獄友×まともがゆれる ~ 偏見をナナメから見た景色 ~
この企画の告知は難しいなあと、ずっと考えてきました。なぜ難しいかと言えば「難しい」と考えてしまっているからで、じゃあなぜ難しく考えてしまうのかと言えば、「偏見」や「先入観」ってどうしたってなかなかデリケートな問題だと思うからです。
突然ですが父・廣幸が亡くなって15年以上になります。生きる人が亡くなった人を美化しがちな習性は承知しつつも、それでも我が父は弱い立場にある人に対して、徹底的に優しく、思いやりに溢れた人だったと思います。
たとえばお年寄りや障害のある人、そうでもない普通に見える人に対しても。「困っている人がいれば助ける」という単純な、でもなかなか行動に移すことは難しい、ひとつの倫理を迷わず貫くそんな良き市民でした。
助けるとはまた違いますが、今のXLと同じく大腸癌で闘病し入院していた折には、苦しみにうずくまるその先に僕の真っ赤なスニーカーを見つけて、「お、ええ靴履いてるな」と褒めてくれました。自分が苦しくともどこまでも人に優しい、そんな人だったのです。
だから木ノ戸はスウィングを!! なんて単純に思って欲しくはありませんし、ここから書くことはそんな父が持っていたド偏見についてです。
父は何か気にいらないことやがっかりするようなニュースを目にしたとき、「このバカチョンが」と呟くように(時にはハッキリと)言う癖を持っていました。子どもの頃は何のことだか分からず、「言葉の響きが面白いなあ」なんて思っていたのですが、物心がつき、多少は知識も得、父の言葉の裏に在日コリアンへの差別心や偏見を感じ取るようになってからは、かなり激しく異を唱えるようになりました。
しかしながら残念なことに、何度ぶつかっても「バカはバカや」で終わらせて譲らない、残念な父の姿がありました。そして僕は遂に「ああ、これはもうしゃあないんやな」と諦めてしまいました。たとえ理屈では悪いと分かっていても、にっちもさっちもいかないくらい、恐らく細胞レベルで父の心身に根を張ってしまっているんだなと ― その時は教育の問題なのだと自分を納得させました ― 。
これが偏見というものの難しさを痛烈に思い知らされた、僕にとっての原体験です。
いや、何も他人事ではありません。
かくいう僕は著書『まともがゆれる』(2019/朝日出版社)の中で、スウィング設立以前に勤めていた職場の環境の劣悪さを「北朝鮮」という言葉で表そうとしました。これはその現場に日々飛び交っていた、本当に使われていた言葉でもあります。
僕は苦しかった状況を伝える手段として、でも堅苦しくならないようユーモラスにと考えこの表現を選んだわけですが、本の出版から1年半以上が経った9月のある夜、本を読んでくださったある人にはっきりと指摘をされました。
「とても不快だったし傷つけられた。先が読めなくなった」
僕はしばし戸惑い混乱し、でも真正面から伝えてくださるその人の言葉を必死に受け止めるうちに、自分の想像力の貧しさと、正に自分のうちに巣くった偏見から安易に言葉選びをしてしまったことに気づきました。
そして反省し、謝罪をしました。
もとより何かを表現し、それを世に出す以上、誰かを傷つけてしまう可能性からは逃れようがありません。しかしながら過去は変えられないとしても、きっかけさえあれば今の、そして未来の自分や考え方を変えることはできる。
この経験から強くそう思っています。
変わらなかった父と、少しだけ変わった自分。何だか僕が父に勝っているかのように見えるかもしれませんが、もちろんそういうことを伝えたいわけではありません。白黒や優劣を簡単にはつけられない厄介で複雑なモノ、それが偏見です。
優しく思いやりに溢れていた父でさえ偏見から逃れることができず、明らかに、どう考えても父よりもだらしない(卑下しているわけではありません。事実です。毎日寝坊です)僕が「ああ、そうだったのか……」と自分の失敗を認められたりする。
また父は言葉ではそう言いつつも、実際に生身の人間同士として在日コリアンの方と接したことはどうやら一度もなかったようなのです。もしそんな機会が一度でもあったならば父の言葉はまるで違ってものになっていたんじゃないか、そんな気がしてなりません。
本イベントの最初に上映するドキュメンタリー映画『獄友』(金聖雄監督/2018)は、この一筋縄ではゆかない偏見を、一筋縄ではゆかないままに映し出した作品です。冤罪被害者は不幸。これは偏見どころか、ほとんど固定化した事実として認識されているように思います。いや、誰だって“普通は”“悪意なく”そう思います。
が、そうでもない人たちもいるのだという衝撃的な事実をこの映画は教えてくれます。
「不運だったけど、不幸ではない」
しかししかし、じゃあ「そんな人もいるんだなあ!」で済ませされるのか?
