ま、仕方ないんじゃないの? ベストは尽くしたんだからさ。ね?
数年前から「人前に出るのは緊張するからゴミブルーのほうが楽」という謎の感性を身につけてしまい、講演などの機会に50人だろうが500人だろうが<ゴミブルーで登場するけど、かといって特段何もしない>というパフォーマンスを実践している沼田君。
「素顔を見せるのが恥ずかしいから」「人の目が気になるから」マスクが外せないという若者たちと近い気もするが、決定的に違うのはマスクはマスクでもゴミブルーの場合、確実に「素顔よりも恥ずかしく、人の目を引く」という点だ。
でも、どうやらそこはあまり気になっていないらしい。
なぜ? ヒーローだから? ヒーローだけど中身は完全に沼田君だよ?
先日、ひさしぶりに70名ほどの学生の前で話をした。
毎年呼んでくださる授業だが、対面は2年ぶりくらいじゃなかろうか。
学生の反応もそこそこよかったように思う。マスクが顔半分を隠してしまって表情が読みにくいが、目が笑っていたり、ウンウンうなずいていたり、そうした反応を示してくれる学生が何人かいた。たとえ疑問符だらけのしかめっ面でもいいから、なんらか小さな反応を頼りに長時間話し続けることができる。 オンラインではそれが困難な場合が多く、だからとても疲れる。
およそ90分間僕は話をし、はじめてこうした場に登場したあふるくんは堂々と絵を描き、インターンシップでスウィングに来ている大ちゃんも色々と手伝いをしてくれた。Q氏が壇上のど真ん中で、いつものように平気な様子で、どうでもいい詩を量産しているのがおかしく頼もしかった。
ひさしぶりのリアルな場。学生にキョトンとされて出オチになってもいけないからと、この日の沼田君は最初は沼田君のまま。
机の陰に体が隠れているから、途中までスーツを装着した状態(脱皮中のセミみたいな感じ)を見られることはない。
そして後半、ゴミコロリを紹介するくだりで完全ゴミブルーに変身しようという計画だった。
計画は計画通りに進んだ。
話の途中で突然、70名の学生の前に本物のゴミブルーが登場したのだ。
いつも悲劇は突然起こる。
一切ウケない。
さっきまで笑ったり、うなずいたりしていたはずの彼らですら、目の前に突然現れたあの青いヒーローに何の反応も示さないのだ。
が、驚いたことに当の沼田君はそのような状況をほとんど意に介していないように見える。
「スベってるね……」と言うと「そうですね」と冷静に返される。「ま、仕方ないんじゃないの? ベストは尽くしたんだからさ。ね?」といった雰囲気である。
分からなくなる。
大勢の前で緊張するからゴミブルーになりたいという男が、大勢の前でゴミブルーになることで、完膚なきまでスベりきったというのになぜか悠然としている。
こんな僕たちを呼んだ大学講師や、無反応な学生の問題だとでもいうのだろうか。自分自身ではなくゴミブルーがスベったという認識なのだろうか。いやネットで買ったヒーロー風のスーツを着てるだけやん? やっぱり中身は完全に沼田亮平やん?
ともかくゴミブルーという仮面をつけた沼田君はタフだ。
僕自身の感覚としては、ただの沼田君ではなく、ゴミブルーになった沼田君のほうが1.2倍くらい頼りがいがあるように感じる。よく分からない。まともがゆれる。
講義の後も学生たちがあふる君の絵をじっくりと見に来てくれたり、Qさんや僕に質問に来てくれたり、しばしいい時間が流れ続けた。なかなか勇気がいることだけれど、そうしたちょっとした、短い時間の些細なやり取りがその後の人生にさえ大きな意味を持つことがある。
が、(やはり)ゴミブルーのもとをわざわざ訪れる若者はひとりもいなかった。でも沼田君はそんなの、これっぽっちも気にしていない様子だった。