「ストライプ」
◯婦人雑貨店・外
百貨店のフロアの一角にある、婦人雑貨店。
杉本啓太(17)がやってきて、店の前で足を止める。啓太はメガネをかけていて、どこか垢抜けないファッションをしている。
◯同・店内
女性店員が、ガラスケースの上に何種類かのハンカチを広げている。
店員「このへんが、今年の流行りですね」
ハンカチを見比べる啓太。
啓太「なんか、どれもいいですね」
店員「プレゼント用ですか」
啓太「はい」
店員「あとは、お相手の好みにもよるかもしれませんね」
啓太「なるほど。そうですね。うーん」
啓太、鮮やかなストライプ柄のハンカチを手に取る。
◯池袋駅・周辺
休日の買い物客で賑わう池袋。
◯ドーナツ屋・店内
カウンター席に座っている啓太。プレゼント用に包装されたハンカチを見て、満足げな表情。スマホの着信音が鳴る。
啓太「(出て)はい」
声「おっす」
啓太「おっす」
声「てか、ハンカチってマジお前」
啓太「うん。マジ」
◯道
電話をしながら歩いている山室太一(17)。学生服姿で、肩からスポーツバックを提げている。
太一「絶妙なチョイスじゃん」
◯ドーナツ屋・店内
電話をしている啓太。
啓太「そうかな」
太一「なんでハンカチ?」
啓太「最初は、これぐらいがいいかなって」
太一「いや、最初って。もう付き合う気まんまんですやん」
啓太「いや、そういうわけじゃないけど」
太一「でもおまえ、よく玉城先輩とデートまでこぎつけたな」
啓太「うん、俺もびっくり。合唱部の先輩が紹介してくれたのがラッキーだった」
太一「映画デートOKしてくれたってことは、向こうもナシじゃないよな」
啓太「それはわかんないよ」
太一「とかなんとか」
啓太「いやマジだって」
太一「ちょおまえ、あとで絶対報告しろよ」
啓太「了解。じゃあね」
電話を切る啓太。やや興奮気味の様子。
◯映画館・チケット購入機前
映画のチケットを購入している啓太。
同じく、その隣でチケットを購入する玉城沙耶(19)。
啓太、少し緊張した面持ち。
沙耶「始まるまで、どうする?」
啓太「え?」
沙耶「時間、中途半端にあるけど」
啓太「えっと、カフェとかどうですか」
沙耶「いいよ」
◯カフェ・店内
向かい合って座っている啓太と沙耶。
沙耶、スマホをいじっている。
啓太、バッグを膝の上に置いている。
沙耶「荷物、置いたら?」
啓太「あ」
啓太、バッグを横に置く。
沙耶「なんか、大事なものが入ってるの?」
啓太「え、いや。そういうわけじゃないんですけど」
沙耶、スマホに目を戻す。
啓太「玉城さん、アイアンマンとキャプテンアメリカ、どっちが好きですか?」
沙耶「うーん、アイアンマンかな」
啓太「アイアンマンですか」
沙耶「キャプテンアメリカって、見た目ダサくない」
啓太「ダサいですか? 僕はあのデザイン好きですけど」
沙耶「へえ、そうなんだ」
啓太「……」
啓太、テーブルの下で太一にLINEを打つ。
LINEの画面。「会話が続かない」「がんばれ。プレゼントは?」「まだ」「がんばれ(のスタンプ)」
啓太「玉城さん、あのちょっと渡したいものが……」
沙耶「(遮って)あ、ごめん。電話だ」
沙耶、電話に出る。
沙耶「はい、うん。今池袋。うん。うん。違う。高校の後輩と。これから映画。うん。夜? あ、いいよ。うん。オッケー。はい、じゃあね。はーい」
電話を切る沙耶。
啓太「大学のお友達ですか」
沙耶「うん。てかごめん、なんか言おうとした?」
啓太「あ、えっと。またあとにします」
沙耶「あと?」
啓太「はい。ちょっと流れ的に」
沙耶「なに、流れって」
啓太「あ、いえ。なんでもないです」
沙耶「(時計を見て)てか、もうそろそろ出たほうがいいね」
啓太「そうですね」
沙耶、荷物をもって先に立つ。
啓太、それに続く。
◯映画館・劇場内
上映前でまだ明るい劇場内。
並んで座っている啓太と沙耶。
啓太「なんだか、緊張しますね」
沙耶「なんで?」
