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コロナ共存生活〜お父ちゃんの日記〜【9日目】最終日

9日目

寝る前の鼻吸いで暴れたので、上手く吸えず夜に何度も起こされた。鼻吸いの達人もここに来て疲労が溜まっているようだ。

最後に起きたのは5時30分。妻から8時にビデオ通話が入ったが子供はまだ寝ている為、断りの返事をした。睡眠不足もてんかん発作のトリガーとなり得るのだ。もう少し寝てもらおう。

今日は可燃ゴミの日なので、早めにまとめて出しに行く必要がある。通常の可燃ゴミに加えて、オムツも可燃ゴミの為結構な量になる。全ての可燃ゴミを持ってゴミ捨て場へ行く。ウィンドブレーカーを羽織り早足で階段を降りた。

凄く風が冷たい。夜中に雪が降ったのか、駐車場の車にうっすらと雪がかかっている。どおりで寒いはずだ。急いで部屋に戻った。

部屋は暖かい。中古マンションをリノベーションして住み始めて5年になるか。気密性を考えて二重窓や仕切り扉が多い構造になっている。色々考えたがこれで正解だったのだろう。

まだ時間があった為、段ボールを片付ける事にした。一昨日までは基本的に外出出来ないので、ネットで頼む事が多くなり段ボールが大量に増えた。きっと世の中の段ボールのゴミの量も大変な事になっているのだろう。

子供が起きるとそれに合わせて食事の準備をして、いつもの流れで1日がスタートする。この期間は子供中心の生活で起きている時間は何かと配慮する事が多く、寝ている時間にどれだけ多くの事が遂行できるかが鍵となる。

朝の鼻吸いは上手く行えた。朝は例の様に量が多いが、ここ数日より減ってきているので明日以降期待出来るかもしれない。何気にこの作業に時間がかかる為、早く終息してほしい。

朝の機嫌はまあまあで、ご飯も問題なく行えた。その後、午前のタスクをこなした。子供もこちらの流れを分かってきたのか、おとなしくテレビを見てくれている。本来はもっと遊んであげたいのだが仕方ない。ワンオペには妥協も必要だ。

一通りの家事と清掃が終わると、朝が遅かったせいか11時を回っていた。仕事のメールも何件か来ていたので、返信しながら残りの家事や子供の様子を確認する。もうこの生活にも慣れたもんだ。

お昼は面倒だったので、インスタントラーメンとサラダにした。夜は美味しい物を食べよう。子供もまずまず食べてくれた。ありがたい。午後は昼寝してる間に買い物へ行こうと決めている。

子供を寝かしつけた後、着替えをして外に出た。風は冷たいが外の空気は気持ちが良い。久しぶりに外を歩く。坂道を歩くが不思議と身体が軽い。多分、普段からのルーティンのボディーワークが効いているのかもしれない。子供が寝てる時や夜寝る前など、隙間に必ず行っているワークだ。理学療法士として、歩いたり、身体を使ったりする事は勉強したり臨床で経験してきた。最低限これだけは必要。という身体のポイントが何となくわかる。不活動になってもこういう事が生きてくるのだろう。

外出の目的は買い物だ。もうすでに僕は濃厚接触の期間は終了している。妻が今日で隔離期間が終了する為、ちょっとしたご褒美としてケーキを買う事にした。それと自分用にビールも忘れずに。

いつものケーキ屋に到着すると、季節的なのかイチゴの商品が増えていた。イチゴのタルトとショートケーキを選択した。ここは街の小さなケーキ屋さんという感じで、値段も量も丁度良い。立地も歩いて7-8分の所にあり、何かのついでについつい立ち寄ってしまう。お店には失礼かもしれないが、素朴な味なので飽きないというのが最大の特徴だと思う。その足でスーパーもハシゴし、ビールと子供のヨーグルトを購入した。夜はこれを飲もう。自宅に着くまで色々考え、夜の献立は若鶏の唐揚げに決定した。

自宅に戻ると、まだ子供は寝ていたので久しぶりにコーヒーを挽いてドリップする事にした。友人が販売している豆を購入してまだ残っていたはずだ。

残っていたケニア豆を専用のコーヒーミルへ入れゆっくりとハンドルを回す。華やかなフレーバーが鼻を刺激する。いつもの休日の様だ。こんな当たり前の事をする余裕がなかった。明日からまたいつも通りの生活が始まると思うと感慨深い。

ドリップしてひとつは豆乳を入れ、ソイオレとした。妻の分だ。イチゴのタルトをセットして、部屋の前のトレイに置いた。合図をしてしばらくすると妻が気づき、とても喜んでくれた。わざわざ買いに行った甲斐があった。こういうちょっとした事を大切にしたい。

