働く人びと
神戸市の六甲アイランドにある神戸市立小磯記念美術館「働く人びと」を見てきました。小磯良平の「働く人びと」という壁画がメインビジュアルになっていますが、内容的には昭和、特に戦後の一般市民の働く姿に着目した展覧会で、非常に多様な作家の作品を見ることができました。
戦後、農業や漁業に従事する人を主題とする作品を描いたものを最初の展示室で見ました。私が面白いと思ったのは、国鉄労働組合の三割休暇闘争を描いた新海覚雄の「構内デモ」、第3次東宝争議に取材した高山良策の《1948年》、米軍立川基地拡張運動に反対する砂川闘争に取材した中村宏「砂川五番」などの具体的な出来事を描いたものです。ある意味、戦後しばらくの時期の労働者たちは闘う気力というか気概があったのだな、などと思いながら見ました。
それらに対して、小磯良平の壁画として描かれた「働く人びと」(↓この絵です)を見ると、どこか日本ではないような、どれかというとギリシャ彫刻とかミュシャなどの作品に近いものがあるような気がしました。
この作品は、戦後の復興途上の神戸銀行本店の落成にあわせて壁画として描かれたものだそうです。この大作を描くためのエスキース(準備素描)などの展示も数多く展示されていて、かなり一生懸命に取り組んだことが分かります。人物たちの背景には港や建物が見えて、やはりこれは神戸を意識して描いたのだとも感じました。描きたい対象を、見たまま写実的にカメラに写したように描くのではなくて、絵画作品としてのデザインを古代ギリシャの浮彫彫刻から着想を得たようです。小磯良平がアトリエに所蔵していたパルテノン神殿の石膏レプリカの展示もあり、なるほど、こういう奥行きのあまりない少し平面的な構成にしたかったのかなと思いました。
働く人にテーマを絞ったことに関心があったのと、実際に見に行って心を動かされる作品が何枚もあったので珍しく図録を購入しました(収納の関係で、図録の購入は最小限にしています。気に入った作品の絵ハガキを購入する程度にしているのです。)。図録には、この小磯の壁画についての岡泰正氏(館長)の文章が掲載されていて、これがとても面白かったので買って良かったです。
最後の展示室は「現代の働く人びと」ということで、現代作家の作品が何点か展示されていました。やなぎみわ「案内嬢の部屋」(大阪中之島美術館)は、多分どこかで見たと思うのですが中之島のオープニングの時だったのかな…。百貨店や駅のホームでエレベーターガールの制服を着た女性たちが思い思いの姿勢で休息している写真作品でした。
また、会田誠「灰色の山」は背広を着たサラリーマンの屍が山と積み上がった光景を描いた作品で、細かく描き込まれていますが顔や個性などは描かれていません。図録巻末に収録された多田羅珠希氏の文章によると、これは藤田嗣治の玉砕図のイメージが出発点にあったと作家自身が語っているそうで、それを読んで何となくですが納得できた部分がありました(作品を見た時の衝撃が同じベクトルだったと思うので)。
美術館を出た後は、久しぶりに息子と待ち合わせをしてランチ。
もうじき2023年が終わってしまいますが、あと2つか3つ、年内に見ておきたい展覧会があるので上手く時間をやりくりして見に行きたいと思っています。