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人の見た目にイチイチうるさい
髪の毛も鼻毛もヒゲも、突然伸びるわけはない。
が、「ヒゲ伸びたねー」と出会う人出会う人に突然言われはじめたのは今年に入ってからだったろうか。
その頃、いろいろと自分なりのわけがあって(大したわけじゃない)、確かに僕のアゴヒゲの長さは過去最長に達していた。
「なんで急に?」と逆に尋ねてみると、「だってマスクからはみ出してるもん」説が圧倒的に多い。
いやいや、それだって急にはみ出したわけではなく、ゆっくりゆっくりそこそこの時間をかけて黒の面積を増やしていったわけだ。
……いや、そうか。白いマスクに対して真逆の黒いヒゲ。
白に対する黒の割合が上回った(ように見えた)とき、(別に見世物じゃないが)見る人に強い違和感が生じたのかもしれない。
確かにマスクよりデカい面積を占めるヒゲって見たことない。
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もうひとつ考えたのは、イエス・キリスト基準。
私たち日本人は、少なくとも僕たちの世代は、歴史の教科書などで<長い髭の人=イエス・キリスト>というイメージを強烈に植え付けられている。
ほとんど無意識に刷り込まれたイエス・キリスト基準に誰かのヒゲが達したとき、「ヒゲ伸びたねー」が ―やはりほとんど無意識に― 発動するんじゃないだろうか。それは「あれ? そのヒゲ、キリストより長くね? さすがに神こえたらやばくね?」という遠回しの警告なのかもしれない。ま、さすがにそこまで長くはなかったんだけど。
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しかしまあ、ともかく人の見た目にイチイチうるさい国だ(ちなみにほかの国のことは知らない)。
僕は目がものすごく過敏で、その昔光がまぶしくってまぶしくって気が狂いそうになったことがあり、色のついたメガネをかけはじめた。普通に目を開けることに苦痛を感じるんだから当時は本当につらかった。
が、ものすごく目を楽にしてくれるカラーレンズのメガネをかける人は少ない。自然に生えてくるものだというのにヒゲを伸ばす人も圧倒的に少ない。
数が少ないから、イチイチどうでもいい<人の見た目>にとやかく言う人が多いのだろうか。
だとしたらそれは、マイノリティがマジョリティを冷ややかに見る目線とほとんど一緒だと思う。
たとえば日々、何らかの障害がある人と関わる仕事をしているような人たちでさえ、まあ<少数派の見た目>に敏感で口うるさいこと。
ほっとけ、である。
いや、まずはその差別意識に是非とも気づくべきだ。
その上でほっとけ。
最近僕の周りでは少しずつ、少しずつカラーレンズのメガネをかける人が増えてきた。密かに、大いに喜んでいる。
人の目なんか気にせず、できればしんどいことはやめたほうがいい。