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「フィナーレ」

【人物】
夏樹エリカ(32)元殺し屋
黒崎洋一(38)エリカの元相棒
片山紀明(30)エリカの婚約者
神父

◯チャペル・控え室
ウェディングドレスを着た夏樹エリカ(32)が鏡台の前に座っている。
エリカ、小枝柄のヘッドドレスを髪につける。
その後ろから、エリカの肩に手を置く片山紀明(30)。

片山「似合ってるね」
エリカ「なんか、自分じゃないみたい」
片山「緊張してる?」
エリカ「ちょっとだけ」
片山「俺も」

エリカ、立ち上がり、片山と一緒に控え室を出て行く。

◯チャペル・式場内
祭壇上で、エリカと片山が向かいあっている。

神父「それでは誓いのキスを」

片山、エリカのベールを上げる。
見つめ合うエリカと片山。
片山、エリカにキスをしようとした瞬間、エリカに突き飛ばされる。
驚く片山。
見ると、エリカと片山の間の祭壇に、たった今できた弾痕がある。
片山、何が起きたかわからない様子。
エリカ、神父の首元を掴んで倒す。
その瞬間、神父がいた場所に、2発目の銃弾が放たれる。 
どよめく参列者たち。
エリカ、体勢をかがめたまま、会場に視線を走らせる。
会場中央の通路に、スーツ姿で銃を構える黒崎洋一(38)の姿がある。

エリカ「(つぶやく)あのバカ……」

エリカ、腰に忍ばせていた銃を手に取ろうとするが、片山の視線を感じ、躊躇する。
黒崎の銃口がエリカに向けられる。
エリカ、祭壇奥にあるガラスをぶち破って外に出る。
エリカを追って祭壇に上がる黒崎。
黒崎、片山を冷たい目で見下ろす。
たじろく片山。
黒崎、片山に声をかけることなく、エリカを追って外へ。

◯同・庭
チャペルの外にある広い庭。その庭を全速力で走っていくエリカ。
その後ろから、黒崎の銃弾が追いかけてくる。
エリカ、建造物を盾にして、黒崎に銃で反撃。
黒崎も同様に、建造物の陰から銃弾を放つ。しかし、途中で弾がなくなる。
エリカ、その間に、建造物の鋭利な部分を使ってスカートの裾部分を引き裂く。
黒崎、弾を装填すると、再びエリカの隠れている建造物に銃弾を撃ち込む。
建造物が壊れる。しかし、その裏にエリカの姿はなく、スカートの切れ端だけが残っている。
「しまった」という表情の黒崎。
黒崎の斜め後ろから俊足で回り込んでくるエリカ。
振り返る黒崎の顔面にニーキックを食らわせる。
ふっとぶ黒崎。
黒崎、倒れた姿勢のまま、エリカに銃口を向けようとするが、銃を持った手をエリカに蹴り上げられ、銃を手放す。
エリカが倒れた黒崎に銃口を向けたところで、お互いの動きが静止する。

エリカ「何のつもり」

黒崎、焦った様子もなく、エリカの顔をまっすぐに見つめる。

エリカ「答えて」
黒崎「お前、意外と似合ってるよ。ドレス姿」
エリカ「それで?」
黒崎「これは、俺なりのサプライズだよ」
エリカ「へえ」

エリカ、ズドンと、黒崎の脇腹スレスレのところに銃弾を撃ち込む。

エリカ「気が利いてるじゃん」
黒崎「お前のそういう顔、久しぶりに見た」
エリカ「あんたが、ここまでクレイジーだとは思わなかった」

黒崎、ポケットに手を入れようとする。
エリカ、黒崎に頭部に銃口を向ける。

黒崎「一本吸うだけだよ」

黒崎、ポケットからタバコを取り出し、吸い始める。

黒崎「あの建築家の、なにが気に入ったんだ?」
エリカ「関係ないでしょ」
黒崎「お前とあいつとじゃ、釣り合わないよ。住む世界が違う」
エリカ「それを言いにきたの?」
黒崎「俺たちみたいな稼業の人間は、俗世のやつらと、そもそも感覚が違う。お前、今幸せか?」
エリカ「あんたと一緒にしないでくれる?」
黒崎「無理すんなって」
エリカ「……」
黒崎「お前は『いわゆる幸せ』が欲しくなったんだろう。でもな、お前が感じてる退屈は、こんなことじゃ満たされない」
エリカ「……」
黒崎「お前が求めているものは、こっち側の世界にはない」

