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届かないズベズダのプラモデル

 2022年の11月、ひとつのプラモデルをAmazon経由で予約した。「1/35スケール ソ連軍 STZ-5 砲牽引トラクター」というなんとも厳ついを体現したようなプラモデル。実機は知らないが、どんな悪路でもそうは出来そうなフォルムがとてもかっこよく見えたせいで、迷うこと無く予約する運びになった。メーカーの名前はズベズダ。なんとなく聞いたことあるメーカーであったし、初めて触るメーカーであったがため今か今と到着を待ち望んでいた。
 少しズベズダに関して説明する。ズベズダはロシアのモスクワ州ロブーニャに本拠地を置く模型メーカーであり、主に旧東側・ロシア軍の兵器(戦車だとか航空機、戦闘車両といったもの)やボーイングといった旅客機を製造・販売している。模型ファンの間では、強烈な知名度があるというわけではなく、じんわりと知名度があると捉えてもらっていい。
 と、偉そうなことを書いたのだが、これを書いている本人こと不肖コロ助は、ズベズダを買ったことを見たことも無いので、自身の知識を基にした情報でズベズダのことを書いているわけではない。どこから持ってきた情報なのかというと、しょうもないWikipediaからの引用である。本当にしょうもないが、なんとなくロシアに関するものが多いなと感じていたのは本心である。ちなみに、知名度云々は完全に僕の主観であるが故に、激昂した道行く模型ファンに後頭部めがけてサマーソルトキックをカマされても文句は言えない。とはいえ、ズベズダに対して僕はこういうイメージを持っていることをお伝えしたかったのだ。
 僕が抱える印象は横に置き、ズベズダのプラモデルが届かないのだ。右にも書いたが、予約したのは2022年11月。ロシアがウクライナに侵攻し、大規模な戦闘へと発展したのは2022年2月。当時、侵攻のニュースを目にした時のショックは今でも覚えているくらいだ。なんの変哲もない住居・家屋・私設が破壊され、無辜の民たちが暴力の恐怖から逃げ回り、巨大兵器から発せられる弾丸の嵐の中に兵士たち。凄惨な場面がSNSなどを介して次々と流れてきては、専門家たちがなにが起きているかを解説していた。虚偽や真意不明、デマゴーグが入り混じった情報が交錯している様子に目を回しそうになりながらも、心の何処かでは思い込んでいた。「すぐに終わるだろう」と。それは願いにも近かったかも知れない。
 そんな甘っちょろい考えを粉砕するが如く、戦闘は今でも続く長期化の一途をたどっている。そんな中でズベズダのプラモデルを予約する僕。販路がいまだ生き残っていたとは言え、未来には届くだろうという甘い考えの中で予約したのは確かである。それとも、届く頃には戦争は終わっていて欲しいという一抹の希望を抱いているのだろうか。その感情を証左するズベズダの予約。
 お届け予定日が更新されましたという通知のメールが届くたびに、その時の自分を思い出して少しだけ嫌な気分になる。


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