ギリギリアウトをセーフに変える実験:リカちゃん植える編
スウィングでは「ギリギリアウトを狙う」という考え方を大切にしています。以下は拙著『まともがゆれる』(2019/朝日出版社)からの引用です。
スウィングのモットーのひとつに「ギリギリアウトを狙う」がある。だから始業時間はまちまちだし、眠くなったらお昼寝をすることが奨励されているし、特に理由もないのに休みを取る人には拍手が送られる。知らぬ間に僕たちの内面に巣くってしまった窮屈な許容範囲の、ちょっと外側に勇気を持って足を踏み入れ自己規制を解除し続けることで、かつてはアウトだったものが少しずつセーフに変わってゆき、「普通」や「まとも」や「当たり前」の幅が、言い換えれば「生きやすさ」の幅が広がってゆく。
つまり「ギリギリアウトを狙う」目的は「普通」や「まとも」や「当たり前」の幅、「生きやすさ」の幅を広げることにあります。
けれど完全にアウトな行為をしてしまっては社会に受け入れられず自己満足に終わってしまったり、最悪おまわりさんに捕まってしまうこともあるでしょう。
また同じギリギリであっても既存の価値観の枠内、想定の範囲内であるギリギリセーフでは結局のところ何も変わりません。
だからこそ「アウトかな? セーフかな? どちらかと言えばアウトだな!」というラインを狙う感覚と、その感覚にもとづく行動を勇気を持って継続することが大切だと考えています。
ではギリギリアウトを狙い、それを継続することでどのようにセーフに変えてゆくのか?
具体的な事例のひとつ、<リカちゃん植える編>を見てみましょう。
①玄関先に花や植物を育てはじめる
・無理せず育てやすいものからはじめましょう。
・ご近所さんに話しかけられる頻度が増えるでしょう。
★状況:すごくセーフ
②花や植物を育て続ける
・少しずつ花や植物の量を増やしましょう。
・ご近所さんとますます親密になり、あなたの家に花や植物がある風景が当たり前になるでしょう。
★状況:ものすごくセーフ
③頃合いを見てリカちゃんを植える
・最初は人目につかないように夜間に素早く植えるのがよいでしょう。
・リカちゃんに限らず<誰もが知ってるけど少し危ない感じがする何か>であればなんでもOKです。
★状況:アウト寄りのギリギリアウト
④少しずつリカちゃんの量を増やす
・ご近所さんから「なんで?」「これは何?」など色々な質問が投げかけられますが、素直に「可愛いから」と答えるのがよいでしょう。
・ただし真顔で言いすぎたりニヤニヤしすぎないように注意しましょう。
★状況:まだまだギリギリアウト
⑤花や植物やリカちゃんを育て続ける
・日に当たり続けてリカちゃんも変色し、日常の風景に溶けこんでゆくでしょう。
・ご近所さんたちの「この人だいじょうぶかしら?」という視線も気にならなくなるでしょう。
★状況:まだギリギリアウト
⑥さりげなくダルマを植える
・ご近所さんから「なんでリカちゃんじゃないの?」と尋ねられたらチャンス到来! 「なんでリカちゃんじゃないといけないの?」と逆質問してしまいましょう。
・ダルマに限らず<リカちゃんがまともであるかのような錯覚を生む存在感ある何か>であればなんでもOKです。
★状況:ややギリギリセーフ
⑥リカちゃんに誰も興味を示さなくなる
・さびしく感じるかもしれませんがリカちゃんが異物から当たり前に変わりつつある証です。
・ここまで来ればあともう一歩! 油断せず花や植物の世話を怠らないように注意しましょう。
★状況:ギリギリセーフ
⑦花とリカちゃんを共存させる
・新たな風景に再びご近所さんからの注目が集まりますが、「植えかえたの?」「可愛いね」なんて普通に言ってもらえたらもう安心です。
・「もう少しリカちゃんが多い方がいいんじゃない?」「そろそろドレスを替えてあげた方がいいと思う」。こんなアドバイスが飛び出したらもう最高! 心の中でリカちゃんと歓喜のビールかけをしちゃいましょう。
★状況:完全にセーフ
どうだったでしょうか?
これはすべて本当の話。
短くまとめましたが実際は丸5年を要しています。
要は慣れ! ……なんですが誰にとっても変化は恐ろしいもの。「権利」とか「自由」とか「共生」とか「アート」とか、普通に通じない言葉を使って押しつけがましくしてはいけません。
何事も急には変わらないから焦らないで、地道に時間をかけてギリギリアウトをセーフに変えることが大切です。
だいじょうぶ。
リカちゃんにはかなりの耐久性がありますから。