生塩ノアとノアの方舟
透き通るような世界観の学園RPG
「ブルーアーカイブ」というゲームがあります。キヴォトスという学園都市を舞台にした少女たちの物語です。同作はシナリオで非常に高い評価を得ている一方、先生(=プレイヤー)方の性癖を網羅した過酷なゲームとも評されます。
ありとあらゆる性癖をカバーし、時にはR18をギリギリ辞さない強気な開発姿勢のNEXON社。その姿勢にチキる日和見主義者の社員を清渓川の人喰い蟹の餌食とさせる、性癖マイスターであり統括Pであるキム・ヨンハの元で磨かれた珠玉のこのゲームは、数多の先生方を底なし沼に叩き落としてきました。
そんなブルーアーカイブの沼にずぶずぶの私は、同作に登場するある1人のキャラクターにぞっこんなんです。
この子は生塩ノアと言います。彼女はブルーアーカイブに登場する架空の高校であるミレニアムサイエンススクールの2年生であり、セミナーと呼ばれる、いわゆる生徒会の書記官を務めています。
絶対記憶能力を有しており、1度見聞きしたことはほぼ忘れないそうです。書記官としてこれほど優秀なことがあるでしょうか?
彼女の良さについては、私と同様彼女の虜になってしまった他の先生が、以下の記事で力説されていますのでぜひそちらを参照なさってください。
今回、私が彼女のどこかについて説明するということはしません。今回話すのは、生塩ノアのモチーフとなっているであろう、旧約聖書に出てくる「ノア」についてです。
まえがき
昨今のソシャゲは、作品のモチーフを神話や宗教、国の御伽噺などに世界観を求めることが往々にしてあります。いずれの逸話も、どこか人間臭くかつウィットに富んだものが多く、それそのものが非常に面白いものであるからアレンジもしやすいためです。
例えば、私が昔好きだった化石ゲーム「決戦!戦国×三国志」というMobageのゲームは黄道十二宮をモチーフにしたイベントが行われていました。黄道十二宮とは、いわゆる黄道十二星座であり、中世の占星術や仏教に密接に関わった概念です。
他にも、同様に私が好きで復刻を今や今やと待ち望んでいるソシャゲ「百鬼大戦絵巻」というSEGAのゲームは、その内容をそのまま百鬼夜行絵巻から拝借しています。百鬼夜行絵巻とは、日本に数多いるとする妖怪の概念を絵で説明した絵巻で、日本の重要文化財にも指定されています。妖怪とか、いかにも作品にしやすそうな概念ですもんね。妖怪ウォッチとか。
そして、今から話すブルーアーカイブについても、例外ではありません。ブルーアーカイブの作品の物語は、キヴォトスという学園都市に務める「先生」と、そこに所属する数多の学園に所属する生徒の物語です。ブルーアーカイブは、その学園ごとに何某かのモチーフが宛てがわれているのです。
例えば、メインストーリー1章の舞台である「アビドス高等学校」。アビドスとは、エジプトにあるオシリス神を祀る聖地となっている土地の名前です。「オシリス神殿」がある場所として巡礼客が後を絶たない名所となっています。
オシリスとは、エジプト神話における豊穣の神、転じて冥界の神です。元々温厚な豊穣の神でしたが、弟でありまた暴風の象徴であるセノに殺害され、その亡骸をエジプト各地にばら撒かれてしまいます。妻であるイシスがそれをかき集め復活させることに成功するのですが、復活後は生前より厳格な性格となり、死後の魂を司る神に変貌したのだとか。
そのオシリスの頭部が祀られているとされるアビドスは、エジプト古王国時代から既に、オシリスのその逸話から、復活の象徴、各地に恵みをもたらすとして聖地となっているのです。
一方、ブルーアーカイブの作中におけるアビドス高等学校のシナリオは、砂に覆われ荒廃したこの地で学園の復活を企てるというもの。まさにアビドス地方の、この逸話になぞらえたシナリオですね。
このシナリオのキーキャラクターは「砂狼シロコ」という生徒ですが、由来は「シロッコ」。砂漠から吹く風を意味します。その名前から、オシリスを殺害したセトをモチーフとしているとされており、そんなセト神をモチーフにした彼女は作中でどんな役回りを任されているんでしょうね?😏
というところで
ブルーアーカイブも神話にモチーフがあるというお話をした所で生塩ノアのお話に戻りましょう。生塩ノアとその学校がクローズアップされるのは、メインストーリー2章。
その成り立ちを、千年難題という7つの難題…現実で言うミレニアム懸賞問題※の解決に尽力した研究者の集団に由来する、知的探求豊かな技術者集団の集まりであるミレニアムサイエンススクール。