黒崎、タバコを地面でもみ消す。

エリカ「あんたの、そういう独善的なところが嫌いだったの」

黒崎、エリカに銃を突きつけられた状態で、ゆっくりと立ち上がる。

エリカ「死にたいの?」
黒崎「エリカ、もう一回俺と仕事しよう」
エリカ「なに言ってんの」
黒崎「プロポーズだよ」
エリカ「……」
黒崎「一緒に、世界の果てまで行こう。今度はもっとずっと、暗いところまで」
   

◯同・外
割れたガラス窓から、片山が外に出てくる。
周囲の様子を伺いつつ、エリカの姿を探している。

◯同・庭
対峙しているエリカと黒崎。

エリカ「私はもう、この仕事から降りるって決めたの」
黒崎「じゃあ、なんでこんなもん(銃)を持ってる?」
エリカ「あんたみたいな奴が、時々いるからよ」
黒崎「お前は、本気で自分が結婚できると思ってるのか?」
エリカ「……」
黒崎「お前の素性を知ってるのは、俺だけじゃない。これから先も、お前のことを殺しにくるやつは、いくらでもいるぞ」
エリカ「そしたら、その都度、消すだけよ」
黒崎「お前の家族は? あの建築家も、将来生まれる子供も、いつも危険にさらされるんだぞ」
エリカ「……」

黒崎、何かの気配に気づき、庭の奥を見つめる。
エリカたちのほうに向かってくる片山の姿。片山は2人にはまだ気づいていない。
エリカも、片山の存在を察知する。
その瞬間、黒崎が隠し持っていた銃を取り出し、エリカに突きつける。

黒崎「お前らしくないな」
エリカ「……」
黒崎「どうする? 俺を殺すか。俺に殺されるか。俺と一緒に来るか」

◯同・同・噴水広場
片山がひとり佇んでいる。
そこに、エリカが現れる。

片山「エリカ」

エリカに近づこうとする片山。

エリカ「ごめん」

片山、動きを止める。

エリカ「紀明ごめん。やっぱり私、あなたと結婚できない」
片山「……」

エリカ、手に持っていた銃を見せる。
片山、息を飲む。

エリカ「私、紀明が思うような人間じゃないの」
片山「どういうこと?」
エリカ「……私は、こんな明るい場所で生きれる人間じゃない。本当はもっとずっと暗い場所で生きてきたんだ」
片山「……」
エリカ「紀明がデザインした丘の上のホテル、一緒に行きたかった」

エリカ、片山を残してその場を去る。

◯同・外
数台のパトカーから停まっている。
中から重装備をした警官たちが出てくる。

◯同・同・別の場所
黒崎がバイクに乗ってエンジンをふかしている。
そこにやってくるエリカ。
エリカ、ヘッドドレスをとり、髪を解く。
植え込みの上に残されるヘッドドレス。

黒崎「もういいのか」
エリカ「うん」

エリカ、バイクの後部座席に座る。
黒崎、バイクを走らせる。

◯道路上
黒崎のバイクが走っている。
その後ろから、複数のパトカーが追ってくる。

エリカ「バカみたい」
黒崎「ん?」
エリカ「あんたとまたこうしてるの」   

黒崎、静かに笑う。
エリカ、黒崎の腰に刺さっていた銃と自分の分の二丁を構えて、後方に発砲する。
銃撃を受け、ハンドルを乱されたパトカー同士がぶつかり、横転する。
バイクは大きな交差点にさしかかる。
目の前の信号は赤だが、黒崎は構わずアクセルを踏み込んで、突き進む。
バイクは、交差する走行車の間をすり抜けて、進んでいく。

    ×   ×   ×

都心を離れ、開けた土地の直線道路を走るバイク。

黒崎「この先どうする?」
エリカ「考えてない」
黒崎「じゃあとりあえず、海でもいくか」

エリカ、それには答えない。エリカのロングヘアーが風になびいている。

<終わり>

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