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伝えていくべき物語と、そうでない物語

 最近、本を読んでいると思うことがある。俺がどうこう言わなくても「残って行くであろう物語」と、そうでない「消えていく物語」があるということを。もちろん俺は前者が好きだし、前者を選ぼうとする。最新作であるかどうか?が大事ではない、という言い方も出来るだろう。最新作なのに、すでに半年後には古くなることが予感される本などは、さらっと読んでそのまま古本屋行きだ。一方、どれだけ古い本でも面白い、考えさせられる本は手元に置いておきたいしなんなら他人に、なんなら若い人に伝えていきたいと思う。

 そんな前振りから紹介するには申し訳ない本を、今日は読書感想文として紹介しておこう。そう、これは誰もが読むべき本ではないのだ。つまり後者だった。一部のSOUL MUSICマニアにだけ、いやそれを自負する俺でも微妙だったな。正確に言うなら、現在アメリカ在住の、それもシカゴ界隈に住んでいる人が読むべき本でしかなかった。シカゴという街に興味がある人向きの本であって、思ってたほど音楽中心ではなくて、なんなら残念だったと言っておこう。

"Move On Up~シカゴソウルはどう世界を変えたのか
"Aaron Cohen 著(2019年原著・2024年翻訳)

 SOUL MUSIC好きの間でもノーザン好きか?サザン好きか?と言うのはよく会話に登る。前者がデトロイトのMotown、シカゴソウルなどのある種ポップで爽やかなものを指す、後者がメンフィス以南の土臭いソウルを指すと言う印象。俺はどちらも好きだけど、どちらかと言えばノーザン好きと言ったところだ。それも踏み込んで会話をする場合はシカゴソウル好きを自称したりすることが多い。数多な歴史振り返り本が出版される中、「この本は読んどくか」と思って購入した理由はそこにある。シカゴソウル好きなら、読んでおくべき!と他のソウル好きに言われそうだから(笑)

 タイトル通り、Curtis Mayfieldも何度も出てくるし、Donny Hathawayも出てくるし、好きなレーベルBrunswickはもちろん、インタビュー歴がほぼ残っていないプロデューサー・アレンジャーのCharles Stepneyについても出てくるから、それだけでも貴重なんだが、なんでだろうな、、、面白いとは言えなかった。何せ今言ったような固有名詞はもちろんのこと、街の作りをある程度知ってる人にしか伝わらないようにできてる物語だからかな。

 もちろんそこそこ詳しいことを自負する俺でも「へぇ、そんなバンドあったんだ」「こんないい曲あったんだ」と手をうつような楽曲誕生秘話も多数あったので、その都度メモがてらSpotifyに入れてプレイリストも作っちゃいました。

 でもそれ以上でも以下でもない。何せシカゴの音楽誕生秘話と周囲への影響を語っていく物語、と言うことはラジオ局の誕生と変遷なり、当然ながら黒人差別問題や暴動や学校問題などなどを含めた「シカゴ市の歴史」を語られる物語でもあるからだ。申し訳ないがそうしたローカルな歴史記述に関しては飛ばし読みせざるを得ない。その飛ばし読みをしなきゃいけない箇所の多さにがっかりしたのだ。これだったらまだ音楽に特化した2014年に出版されたThe Dig別冊"Chicago Soul"の方が面白かったし、これは資料として取っておこうと言う気になる。

 俺がよくblogでも記しているように、最近のアメリカのドキュメンタリー映画や歴史書は、ちょいと説教臭いものが多いから好きじゃない。もちろん大きなストレスのある社会であるが故に生まれた面白いエンタメ〜音楽であることは分かるのだけど、よりローカリズムに走りがちで、昔はまだ世界に発信するグローバルな作品が多かった気がするんだが、今はアメリカ人自らアメリカの窮状を訴えるようなまとめ方が多くて辟易するのだ。差別を訴えることで有名になり売れる図式を喜んでる様を見ると、まるでその差別が維持されることを望んでるようにも見えちゃうしね。そう、その閉じている感じが、最初に記した「消えていく物語」のように感じてしまう理由かもしれない。

 と酷評でしたが、あくまで俺個人としては面白い作品の再確認と出会いがあったのは確かなので、そこだけは感謝です。中でもRotary Conectionに所属し、のちに作家、プロデューサーなどとして活躍したSydney Barnesの70年代初頭に出した、家具屋のCM曲ってのが面白かった。これはNumeroと言う再発で有名なレーベルからも2011年にレコードリリース&配信もされているようだ。面白い感じの曲だよね?

 音楽ガイド本ではきっとこぼれ落ちるだろう、こういう曲を見つけられる点はこの本の良いところでもある。もちろんバンド結成秘話から名曲誕生秘話から、アーティストやプロデューサー交流についても知ることができる。

 そういう、音楽マニアにとってこそ貴重な情報に溢れてるとは言えるものの、そのローカリズムっぷりがすごいので、残念ながら伝え続けられる本ではないだろう。特定のレーベル史なり、特定のプロデューサーの伝記ならまだ面白いんだろうけどね。スーパーA&R~プロデューサーなClive Davisが伝記を出してたりしたら読んでみたいけどね。


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