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「CALL」

【人物】
工藤直哉(25)会社員
二見功太(25)工藤の友人
山本祐美(24)工藤の恋際相手

◯工藤家・工藤の部屋(夜)
スマホの着信が鳴り響いている。
寝ていた工藤直哉(25)、スマホを手に取る。
画面に「功太」と表示されているのを見て、少し驚いた表情。
須藤、起き上がり、電話に出る。

工藤「もしもし」

しかし、応答はない。

工藤「二見?」


◯湖畔(夜)
湖畔のベンチに座り、電話をしている二見功太(25)。フードをかぶっている。

二見「久しぶり」


◯工藤家・工藤の部屋(夜)
電話をしている工藤。

工藤「久しぶりだな。どうした?」

(以下、適宜カットバック)

二見「いや、特に用事はないんだけど」
工藤「そっか。今なにしてんの」
二見「特に何も」
工藤「家?」
二見「いや、外。夜中に電話してごめんな」
工藤「別にいいって。起きてたし」
二見「最近どうなの、仕事は順調?」
工藤「そうだな。仕事はそこそこかな。二見は?」
二見「俺は、先月辞めたよ」
工藤「そうだったんだ。今、次探してるの?」
二見「まあね。適当に」
工藤「二見、今どこいんの?」
二見「湖」
工藤「湖?」
二見「昔、高校のときに一緒に行った所だよ」
工藤「マジで? なんで?」
二見「ロードバイク走らせてたら、たどり着いた」
工藤「今ひとり?」
二見「うん。ごめん、電池なくなるから、そろそろ切るわ」
工藤「……二見、大丈夫か?」
二見「大丈夫だよ。じゃあな」


◯湖畔(夜)
電話を切る二見。湖を見つめている。


◯工藤家・工藤の部屋(夜)
ベッドに座っている工藤。しばらく何かを考えている。
部屋に置いてあるデジタル時計は、23時を回ったところである。
工藤、立ち上がり、上着を羽織る。


◯同・車庫(夜)
車に乗り込む工藤。すぐにエンジンをかける。


◯路上(夜)
工藤の車が走っている。


◯工藤の車・車内(夜)
運転している工藤。スマホホルダーに入っていたスマホが着信する。
スマホ画面には、「祐美」と表示されている。
工藤、スピーカーをオンにして電話に出る。

工藤「はい」
祐美の声「ごめん。起こしちゃった?」
工藤「いや、大丈夫」


◯祐美のアパート(夜)
山本祐美(24)が電話をしている。

祐美「……どういうこと?」


◯工藤の車・車内(夜)
電話をしている工藤。
(以下、適宜カットバック)

工藤「ちょっと、胸騒ぎがするんだ。思い過ごしだといいんだけど」
祐美「言っても、この時間だよ?」
工藤「わかってる。でも心配なんだよ」
祐美「二見くんと、どれくらい会ってないの?」
工藤「二見のお母さんの葬式以来だよ。2年以上会ってない」
祐美「二見くん、今は大丈夫なの」
工藤「わかんないよ。でも多分、誰とも連絡とってなかったんじゃないかな」
祐美「それもそうだけど、その、直哉のことだよ」
工藤「それは今、関係ないだろ」
祐美「関係なくはないよ。だって彼、複雑じゃん」
工藤「そういう言い方はやめろよ」
祐美「ごめん……」


◯工藤の車(夜)
山道を走る車。


◯工藤の車・車内(夜)
運転している工藤。
祐美との電話は既に終わっている。
工藤のスマホの時計は、24時を回っている。
工藤、アクセルを踏み込む。


◯キャンプ場・入口(夜)
工藤の車がやってきて、停車する。


◯同・敷地内(夜)
林の中を走っている工藤。
スマホで電話をしているが、「おかけになった電話番号は、現在電源が入っていないか、電波の届かないところに……」というアナウンスが流れている。


◯湖畔(夜)
工藤が息を切らせてやってくる。
月明かりに照らされる湖畔。しんと静まり返っている。
工藤、二見を探して呼びかける。

工藤「二見!」

何度か呼びかけるも、返事はない。
工藤、湖畔の奥へと走っていく。
ベンチに座っている二見の姿を見つける。

工藤「二見!」

二見、顔を上げる。

工藤「なにしてんだよ、お前」
二見「本当に来たんだ」
工藤「当たり前だろ。心配させんなよ」

二見、工藤をまじまじと見る。

工藤「なんだよ」
二見「変わらないな、お前」
工藤「俺は変わらないよ」
二見「安心したよ」

二見、歩き出す。工藤、それに続く。

二見「ここ、覚えてるか」
工藤「覚えてるよ。バスケ部のやつらとバーベキューやったよな」
二見「夜だと全然雰囲気違うよな」
工藤「そうだな」
二見「今日は、月がきれいだったからさ」
工藤「え?」
二見「ここに来たくなったんだ」

二見、立ち止まり、湖を見る。
工藤も見る。
湖面に月の光が反射して、帯ができている。

工藤「なんか道みたいだな」

二見、小さな桟橋にあるボートに乗り込む。

二見「近くで見みてみるか」


◯湖上(夜)
ボートに乗っている二見と工藤。二見がオールを漕いでいる。

工藤「静かだな」
二見「……」
工藤「最近連絡できてなくて、ごめんな」
二見「気にしてないよ」
工藤「元気なのか?」
二見「まあな」
工藤「俺、来年結婚するかもしれない」
二見「……」
工藤「この前、祐美の実家に挨拶に行ったんだ」
二見「そっか。おめでとう」
工藤「うん」
二見「工藤はまっとうな道を行く。そういうことだな」
工藤「まっとうかどうかは、わからないよ」
二見「まっとうだろ」
工藤「……」
二見「でも今日、来てくれて嬉しかったよ」
工藤「いいよ別に。俺も久しぶりに二見に会いたかったから」
二見「……」
工藤「どうしたんだよ」
二見「なんでもない」
工藤「言えよ」
二見「いつからだろうって、思ったんだよ」
工藤「なにが?」
二見「工藤のことを好きになったの」
工藤「……」
二見「全部、知ってたろ?」
工藤「うん」
二見「お前の優しさが、時々憎くなるよ」
工藤「優しくないよ。本当はもっと前に、このことを言うべきだった」
二見「このこと?」
工藤「どんなことがあっても、俺はお前のこと友達だと思ってるって」
二見「……」
工藤「それをずっと言えなかった。ごめん」
二見「なんだよそれ」

二見、オールを漕ぐのをやめる。湖の真ん中で、ボートは止まる。

工藤「疲れたろ。代わるよ」

工藤、二見の持っていたオールを取ろうとする。しかし、二見はオールを放そうとしない。
工藤、二見を見る。二見は工藤を見つめている。その状態で静止する二人。
二見、工藤の首を引き寄せてキスをする。そのあと、すぐに顔を放す。工藤は特に反応を示さない。
工藤、二見の持っていたオールを取り、ボートを漕ぎ出す。
ボートは岸に向かって、戻っていく。
辺りは静寂。

<終わり>


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