その学校の部活の一つである「ゲーム開発部」。とある理由から廃部寸前の同部を救うべく、「最高のゲームを開発できる」というノウハウが書かれているバイブルがあるという噂を聞きつけ、とある廃墟の地下に侵入するところから始まる本章の主題は、「無垢だが強大な存在をどう取り扱うか」ということ。
ネタバレになるので詳細は伏せますが、ここでいう無垢な存在が「アリス」というキャラです。
宇宙戦艦の艦首につけることをコンセプトとした強大なレールガンを意のままに操るとんでもない実力を秘めている彼女。彼女の処遇をどうするかというシナリオではあるのですが、実はこの立ち位置を、本来は生塩ノアがやるはずだったのではないか、という説がまことしやかに囁かれています。
見てくださいよ、これ。
これ、生塩ノアの初期デザインです。めちゃくちゃヤバいレールガン背負ってらっしゃるじゃないですか。きっと本来の無垢で強大な存在って、多分彼女を想定して作られてたんじゃないかなぁと思います。でもまぁ、この見た目で無垢は無理でしょってなっちゃったんじゃないですかね、多分。無論、無垢なノアも絶対可愛いですが。
しかしながら、この名前と本シナリオから鑑みるに、彼女が旧約聖書のノアをモチーフにしていることは疑いようのない事実であると私は思います。
「無垢な人」
ということで、旧約聖書のノアについてお話していきたいと思います。旧約聖書は、ユダヤ教のバイブルです。
ブルーアーカイブでのアリスの立ち位置が非常に重要なポストを占めているのと同様に、旧約聖書でのノアの立ち位置も、超超超超重要なポジションにいます。
というのも、ノアの前後で、旧世界と新世界が変わるからです。世界を作られた神である、神聖四文字である𐤉𐤄𐤅𐤄(=ヤハウェ)が作られたアダムと、その肋骨から作られたイヴの子供たちを中心とした物語が旧世界の物語(=前半)です。ノアとは、アダムから見て10代目の子供になります。
ノアは、しばしば「無垢の人」「正しい人」と言われます。というのも、唯一神であるヤハウェに対して敬虔に信仰していたからとされます。一切の疑惑を持たず、真摯にヤハウェを信仰するその姿勢が、無垢であると評価されたのでしょう。
ノアの祖父は、預言者です。名はメトシェラ(=預言)と言い、ヤハウェの裁きが起きると預言していたことを聞いていたノアは、常日頃から気を引き締めて生きてきたというのもあるのではないでしょうか。
ノアは、先述した通りアダムから10代目の子供です。この頃の人間たちには、既にヤハウェに対する信仰心が薄れ、信仰もまるでなく好き放題していました。そんな人類にヤハウェは神の裁きを下すことを決定します。地下水を噴出させることによる、大洪水を企てたのです。
しかしそんな中、ヤハウェは自分を敬虔に信仰する人間を見つけます。それこそがノアで、ヤハウェはノアの家族を生き長らえさせてあげることを約束し、この洪水を生き抜くための方舟を作らせました。これが世にいうノアの方舟です。
ノアの方舟に、ノアは肺呼吸をする全ての動物のつがい、妻8人、息子3人とその嫁3人を載せ、40日降り続け、150日経って減り始めたとされる大洪水を生き抜いたのです。
この大洪水をもって旧世界は終わりを迎え、洪水後の世界が新世界であるとされます。
ちなみに、ノアの方舟は本当に存在するものであるとされます。トルコのアララト山、その4000mに位置する所にノアの方舟がさ迷ったとされる4800年前のものであると推定される木の構造物の残骸が発見されたそうです。詳しくは以下のニュースを参照ください。
この新世界に舞い降りたノアの3人息子である、ヤペテ、セム、ハム。彼らがそれぞれコーカソイド(白色人種)、モンゴロイド(黄色人種)、ニグロイド(黒色人種)の祖であるとされます。旧約聖書の神話は広く世界に及び、日本のような極東の島国とて例外では無いことが分かります。言ってしまえば、我々はノアの血が入っているのです。興奮してきたな
ノアすき
生塩ノアのモチーフであるノアも、もちろん聖書における重要なポストを占めていますが、それはそれとして生塩ノアだって私の中できわめて、それはもうきわめて重要なポストを占めているのは言うまでもありません。
是非とも皆さんも透き通るような世界観の学園RPGである、ブルアカを始めてノア沼にハマりましょう。そして皆さんも以下のように唱和してください。
ノアすき
※ミレニアムイヤーである2000年に、アメリカのクレイ数学研究所によって提唱された、7つの数学にまつわる未解決問題のことです。ひとつの問題につき、証明出来たら100万ドルの報酬が与えられることからこの名前がついています。文系人間の私が提起されている問題を見てみても、ぽかーんです、ぽかーん。何を言うとりますのと。
その中の一つであるポアンカレ予想については、既に証明された。すごい。