子供が起きるまで、まだ時間がありそうなので仕事のメールと昨日撮影した動画の編集をした。少しずつ仕事モードに頭が切り替わってきている。むしろ、ここ2週間は仕事よりも複雑なタスクをこなしているかもしれない。仕事と違うのは、臨機応変さよりも同時に複数の事を慎重にこなす事だろう。

子供が起きるまで横になり休憩した。そして、子供がゴソゴソ動き出すとおやつと夕食の準備を開始した。夜は絶対に若鶏の唐揚げとビールを堪能したい。

夕食の仕込みを概ね終えると良い時間となり、子供のごはんをあげる。座位保持装置には専用の机を差し込む事が出来る。そこでごはんを食べさせる。子供は机に手を載せると体幹も自然と安定してくる。始めは怒っていたが、もう今では慣れたものだ。

子供のご飯が終わると、いよいよ我々の夕食の仕上げとなる。しっかりと水分を拭いて若鶏に味を染み込ませる。米粉を塗し、鶏肉の皮を引っ張り包むように丸める。こうする事で皮がパリッと仕上がるのだ。

加熱したら油へ若鶏を落とす。ジューという音がビールへの期待感を加速させる。付け合わせは白菜のサラダにした。ごま油、麺つゆ、胡麻、砂糖で味付けした。多分無限に食べられるだろう。

カリカリに揚がった鶏にレモン汁をかけて完成だ。トッピングでマヨネーズ。完璧な夕食だ。冷蔵庫からおもむろにビールを取り出して唐揚げとテーブルに並べた。

折角なので、子供と共有しようと思いテーブルの方へ子供が乗っている座位保持装置を移動させた。妻とビデオ通話をしながら、子供にはおもちゃのコップを握らせ一緒にコツンと乾杯をした。

これまでの思い出が蘇る。苦しかった。一体これは何だったんだろう。でも、そんな思いは唐揚げとビールにかき消された。

美味い。もう美味いとしか言いようがない。ビールの喉越しと若鶏のジューシーさ。一気に流し込む。若鶏はあっという間に無くなっていく。そして最後の一つをマヨネーズを塗りたくり頬張る。夢中で米と一緒にかき込む。子供は横で積み木やおもちゃを投げ飛ばしているがもう関係ない。

子供の機嫌も良さそうなので、ウィスキーも一杯だけ飲むことにした。タリスカーの蓋を開けてグラスに少しだけ注ぐ。ピート香と甘いフレーバーが漂っている。子供ともう一度乾杯をして飲み干した。しばらくアルコールを絶っていたせいか、味覚が敏感になっている。

どことなくナッツのような香ばしさ。後味はスパイシーな感じ。いつもはソーダ割りにしているが、ストレートも悪くないな。この味は一生忘れないかもしれない。

食事を終えると入浴の準備だ。これで1人でのお風呂介入は当面無いだろう。明日からまた日常が始まると思うと何だか寂しい気持ちになった。

お風呂から上がると最終日の鼻吸い。昨日は少し失敗したので、今日は気合いが入っている。進入方向を誤ると激怒だ。慎重かつ迅速な対応が求められる。

ズズーと左右とも綺麗に吸う事ができた。今日は鼻づまりで起きる事はないだろう。大体感覚で分かるようになった。仕事みたいなもんだ。

子供を寝かしつけ、いつもの様にキッチンで家族の寝息を確認する。

冷蔵庫から、スーパーで購入したギネスビールを取り出した。こうしてキッチンで飲む事もしばらく無いだろう。香ばしい麦芽が口いっぱいに広がり、一杯目を一気に飲み干した。

この隔離期間でたくさんのことを学んだ。本当に必要な情報は何か。時には妥協も必要で、誰かを頼っても良いんだという事。目標を持つ事で生活にメリハリが出来る。そして、足るを知るという事。

何気なく行えている日常は全て不要不急。不要不急で行動制限をするという事は人間の本質を否定する事だろう。

ただ、そうは言っても医療者として社会的な責任もある。要はコロナ禍でどのように折り合いをつけて行動するか。本当は目の前にある日常が既に幸せで足るを知るという事。大袈裟かもしれないけど、そんな事に気づけたかな。

早くコロナ禍が収まって、社会的制限が緩和される事を切に願う。2022年2月

夕食の若鶏の唐揚げ
夕食の若鶏の唐揚げ
キッチンでビール
キッチンでビール

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