創作物を楽しむ知識と考察 アリアドネの糸と意図
アポロドーロス「ギリシャ神話」に載っている伝説から。
アテナイの王子、テセウスは、ミノタウロスという怪物を退治するため、
通路が非常に複雑に入り組んでいる「迷宮(ラビリンス)」という建物に
入ろうとしますが、そこから脱出する方法がわかりません。
すると、アリアドネという少女が、通り道に沿って糸を張りながら
奥へと進み、怪物を退治したらその糸をたどって戻ってくればいい、
と教えてくれました。
その通りにしたテセウスはみごと、ミノタウロスを退治することが
できたのでした。
出典 故事成語を知る辞典/故事成語を知る辞典について
前置き
運命の赤い糸のシンボルは世界中に沢山あります。
しかし表立った表現は違えど、根底にある思想のようなものは共通している部分も多くあります。
今回は創作物の中で一番共通して使われるであろう代表格として
ギリシャ神話の中で使われるアイテムの“アリアドネの糸”に
スポットを当ててみようと思います。
初めて知るよ!という人にはわかりやすく。
知っているよ!という人にも楽しめるように努めていきたいと思うので
ぜひ、読んでみてください。
創作物の中のアリアドネの糸を探してみよう
運命の赤い糸といったらアニメや映画の中でも恋愛ものに限って考える人もいるかもしれませんが、実は閉鎖された環境から逃げ出すような
サスペンスものやディストピアものや哲学的な作品のなかで
後々の展開を予兆するシンボルとして色々な場面でハッキリと
…或いはコッソリと使われちゃったりします。
恋愛モノではテセウスとアリアドネの絆になぞらえるように表現されて
困難に直面するようなサスペンスものでは問題を解決する糸口として
表現されます。
私が最近、観てはっきりと暗示されてると思ったのは、アニメ版の
「約束のネバーランド」の一期のOP曲のなかで赤い糸が使われている
パートを観たときでした。
なかなか意味深な使われ方をしていたのでまだ観てない人には
お勧めします。
この赤い糸一本に物語のすべての展開が隠されてる事も在る…
かもしれません。
糸と意図
創作物におけるアリアドネの糸の暗喩がハッキリと主張される場合は赤い糸或いは毛糸や赤いモノとして見える様な場合です。
登場人物の誰かが編み物をしていたり、上着がほつれていたり、
毛玉が転がっていたりと色々なシチュエーションでそれとなく出てきて
そのアイテムや場面等が物語のカギを握るシーンだと教えてくれます。
逆に目に見える糸としてではなく目に見えない意図として
登場する場合もあります。
つまりアリアドネの糸の物語を抽象化して作品の中に
組み込んでいるということです。
目に見えない意図を感知する為には物語を一旦、抽象化して
視点を広く持つ必要があります。
ストーリーライン
テセウスとアリアドネが出合う
↓
テセウスに迷宮から脱出する為の
糸を授かる
↓
迷宮に入る
↓
ミノタウルスに出会う
↓
ミノタウルスを倒す
↓
アリアドネの糸を使い外に出る
抽象化されたストーリーライン
誰かと誰かが出合う
(関係は恋人関係とは限らないライバルや何かの場合もある)
↓
困難を解決するアイテムを手に入れる。
↓
困難と出会う
↓
困難を解決する
(しない場合もある)
↓
アイテムを使い外に出る
(出れない場合もある)
まるでストーリー講座ものみたいになってきましたね。
何か物語を作るときや普段書いてる日記を上のパターンに当てはめて
考えてもいいかもしれません。
困難を解決しなかったり出れないパターンがある理由は
困難をトライ&エラーを繰り返して解決する場合や
物語の印象を悲しげなものにするためにハッピーエンドに至る前までを
切り取ったものとして捉えられます。
抽象化されたストーリラインに沿った好例としては
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」などいいかもしれません。
本質を掴み、隠されたアリアドネの糸に気付く方法
上記のストーリーラインは物語性が強い場合、つまり物語や創作物の
ストーリーを盛り上げて伝えたい場合に使われる場合です。
誰かの伝記(松下幸之助や孫正義、ジョブス等)などを盛り上げて伝えたい
様な場合に使うと面白く伝わるでしょう。
しかしアリアドネの糸の本質をより掴めば物語を読むのはもちろん
話を伝える上でより深い洞察に繋げる事が出来るでしょう。
もっとシンプルに捉えた物語の抽象化は以下になります。
核になるストーリーライン
ミノタウルスの迷宮に入る
↓
アリアドネから貰った糸を
使い迷宮から脱出する。
抽象化したストーリーライン
問題に直面する
↓
問題の解決の糸口を発見する
実はたったこれだけの要素で隠されたアリアドネの糸に
なってしまうのです。これに物語の主人公を当てはめて考えると
主人公が問題に直面して
↓
主人公が問題解決の糸口を発見して
↓
自動的に過去の記憶から
解決方法を思い出す
私たちがする普段の思考と同じように
主人公は問題に直面すると自動的に過去の記憶から解決方法を検索して
結果的に「ああ…アレがアリアドネの糸だったんだな。」と思い出します。
創作者はそれに赤いシンボルや毛糸の様なモノをアクセントにすることで
アリアドネの糸の物語性を演出することもできるのです。
アリアドネの糸を探すことで監督が伝えたい意図に気付いたり
早い段階で物語の構成に気付くきっかけになる事も少なくありません。
ぜひ、注目してみてください。
…そろそろ私は自分の人生という迷宮から出るためのアリアドネの糸を
探しに出かけようと思います。(赤い薬は何処だ!)
この記事があなたの何かのお役に立てれば幸いです。
ではまた逢う日まで。