しいホテルのロビーに久々に立った時に、「ああ、やっぱりこれだよなあ…」と背中がゾクッとなった。

ただ、週一日の勤務だと、どうしても穴埋めというか、敗戦処理的な役割を主にするロートルピッチャーみたいな立ち位置になってしまう。
そして仕事を掛け持ちすることでまた週休2日に戻り、なにやら生活が慌ただしくなってしまい、これはちょっと…という気持ちにもなってきた。

(ここで断っておくと、両方とも上司や同僚はいい人ばかりで、人間関係のストレスはほぼゼロだった)

あれこれ考えた結果、「新しいホテルから仕事のオファーが来たら、受けて立つわ!」という結論に至った。これで選考に落ちたら笑っちゃうけど、失業するわけでもないしね。

さて、結果は…

そして2024年も終わろうとする12月30日に、新しいホテルのマネジャーから電話が来た。うわ~。

電話が来るということは、「決まり」でほぼ間違いないのだが(落ちた場合は、メールが来る程度)、心臓をバクバクさせながら電話を取ると、「あなたにやってもらおうと思うわ!」と言われた。

もう結論は自分の中で出ていたので、

「はい、やってみます!一緒にやっていきましょう!」みたいな返事をした。

あ~、決めちゃったよ…。

まだ試合は始まっていない

という訳で、現職の上司にも退職する旨を伝えないといけないのだが、彼はクリスマスホリデーで、家族と楽しい時間を過ごしている。
退職の通告は文書でないといけないので、Eメールを送っても良いのだが、さすがにこんなニュースをホリデー中に伝えるのは冷酷極まりないので、年明けに出勤してきたその日にまずは口頭で伝えることに決めた(これも無慈悲と言えばそれまでだけど)。

上司はとてもナイスガイなだけに、やはりこういうことを告げるのは気が重い。でも伝えないと仕事を辞められないので、バンドエイドを剥がすようにザクッと伝えた。

やはり上司はビックリ、ガッカリ、という反応だったが、僕の気持ちを汲んでくれて、「まあ頑張れよ!」とハグをしてくれた。その後、正式にメールで退職する旨を送り、もちろん受理してもらった(オーストラリアでは仕事を辞める権利もちゃんと保証されている)。

さて、現在は新しいホテルの契約書にもサインをし(オンラインだけど)、2月初頭のスタートに向けて色々準備をしているところである。現職も今月いっぱいまで続けるので、立つ鳥跡を濁さず…にしなくては。ホテル業界は本当に狭い世界なので、ちゃんと後片付けをしないと後々よろしくない。

そしてこの件をSNSなどで伝えたら、本当にたくさんの人から「おめでとう!」と言われた。

もちろんそれはすごく嬉しいしありがたいのだけど、「おめでとうを言われるのはまだ早い」という気持ちが正直なところである。

まだオープンしていないホテルで、まだ実際働いてすらいない。野球で言えば、チームの予告先発投手に選ばれた程度の段階だ。

ここから、チームメイト、観客(=宿泊客)に納得してもらえるようなパフォーマンスができるかどうかは、自分次第。火だるまになって、3回持たず降板、なんてことだってありえなくはない。

一緒に働く人にとっても、そして一番何よりなのは、泊まってくれる宿泊客にとっても、
「あ、コイツがいて良かった」
と思われるような仕事をしなくてはなあ、と久々に気を引き締めている次第である。

最後に、この長々とした文に付き合ってくれた人に、これから働くホテルを紹介します。なかなか素敵でしょ?

(おわり)


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