何事も総論では語り得ず、総論で括れない個人個人もまたグラデーションに満ちた多面的な存在です。そんなに事が単純なはずはないだろう、ひとりの人間を簡単に白黒ラベリングできるわけがないだろうと、この映画はあくまで静かに淡々と、でも鋭く深く問い続けてくるのです。
誰もがこの、不完全な人間という存在である限り、偏見はいつだって持ち得るもの、あるいは既に持っているものと知ることが、はじめの一歩なんじゃないかと思います。
【イベント情報!!】
〈ONLINE+REAL〉獄友×まともがゆれる ~偏見をナナメから見た景色~
★INTRODUCTION
『獄友』×『まともがゆれる』、異色のコラボレーション企画!!
獄中での野球や毎日の食事や仕事のことを懐かしそうに語り、笑い飛ばす冤罪被害者の友情を描いたドキュメンタリー映画『獄友』(監督:金聖雄/2018)。
障害者と健常者の分断を超え、ギリギリアウトをセーフに変えるNPO 法人スウィングに集う人々を描いた書籍『まともがゆれる』(著:木ノ戸昌幸/2019)。
この 2 つの作品に共通するのは固定化された偏見を覆す爽快さであり、個々人の葛藤や社会の理不尽に対し、ユーモアと共にナナメからメスを入れていることです。
異色のコラボレーション企画から何が生まれるのか?
コロナ禍対応オンライン参加可! どっぷり濃い秋の 1 日をお楽しみください♡
★参加費:¥3,000(リアル:定員10名)/¥2,000(オンライン:定員50名)
★お申込:本イベントの参加申込み、参加費支払い等についてはイベント管理システムPeatixを利用しています。
★申込締切:2020年10月9日(金)まで
★スケジュール
※ オンライン参加の皆さまには YouTube にて視聴していただきます。
※ イベント当日の4~5日前には視聴用URLを送らせていただきます。
10:30~10:40 主催者ごあいさつ
10:45~12:30 ドキュメンタリー映画『獄友』上映(監督:金聖雄/2018)
やっていないのに、殺人犯。人生のほとんどを獄中で過ごした男たち。彼らは言う。「不運だったけど、不幸ではない」。『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』『袴田巌 夢の間の世の中』に続く、シリーズ第3弾となる冤罪青春グラフィティ!
12:30~13:30 休憩(ランチタイム)
13:40~15:00 お話『まともがゆれる』(木ノ戸昌幸/NPO法人スウィング リジチョー)
芸術創作活動「オレたちひょうげん族」、清掃活動「ゴミコロリ」、京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」等々。 生き苦しい世の「まとも」を揺らし、社会のストライクゾーンを拡張する NPO 法人スウィングの実践!
15:00~15:30 休憩
15:30~18:00 トークセッション:偏見は知らないことから生まれるのはもう知ってるから、じゃあその次どうしよう?
たとえば冤罪被害者への、罪を犯した人への、障害者への、在日外国人への……。この社会にはたくさんの偏見があります が、「偏見は知らないことから生まれる」って本当にそれだけなんでしょうか? そしてその次へと進むためには、私たちひとりひとりに何ができるのでしょうか? 嘆いていても仕方なし! 具体的な一歩先を目指して試行錯誤する 150分です。
<スピーカー>
金聖雄(キム・ソンウン)
1963年大阪生まれ。ドキュメンタリー映画監督。『獄友』を含む冤罪3部作等これまで5本のドキュメンタリー映画を監督。他にもPR映像やテレビ番組なども手がける映像演出家。
菅原直美(すがわら・なおみ)
1978年北海道生まれ。弁護士。争いごとを表面的に解決するのではなく、その問題の本質を見つめ困っている人に必要なケアを提供する弁護スタイルで活動中。
林明奈(はやし・はるな)
1983年生まれ・神奈川県出身。きょうと・しゃばネット代表。2017年に出所者支援ネットワークとして、きょうと・しゃばネットを立ち上げ。NPO法人happiness(子ども食堂)副理事。
木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)
1977年生まれ・愛媛県出身。NPO法人スウィング代表。2006年にNPO法人スウィングを設立し、既存の仕事観、芸術観を揺るがす創造的実践を展開中。
★主催:NPO法人スウィング
★共催:東京SupAの会/しゃばカフェ
★企画協力:治療的司法研究会
★技術協力:片山達貴
★オンライン参加の皆さまへ <お申込前にお読みください!>
・YouTubeにて視聴していただきます。
・UDトークを使用し、映像の字幕機能などの情報保障に努めます。
・パソコン、スマホ、タブレット等が必要ですが、パソコンでの視聴を推奨しています。また、ガラケーでは視聴いただけません。 ・「ネットワーク環境が安定した場所」からご参加ください。
・「複数人での参加」はできません。お申込者本人のみ、ご参加・ご視聴いただけます。
・録音・録画・スクリーンショット等は禁止といたします。
・この他、ご不明な点がございましたらお気軽に下記までお問い合わせください。
NPO法人スウィング(担当:田中)
Tel:075-712-7930/Mail:tanaka-2019@swing-npo.com