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【釈正輪メルマガ5月28日号】日々是好日

【不両舌】
 
 末摘花(すえつむはな)は紅花の古名です。花が咲くと、早朝に摘み取っ染色に用いるところからこの名がついたそうです。昔は口紅の貴重な材料でした。紅花は山形県の県花になっています。
 
 また末摘花といえば『源氏物語』に登場する異色の女性です。鼻が紅いことから、紅花の「花が紅い」にかけて光源氏がつけたあだ名で、紫式部はこの女性を不美人、古風、気が利かないと、どの女子よりも酷評しますが、最後には源氏に寄り添い、幸せをつかむ女性に描くなど、『源氏物語』の奥深い魅力のひとつとなっています。
 
 禅の語録に『花は紅、柳は緑』があります。私の師、梶浦逸外老師が好んで、墨跡をしたためていました。
 
          合掌
 
まゆはきを 俤(おもかげ)にして
紅粉(べに)の花
 
          松尾芭蕉
 
 三頭の牛が何時も並んで草を食べています。ライオンがこの牛を襲おうとしていました。しかしいくら百獣の王であっても、牛が団結して向かってきたら逃げるしかありません。ライオンは考えました。「これは力では勝ち目がない。奴らをバラバラにすればいい。何かいい方法はないものか…」
 
 次の日からライオンは、草の陰に隠れて、牛が仲間から離れるチャンスを待っていました。そして一頭に近づいて、「君のことを彼らは馬鹿にしていたよ」と、囁いたのでした。次の日ライオンは、別の牛の側に行って、「君の悪口を聞いたぞ」と言いつけました。最後の一頭にも、「彼らは、君の文句ばかり言ってる」と告げたのです。
 
 牛たちは最初は、「ふん!そんなことはないさ」と聞き流していました。ところが、些細な事でぶつかり合った牛たちは、「ライオンが言っていたことは、本当かも知れないな」という疑念がわいてきました。一度疑いが出てくると、「どうもおかしい」「いつもと違うな」と、何でも悪い方へ悪い方へと、拡大解釈するようになってしまいます。
 
 やがて牛たち同士の喧嘩が始まり、三頭の牛たちの心は、完全にバラバラになりました。「お前の近くになんかいたくないさ」と言って、距離を置いて草を食べるようになったのです。ライオンは忍耐強く、この時を待っていました。 
 悠々と一頭の牛に襲いかかります。噛み付いて引きずっても、残りの二頭は仲間を助けようともしません。悲しいことに、団結を失うと、やがて自分の命が危くなることに、二頭の牛は気付かなかったのです。やがてその二頭目もライオンの餌食となり、とうとう三頭すべてがライオンの餌食となりました。
 
 この話はイソップ寓話の一つですが、イソップは、子供向けに作った話ではありません。本当は、大人へ向けた生き方のアドバイスだったのです。時に、仏教の戒めに、「十善戒」の教えがあります。その中の七番目に、『不両舌』がありますが、これは簡単に解釈すれば、二枚舌を使い、人を欺くこと勿れという意味です。
 
 人の悪口を言う人に会ったら、このライオンのような、二枚舌の人だと思って、遠ざかったほうがいいのです。もし自分の悪口が聞こえてきても、気にしないようにしましょう。真に受け止めて、友人や仲間を疑い始めると、人間関係が壊れてしまい、大切な人を失う羽目になります。
 
          釈 正輪 拜

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