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旭酒造のインフラ投資は桁外れ。
「獺祭」を醸す旭酒造の蔵のそばに、久杉橋という橋梁がある。2018年の西日本豪雨により被災し、その架換が行われ、昨年夏に完成した。側面が流線形のヒノキ材ですっぽり覆われており、写真からもその造形美が伝わってくる。世界的建築家、隈研吾氏のデザインによるものである。
さて、この久杉橋、延長20mで事業費3.7億円。このクラスの橋梁ではかなり高額だ。それもそのはず、ヒノキ材による修景費として2億円が含まれている。つまり、橋梁本体の工事費は1.7億円で事足りるということだ。デザインへの投資が事業費の半分以上を占めている。何とも凄い公共事業だ。
さらに驚いたことに、その2億円を全額旭酒造が負担しているという。昨年の総売上が150億円なので、その1%強を投資していることになる。旭酒造は、この橋梁は「地域の血管」「災害復興の象徴」として捉えており、寄付行為を行ったという。パブリックイメージや社会貢献といった側面を踏まえても、かなり大胆な投資だ。
地域の1酒造会社のインフラへの巨額投資は、極めてレアケースだ。ただ酒蔵と地域住民との連携はある。ある酒蔵が自らまちづくり株式会社を設立し、蔵周辺の土地の所有権の整理、伝統的家屋の修復を進めた事例もある。被災に遭った酒蔵の復興を地域住民が助けることも、連携の1つだろう。
しかし、今回の投資は橋梁というインフラへの巨額投資だ。本来なら国や自治体が担う責務なのだ。復興のシンボルという側面があるにしろ、1民間企業による2億円の公共投資というのは、凄い決断だと思う。
では、この2億円を県や市が捻出できるかというと、難しいだろう。橋梁の構造上必要のない修景費に税金を充当するというのは、かなりハードルが高いものだ。そう考えると、旭酒造あっての橋梁と言えるのかもしれない。
この橋梁の維持管理は市が行うとのこと。ヒノキ材が将来腐食してしまう不安が残る。従来の橋梁と異なり、メンテナンス費は相当高額になるのではないか。通常、土木の世界で橋梁や堤防のような浸水前提のインフラに、腐りやすい木材を使うことは最も回避する行為だ。防腐加工はしているだろうが、100%腐食しない保証はないだろう。
外観的に橋梁は素晴らしいのだが、周辺インフラが整備されていないため、全体的な地域景観と捉えると、寂しい印象だ。費用の制約があったのだろうが、周辺の道路や町並みも一緒に整備した方が「獺祭城下町」的な風情を出て、それはそれで面白かったと思う。
にしても・・・2億円のインフラ投資は凄い。これに加え、旭酒造はニューヨークに新しい酒蔵も建設中だ。隣接する名門料理学校CIAとのフードペアリングの連携研究を図るという。面白い試みだ。ここの酒蔵は獺祭とともに、常に面白い刺激をくれる。楽しみだ。