啓太「なんで? いや、それはなんというか。僕、こういうの初めてなので」
沙耶「こういうのって?」
啓太「えっと、なんていうか、その」
沙耶「あ、なるほど」
啓太「え?」
沙耶「ちなみにさ。これデートじゃないからね」
啓太「ん?」
沙耶「もともと予定してた約束が別日になったから。暇にしたくなかっただけ。あと、ちょうどこの映画観たかったから」
啓太「あ、はい。そうですよね。そうでしたか」
沙耶「この後予定もできたから、映画終わったら普通に解散しよ」
啓太「了解です……」
啓太、無表情で前を見つめる。おもむろにメガネを外し、それを自分のハンカチで拭き始める。
そのハンカチは、宇宙をモチーフにしたどこか少年ぽいデザイン。
沙耶「なんか、かわいいハンカチ使ってるね」
啓太「そう、ですかね」
沙耶「ハンカチってさ、その人のセンスが出るよね」
啓太「あー……」
沙耶「自分で買ったの?」
啓太「いや、親が買ったやつです」
沙耶「そうなんだ」
啓太「……」
× × ×
映画が始まっている。流れているのは、SFアクション映画。
啓太、上の空といった様子でスクリーンを見ている。
◯同・ロビー
劇場内から出てくる観客たち。その中にいる啓太と沙耶。
エレベーターが来るのを待つ。
沙耶「そこそこ面白かったね」
啓太「そうですね」
沙耶「でも、エイリアンが溺れるのとか、ちょっと引いたわ」
啓太「溺れる?」
沙耶「溺れるシーンあったじゃん」
啓太「ああ……」
沙耶「覚えてない?」
啓太「あ、いえ。覚えてます」
エレベーターに乗り込む二人。
◯同・エレーベーター内
啓太、スマホを見る。太一からLINEがきている。
LINEの画面。「ちゃんと渡せよ〜 健闘を祈る」
啓太、斜め前に立つ沙耶をチラと見る。
沙耶、スマホをいじっている。
◯池袋サンシャイン通り
歩いている啓太と沙耶。沙耶が少し前を歩いている。
啓太、バックからハンカチの包みを取り出す。
沙耶、電話をし始める。
沙耶「おっつー。うん。終わった。今駅向かってるとこ。うん。いいよ。うん。うん。わかる。前行ったとこでしょ。オッケー」
沙耶、電話を切り、立ち止まる。
沙耶「ごめん。私、こっち方面だから」
啓太「あ、はい」
沙耶「駅方面?」
啓太「そうですね。はい」
沙耶「じゃあ、ここで」
啓太、動き出さない。
沙耶「いい? 私行くけど」
沙耶、歩き出そうとする。
啓太「玉城さん」
沙耶「?」
啓太「すみませんあの、渡したいものが」
啓太、ハンカチの包みを差し出す。
啓太「これ、誕生日プレゼントです」
沙耶「うそ、ありがとう……」
沙耶、包みを受け取る。
沙耶「私言ったっけ? 明日誕生日だって」
啓太「いえ、LINEのカレンダーに入ってたので」
沙耶「あ、そういうこと。マジか。どうしようかな」
啓太「好みに合うかわからないですけど。よければ」
沙耶「……開けていい?」
啓太「はい」
沙耶、包装紙の中から、ハンカチを取り出す。
沙耶「おお。悪いね」
啓太「いえ」
沙耶「買ったの、これ?」
啓太「はい、さっき」
啓太、少し顔をうつむける。
沙耶「そっか。私ストライプ好きなんだよね」
啓太「え?」
沙耶「嬉しい普通に。ありがと」
顔を上げる啓太。少しだけ目が輝く。
沙耶「じゃあ、行くね」
啓太「はい」
手を振って、去っていく沙耶。
それを見送る啓太。
啓太、太一に電話をかける。
太一「はい」
啓太「おっす」
太一「おっす」
啓太「渡せた」
太一「マジか。どうだった?」
啓太「喜んでもらえた」
太一「マジ? いい感じ?」
啓太「いや、全然」
太一「え?」
啓太「つうかさ俺、映画の内容全然覚えてないや」
太一「映画?」
啓太「うん。ちょっともう一回観てくる」
太一「なに言ってんのお前?」
啓太「じゃあ」
啓太、電話を切り、元来た道を戻っていく。その後ろ姿。
<終わり>
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