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「生島麻美」

【人物】
生島麻美(30)事務員
岡田斗真(19)古書販売店のアルバイト
コンビニ店員
男性客1
男性客2
女性客

駅前広場(夜)
クリスマスのイルミネーションがきらめいている。
仲睦まじそうに歩くカップルが数組。


横断歩道(夜)
信号機が点滅している。
横断歩道を歩いている生島麻美(30)。スカジャンを着込み、ロングヘアーの前髪をハーフアップでまとめている。若干、千鳥足である。

麻美「ったく、どいつもこいつもよー」


コンビニ・外観(夜)


同・店内(夜)
入店する麻美。レジにいる店員に話しかける。

麻美「すんません、トイレ借りれます?」
店員「あ、うちお貸ししてないんですよ」
麻美「えーそうなの?」


同・外(夜)
店から出てくる麻美。

麻美「ふざけてんなあ、マジで」

通りすがりのカップル、麻美のイラついた表情を見て、そそくさと離れる。

麻美「(苦笑して)……クリスマスごときで浮かれやがって、バカじゃねえの」


歩道(夜)
道路沿いの道を、早足で歩いている麻美。

麻美「もー頼むしー、誰かトイレ貸してえやあ」


『ムックオフ』・外(夜)
黄色い看板の古書販売店。
麻美、店の前で立ち止まる。

麻美「神様……」


同・フロア(夜)
ワンフロアの広い店内。中古の書籍、CD、ゲームなどが売られている。
トイレルームのドアが開き、麻美が出てくる。すっきりとした表情。

麻美「はー助かった」

付近の棚で本を補充している岡田斗真(19)と目が合う。

麻美「トイレ、あざっした」

岡田、軽くお辞儀する。
麻美、岡田が持っている本を見て、

麻美「それ、『趣味と生活』コーナーっすよ」
岡田「え?」
麻美「補充する場所」
岡田「ああ……」
麻美「その辺、分類がややこしいんだよね」

岡田、不思議そうに麻美を見る。

麻美「あ、私ここの元スタッフなんよ」
岡田「……へえ」
麻美「ほいじゃ」

麻美、入り口に向かう。
フロア内、岡田以外にスタッフはいない様子。
レジ前で、男性客1がイライラした表情で呼び鈴を鳴らしている。
岡田、カウンターにやってくる。

男性客1「ったく、はやくしてくれよ」

麻美、棚を見ながら、岡田と男性客1のやりとりを伺う。

岡田「一点で330円です」
男性客1「は? これ100円じゃないの?」
岡田「はい?」
男性客1「100円コーナーから取ってきたんだけど」
岡田「申し訳ありません。こちらはこのお値段になります」

岡田、本の裏に貼ってある値段のシールを見せる。

男性客1「なんだよ、じゃあいらない」

男性客1、不機嫌そうな様子で帰っていく。

岡田「(感情のないトーンで)ありがとうございましたー」

麻美、レジにやってくる。

麻美「大丈夫?」
岡田「はい?」
麻美「スタッフ少ないみたいだけど」
岡田「まあ、クリスマスイブなんで」
麻美「ん?」
岡田「もともとシフトが少ないんですよ、今日」
麻美「でも一人ってことはないでしょ」
岡田「一人です」
麻美「え?」
岡田「急な休みも出たし、店長は出張買い取り中なんで」
麻美「マジ? やばいじゃん」
岡田「大丈夫です。おかまいなく」
麻美「ちょっとあんたさあ、こっちは心配してやってんのよ」
岡田「そういうの大丈夫です」
麻美「はあ?」

買い取りカウンターに女性客がやってくる。

女性客「すみません」
岡田「いらっしゃいませー」

岡田、買い取りの受付を行う。

岡田「10分程度で終わりますので、店内でお待ちください」

岡田、査定を始める。
麻美、不服な表情。スカジャンのポケットに手を突っ込んで、店内をうろつく。
と、通路に座り込んで本を読んでいる男性客2を見つける。

麻美「ちょっと」
男性客2「?」
麻美「座り読みはあかんで。立ち読みはいいけど」
男性客2「誰あんた」
麻美「誰やろが関係ないやろ」
男性客2「店員でもないのに、うるせえんだよ」

麻美、カッチーンの表情。
首を回しながら、店の奥に行き、スタッフルームのドアを開ける。


同・スタッフルーム・中(夜)
麻美、部屋の電気を点け、ハンガーラックにかけられているスタッフ用のエプロンを手に取り、電気を消す。無駄のない動き。


同・店内(夜)
エプロンの紐を腰に巻きながら、店内を移動する麻美。
男性客2の前に立つ。
男性客2、麻美を見上げる。
麻美、エプロンを見せつけて、

麻美「誰に向かって口聞いとんのじゃ、ボケ」

男性客2、ひるんだ様子で立ち上がる。
麻美、男性客2に詰め寄る。

麻美「他のお客様の迷惑になるような行為は、お控えいただけますか、ボケカス」

男性客2、読みかけの本を置いて、そそくさと店を出て行く。

麻美「二度と来んな」

麻美、カウンターの方を見る。
買い取りカウンターでは、岡田が女性客に文句を言われている。

女性客「さすがにおかしくないですか?」
岡田「……」
女性客「これプレミアものなんですけど。なんで、これしか値段つかないの?」
岡田「そういう査定基準なので」
女性客「だから、その査定基準っていうのを教えてって言ってるの」

麻美、カウンターに入ってくる。

麻美「お客様ー、申し訳ございません」

麻美、査定対象のCDのディスクや歌詞カードを確認する。

麻美「あーこのディスク、裏面に傷がついてますね」
女性客「だから? 普通に聴けますよ」
麻美「この傷、研磨しても完全には取れないんで、ちょっと値段が落ちますね。あとこの歌詞カード。湿気ですかね、まあまあ傷んでるんで、これも査定に影響します」
女性客「この店は、そうやって細かいところにケチつけて、安く買い取るんですか」
麻美「ご不満なら、別の店でお売りください。あと、プレミアものっていう自覚があるんなら、もうちょっと大切に保管した方がいいですよ」
女性客「……!」

女性客、言い返せず、CDを回収して店を後にする。

麻美「しょうもな」

岡田、麻美を不審な眼で見つめている。

麻美「なんや」
岡田「ここ、関係者以外立ち入り禁止です」
麻美「私は元関係者や。関係者には違いないやろ」
岡田「あなた、なにが目的なんですか」
麻美「目的ってあんたさあ、元職場がピンチやったら、救うのが当たり前やろ」
岡田「言うほどピンチじゃないですよ」
麻美「なんやその態度は。助けてもらったのに礼も言えんのか」
岡田「別に頼んでないですよ。っていうかあなた、飲酒してますよね?」
麻美「だからなんやねん」
岡田「クリスマスイブに、一人でお酒飲んでるんですか」
麻美「は? なんで一人だってわかるんだよ」
岡田「違うんですか?」
麻美「知り合いがドタキャンしよったから、今一人なだけやボケ」
岡田「彼氏ですか?」
麻美「はあ? ちゃうわボケ! あんな奴、もう先月で別れたわ!」
岡田「……」
麻美「あっかん、あんたとしゃべってると調子狂うわ……」
岡田「とにかく、もうお帰りください」
麻美「嫌や、帰らん」
岡田「はあ?」

麻美、商品補充用のカート押して、フロアに出て行く。

<終わり>


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