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『家は生態系』

ネギ畑の土壌に病気が出たので、収穫を終えた畑を消毒している。

夏ならば、太陽熱を利用した消毒方法があるが、今の時期は充分な太陽光線もないので、農薬を土に混ぜ、ビニールなりで被覆して、化学的な療法で殺菌する。
ところが悪い菌を全滅とはならない。薬に耐性を持つ遺伝子がある奴が生き残る。生き残りは、他の菌/虫がいなくなることで、いきなり生存競争から解放されてしまう。

これと同じことが家の中でも起きている。
殺菌や抗菌の洗剤や家具で満ち溢れているが、必ず生き残るものがいる。気密性の高い現代の家の中には、真菌/細菌は人の住む空間に適するように耐性などを進化させていて、それらは競争のないことで、爆発的に数を増やしてしまうのだ。殺菌済みと思われがちな水道水ですら、肺炎をもたらす抗酸菌などが生き残り、それらはシャワーヘッドや食洗機に巣くっているらしい。

生物学者である筆者は、家のなかに、もっと多様性に富む生態系が必要と主張する。人間には直接的に良くも悪くもない菌でも、結局生態系内の相互作用で、間接的に何らかの役に立っている可能性が高い。これは人間自身にも言えて、極端に清潔好きになったせいで、人間の体内や皮膚に住む常在菌などが減り、生態系が乏しくなってしまった。これによりアレルギー患者も増えた原因のひとつではないかと言われている(仮説)。

畑では、土壌消毒で菌の絶対数を減らしたあと、微生物のエサとなる堆肥など有機物をたくさん入れる。こうすることで、いろんな微生物等を呼び込み、有機物を分解させて作物に必要な養分を作ってもらうとともに、生態系が多様性に富んだ土壌に戻ることで、様々な微生物にバランスよく生存競争してもらうのだ。

では家の中に、いろんな微生物を呼び込むためには? 庭に木を植え、鳥や虫を呼び、窓を開ける。(犬などペットを飼っている家庭は生態系が豊富だそうだ)
また週末に自然のあるところへ出掛けるのは、精神衛生上だけではなく、いろんな菌/微生物を家に持ち帰ることになり、身体にも良いのだろう。積極的に野原でゴロゴロしよう。

他にも、猫に棲む寄生虫が人間にも伝染し性格や行動に影響与える、パン屋さんの手に住む菌がパンの味を変える、地下室に住むカマドウマのお腹から産廃を分解するバクテリアを発見などなど、興味深い話とともに、生物学者が普段どうやって研究やフィールドワークをしているのかが垣間見れる一冊。

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