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世界で活躍する日本人。これからの日本社会の行方および日本のスポーツに期待したいこと。【後編】

アジアサッカー連盟(AFC)審判部の全体統括を務める阿部博一さん。25歳でプロサッカー選手を引退後、海外留学を経て現職で活躍中。
最終編では、「日本のスポーツマネジメントに感じること」「今後の日本のスポーツ界」についてお聞きしました。
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本当の意味でのスポーツの理解を深めることが必要

以前は、「日本のスポーツ界には、プロのビジネスパーソンが少ない」と感じていました。しかし、今は相当増えてきており、必要一定数は超えたかな?という感覚すらあります。
今の日本のスポーツマネジメントのトレンドとして、「スポーツで稼ぐ」という部分にフォーカスがあると思います。スポーツで稼ぐのはめちゃめちゃ重要ですよね。これからも模索していかなければいけない部分です。一方で、個人的には、スポーツの社会的な側面、社会との関係性の部分により興味があります。スポーツの価値の部分ですね。これは前職で日本アンチドーピング機構のプロジェクトに関わったのがきっかけになっています。
自分は、以前は競技という側面でしかスポーツを考えていませんでした。むしろグラスルーツ、スポーツ文化的な要素の上に競技スポーツがあるというようなハイラーキーでスポーツを捉えていました。非常に浅い理解ですよね(笑)。スポーツの価値を考える事で、スポーツに対する考え方が昇華されたと思います。
「日本は真の意味でスポーツ文化が根付いていない」という議論を良く聞きますが、その辺りの「何故?」をもっと考えていく事で、社会のスポーツに対する理解が深まり、スポーツで稼ぐというところに跳ね返ってくる気がします。
スポーツの価値が社会に広く共有された時に期待する事は、例えば、日本ではなんとなく理系の企業や業種の方が優秀な人材が集まるという印象がありますよね。同様に「スポーツ系」に優秀な人材が自然と集まるというような流れが出来る事を期待します。「あ!あなたスポーツ系なの、賢いね」となるような状況ですね。そうなると日本のスポーツ界も本当の意味で変わってくると思います。

「30歳新卒問題」を解決したい

自分のライフテーマは、”アスリートのキャリア”です。前編でも話した「30歳新卒問題」のところをなんとかしたいと思っています。
これまでの日本は、カイシャ(大企業)とムラ(地方)という単位で社会が構成されてきたと思います。今後日本社会で必要となるのは、カイシャの解放と、ムラの革命だと勝手に思っています。その時に、アスリートという人材プールは何か役割を担えるのではないかと考えます。
多様性のあるキャリアをアスリートが体現出来れば、一芸に秀でる他の人材プールの希望になるかもしれません。また、 キャリアが一時中断する人材プール、日本では女性のケースが多いですが、俗に言う女性のM字カーブ問題(労働力率)にも示唆があると思います。自分自身、サッカー選手クビになってから25~29歳まで空白の時間がありますが、それが無駄だったとは一切思っていません。アスリートのキャリアを考える事は、日本社会が変わっていくきっかけになるのではないか、そんな気持があります。
自分自身はワンキャリアという考え方が好きです。色んな職業、アルバイト、ボランティアを経験してきましたが、結局は「阿部博一」という軸は何も変わらず、ただ生きてきただけです。「この会社にあと何年いないと…」とかそういう価値観は自分の中にはありません。

スポーツ界で日本人が担ってほしい役割

AFCでやり遂げたい事でいうと、特に技術系の分野でサッカーレベルの高い国の経験をもっと反映していきたいと思います。例えば、アジアでは、日本のサッカーはトップレベルです。日本に限らず、良いものを取り入れてカスタマイズしていく、変化をデザインして実行するという事をもっと貪欲にやりたいです。そのためには、より高い意思決定の出来るポジションを志す必要があります。
これは肌感覚ですが、日本のスポーツ界よりも、海外のスポーツ界の方が上にあがっていくスピード感や、新しい事をやれる機会がたくさんあると思います。日本は良くも悪くも官僚機構がしっかりしているので、自分が裁量をもって色々変えていくのに、果てしない労力が必要ですよね。海外だと意外と何でも出来ます。そしてそれが自分の経験になる。なので、日本のスポーツ界の人材には、もっと気軽に海外に出て欲しいですね。そして気がつくと思います、日本で当たり前の事をやっているだけで、やたら褒められ、評価される事に。(笑)
今37歳ですが、25~37歳までの間は、色んな勉強、仕事、インターン、ボランティアをしました。世界中の色んな場所にも住みました。25歳でサッカー選手をクビにならなければ、こんな経験は出来てなかったと思います。 そもそも、25歳でクビになる経験もプライスレスですね(笑)。

阿部博一(あべひろかず)さん
アジアサッカー連盟審判部統括マネジャー(Referees Department , Head of Operations)。
東京都出身。大学卒業後、V・ファーレン長崎と契約。プロ選手として3年間プレーした後、戦力外通告を受ける。25歳でカリフォルニア大学サンディエゴ校に進学、国際関係学修士を取得。帰国後は三菱総合研究所へ入社。スポーツ及び教育分野の調査案件に従事。2016年より現職。
Twitter : https://twitter.com/Hirokazu25

(取材・構成:SXLP1期/太田光俊)

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