いつまで日本車に乗ってるの?
2021年の上海モーターショーを見学した友人たちが「実際に行ってみて感じたこと」として口にした言葉が強烈でした。
「日本メーカってこんなに人気ないの?」
「日本ヤバくね?」
「日本ってオワコンwww」
ただ、これらの言葉の背景にあるのは「悪意」でも「イヤミ」でもなく「哀愁」「焦燥」でした。
そして、こんな感想を持ったのは友人たちだけではありません。ボク自身も大きなショックを受けました。自動車産業では日系メーカは先頭集団を走っていると思っていました。中国メーカと比べると二歩も三歩も先を走っていると信じていたのです。技術だけではなく、もちろん人気においても。
ボクは2017年から2019年まで、中国の自動車に関連するメーカといっしょに仕事をしていました。その時も「まだまだ差はある」と感じていました。
だからこそ、今回のモーターショーで大きなショックを受けたのです。
■中国ローカルのEVブランドが大量発生
最近の中国では、見たことのないブランドの電気自動車(EV)を街なかでよく見かけます。それらに加えて、この展示会で初めて見るブランドもたくさんありました。
その中には立派なブースを構えているメーカもありました。既存メガブランドに負けない広さや演出をしているメーカです。
そうやって「新規」と「既存」を見比べていると、悲しい事実に気づきました。「集客力」で新興メーカに負けている既存ブランドが多かったのです。
ボクの肌感覚で、集客力の高い順番に並べてみました。
1位グループ:
フォード、BMW、テスラ、中国ブランド(吉利、広州汽車)
2位グループ:
トヨタ、中国の新興自動車メーカの一部
3位グループ:
ホンダ、ジープ、中国の新興自動車メーカの一部
4位グループ:
日産、スバル、HUAWEI
5位グループ(ほぼ、客なし):
三菱自動車、KIA
特に、日系自動車メーカのブースで感じた「ガラガラ感」には焦りを感じました。「これほどまでに人気がないのか!?」というショックです。
全てのブースを見たわけではありませんし、時間帯によって差はあると思います。ただ、数少ない「日本企業が世界で勝てる業界」であるはずの自動車でも負け始めているのは間違いなさそうです。
トヨタ
ARCFOX
ホンダ
HUAWEI
三菱
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人気の「あった」ブースと「無かった」ブースを比較して感じたことは「ワクワク感」の有無です。もう少し具体的に言えば「近未来感」の有無。
中国新興ブランドは、変わったデザインや奇抜な色の車を多く展示していました。ガルウィングや蛍光色、映画に出てきそうな車。それらはコンセプトカーだけではなく市販車にもありました。
コンセプトカー
BYD車の45°回転するCID(ワンタッチで縦長⇔横長の切り替え可能)
一方で、日系メーカは白色が基本。トヨタは少しカラー展開していたものの、日産とホンダは白色が多かった。奇抜なものはなく、日本のディーラーで見かける光景と特に変わりがなかったのです。
■物理ボタンが減ってシンプルになっている
「近未来感」は内装で大きな差が出ていました。人気の無かった日系メーカは、いままで通りに物理ボタンが多いデザインでした。
※ 「物理ボタン」とは空調や音量を調節するボタンのこと
一方、中国メーカの車は物理ボタンが減って、多くのことが画面で操作できるデザインでした。
ARCFOX車の内装(物理ボタンが少なく「キラキラ感」がある)
テスラModel3の内装(めちゃくちゃシンプル!)
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運転席と助手席の間にある画面のことを総称して
日本メーカ: 「ナビ(カーナビ)」「GPS」
中国メーカ: 「CID(センター・インフォメーション・ディスプレイ)」
と呼びます。
まさに、この呼び方の違いが表れている気がしました。中国はCIDをデザインする感覚が強そうに感じました。
◆◆◆
また、日本人と中国人の気質の違いが現れているとも感じました。
Nice to have(あるとうれしいもの)は残しておきたい日本人
Must have(なければならないもの)以外は排除したい中国人
という気質の差のことです。
◆◆◆
ボクは運転中の操作を考えると「物理ボタン」が使いやすいと思っていました。でも、「タッチパネルでは操作しにくい」という考え方はどうやら古いようです。
何人かの中国人に聞いてみると
「声で操作するのになんでボタンが必要なの?」
という発想になるそうです。
声で指示した内容が「正しく実行されたかどうか?」を確認するためのモニター(CID)があればそれで充分ということです。
この発想の差は、以下のような国の状況の違いが表れていると感じました。
やっとオフラインからオンラインへ移行し始めた日本
すでにオフ/オンラインの境目がなくなり始めた中国や欧米先進国
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ホンダのブースでは「自動車とインターネットの接続」という説明会を開いていました。それを、子づれの家族や老人も含めた多くの人が聞き入っていたことが印象的でした。「デジタルへの興味が高い国」であることを象徴している出来ごとだと感じたのです。
いろんな分野で日本のデジタル化の遅れが指摘されていますが「ヤバい!」と感じました。
■ AGが減ってクリアパネルが増加
CID画面に関して気付いたことは、AG処理されたパネルが減っていること。
AGとは…Anti-Glareの略。ディスプレイの表面に細かい凹凸を付けて、太陽や蛍光灯の反射光が直接目に入ることを防ぐ効果があります
AGを使ったデザインもありました。ただ、透明のディスプレイが予想以上に多いと感じました。
理由はわかりませんが、以下の流れが関係しているのではないか、と推測しました。
◎自動運転が始まる
∟ 車内で映画などのエンターテイメントを見るためのディスプレイになる
∟ ディスプレイの解像度を上げて「キレイな画像」を表示するようになる
∟ せっかくの解像度の高い画像をAGで歪ませたくない
∟ ゆえに、クリアが増える
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もう一つ、消費電力の問題ではないか、とも推測しました。「自動車はスマホと違って電力消費を気にせずに輝度を上げられるからAGが使える」ということを、以前に聞いたことがあります。
しかし一方で、電気自動車は「電力消費を抑えたい自動車」です。そのため、輝度を上げずにキレイな画像を表示したい、と考えても不思議ではありません。
これが、AGを避ける理由の1つの可能性と考えました。
■まとめ
「集客力」「近未来感」の2点で日系メーカの将来に危機感を覚えました。とはいえ、圧倒的な敗北を感じたわけではありません。
むしろ、高い期待があったからこそ、残念に感じたのだと思います。トヨタやホンダならばたくさんの人が集まっているはず、という高い期待値が残念に思う気持ちを増幅させたと考えています。
過去には、家電やスマホで中国メーカに苦い思いを味わされました。いまはコロナ騒動で苦しんでいます。だからこそ、ボクも含めた日本人は自動車での圧倒的な勝利を見たかったのだと思います。
ボクのような普通の日本人にできることはほとんどありません。せめて、中国から見た日本の危機感を共有できれば、それだけでも嬉しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。