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釈正輪老師回顧録 運命と宿業 1.導かれて

私が最初に行った山岳行場は白山だった。
天台宗の修行僧だった当時の私にとって、白山は是非とも登っておきたい山の一つだった。白山には三度登頂したが、二度目に登ったときに不思議な光景を見た。

未明の山頂で御来光を待ちながら読経をあげていたときのことである。空が白々と空けてくる頃、北の山肌に人影がぼんやりと立ち現れ、その周りを後光のような光の輪が囲んだ。いぶし銀のように輝いて見える影の形はちょうど御仏の座姿のようであった。
これはブロッケン現象と呼ばれる自然現象なのだが、そのときは知識がなかったので、とても神秘的な体験に思えた。実は光の屈折が作り出す蜃気楼で、人影に見えたのは自分自身の影だった。山を降りてそれを聞かされたときは、ひどくがっかりしたことを覚えているが、貴重な体験だった。この現象は御来迎(ごらいごう)とも呼ばれ、昔は阿弥陀如来が姿を現したと考えられていたそうだ。

不思議なことは、三度目に白山に登ったときにも起こった。やっとの思いで山頂にたどり着き、息も絶え絶えにリュックサックを下ろし座ろうとしていたときに、何処からともなく「こうか、こうか」と言う声が聞こえた。 その時は気のせいだと思い、あまり気にも留めなかったのだが、下山のとき七合目あたりで、「こうか、こうか」と繰り返す声がはっきりと聞こえた。私は不思議な心持に囚われたまま山を降りた。


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